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「2.5次元」とフィギュアファンの意外な接点 成長・交流・そして沼
漫画やアニメ、ゲームなど2次元の作品を舞台化する「2.5次元」と呼ばれるジャンルが急成長しています。2018年の観客数は197演目で278万人(ぴあ総研)、新作も続々と上演され、その勢いは止まりません。実は、「2.5次元」には、こちらも熱狂的なファンがいるフィギュアスケートと重なる部分があります。「成長を見守る」「ファン同士のつながり」、そして愛するがゆえの「深い沼」。そんな「2.5次元」をフィギュアファンの視点から、のぞいてみました。
2.5次元舞台の先駆けといえば、2003年から上演されているミュージカル『テニスの王子様』、愛称は「テニミュ」です。
「週刊少年ジャンプ」に連載された漫画が原作で、主人公の中学生、越前リョーマが所属する青春学園中等部(青学〈せいがく〉)テニス部と他校との対戦を中心に物語が展開します。現実離れした「必殺技」も見どころです。
ミュージカルでは、原作に沿って1シーズンを数年に渡って上演します。現在は2014年から始まった3rdシーズンが上演されており、通算公演回数は1700回を超えています。出演者は新しくなっていくため、第何代目キャストと表します。1stシーズンからは城田優、斎藤工など人気俳優が輩出しています。
そんなミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 「全国大会 青学(せいがく)vs立海 前編」のゲネプロの現場を訪れました。
ゲネプロとは、ドイツ語の「ゲネラルプローベ」を略で、オペラやバレエで、ほぼ本番通りに行う最終舞台げいこのことです。
休憩を入れて約2時間半の舞台は、想像を超えた完成度と再現性の高さでした。
ユニフォーム姿の俳優たちが、ラケットを手に激しく動き回り、歌い、踊る。壇上にはテニスコートのネットが置かれ、場面ごとに位置が変わります。ボールは映像で表現され、俳優の動きとぴったり。ストーリーやせりふはもちろん、登場人物の特徴的な髪形、口調やオーラも忠実に再現しています。まるで本当に漫画の世界から飛び出してきたかのようです。
演技を終えた俳優たちは汗だくです。それでも爽やかな笑顔で観客の拍手に応えます。
この「なりきり感」、フィギュアスケートも同じです。
例えば、「ロミオとジュリエット」や「オペラ座の怪人」の登場人物になりきって演じる。その中で高難度の4回転ジャンプやステップをこなす。
10年バンクーバー五輪で銅メダルを獲得した高橋大輔選手は、フリーで映画「道」のテーマ曲に合わせ、その世界観を見事に表現しました。
演技後、力を出し尽くした選手たちの顔に汗が滴る。そして笑顔で観客にあいさつをする。リンク脇で得点を待つ「キス・アンド・クライ」では嬉し涙、悔し涙を流し、コーチや仲間と抱き合う。そんな姿にファンは感動します。
「2.5次元」の舞台を取材しているライターの広瀬有希さんは、「キャストが稽古を重ね、歌やダンスがどんどんうまくなっていく、演技がうまくなっていく、役を自分のものとして一体化していく。成長し、変わっていくのを目にするのがとても楽しいんです」と話します。
ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 「全国大会 青学(せいがく)vs立海 前編」は62公演もあります。ファンは何度も公演に足を運び、俳優たちの成長を見守ります。
お気に入りの「2.5次元」俳優を発見すると、他の舞台にも足を運ぶようになります。そして、気づけば何年も見続けている。その俳優がテレビドラマや映画で活躍するようになれば喜びもひとしおです。
フィギュアスケートでも、ジュニア時代から応援していた選手がシニアに上がって活躍するうれしさは格別です。4回転ジャンプが跳べるようになった、スピンのレベルが上がったなど、ファンは試合を重ねるたびに成長を楽しみにしています。
「2.5次元」でもフィギュアスケートでも、ファン同士のつながりがあります。
ファン同士が集い、お互いのファンをリスペクトし合い、舞台や俳優について語り合う。とくに「テニミュ」では、ファン同士のコミュニケーションのことを「テニミュケーション」といいます。
ゲネプロの日、手塚 国光役の青木 瞭さんは「『テニミュケーション』という言葉があるくらい、お客さんの仲が深まっていく。明るい世界を作り出すのはキャストとしてもうれしい」と語っています。
フィギュアスケートでも、試合を終えると、会場付近のカフェやバーで、ファン同士がその日の演技や得点について数時間にわたって振り返るのは恒例。選手のパフォーマンスや人柄の素晴らしさを称え、ときに改善点を出し合う。引退や欠場、悔しい結果になったときは慰め合います。
「2.5次元沼」という言葉があります。「2.5次元」の俳優にハマってしまうことを指します。お目当ての俳優や舞台を求めて追っかける。お金も時間もいくらつぎ込んでも足りません。
チケット代に加え、ホテル代や新幹線代といった遠征費、パンフレットやブロマイド、グッズの費用もかかります。人気の公演はチケットを手に入れるのさえ一苦労です。
ファンは、稽古場や舞台裏の映像を収録したDVDやブルーレイ(通称「円盤」)を購入し、それを何度もリピートします。舞台では見られない俳優の素顔が見られるからです。
また、ブロマイドは3枚以上買う人が多いと言われています。推している俳優を広める「布教用」、自分が愛でるための「観賞用」、大切にしまっておく「保存用」があるそうです。
実は、フィギュアスケートにも沼があります。
お気に入りの選手を応援するために国内外に「遠征」する。観戦費を捻出するために働き、休みを調整する。雑誌、テレビ、ウェブのニュース、選手やファンのSNSの情報をかき集める。記事をスクラップしては読み返し、過去の映像は何度もリピートしています。
最近は「逆2.5次元」という現象も出てきています。舞台を「原作」とし、そこから漫画やアニメに展開していくことです。
2017年、ネルケプランニングによる「錆色のアーマ」プロジェクトが始まりました。戦国時代、天下統一を目指す男たちを題材にした舞台で、佐藤大樹(EXILE / FANTASTICS from EXILE TRIBE) 、増田俊樹がW主演を務めました。2019年1月から「月刊コミックジーン」(KADOKAWA)でコミカライズの連載が始まり、アニメ化も決定。6月には新作の舞台が上演されました。
フィギュアスケートでは、絵に描いたような美しい演技、まるで漫画やアニメの世界にあるようなストーリーから、「2.5次元」というワードがファンの間で飛び交います。
その代表が羽生結弦選手です。高難度で美しい4回転ジャンプを跳び、世界最高得点を何度も更新。それだけではなく、東日本大震災を経験し、けがを乗り越え、五輪で2大会連続金メダルを獲得するというストーリーも持っています。
Twitter上では、「存在が2.5次元」「2次元から出てきたみたい」「現実がアニメを超えた」「マンガのようなセリフを現実にする男、羽生結弦。まさに羽生ゾーン」といった称賛のコメントが上がっています。また、ファンたちが描いた羽生選手のイラストがいくつも投稿されています
素晴らしいもの、美しいものには称賛と愛を注ぎたい。ハマったら抜け出せないほどの魅力がある。それは、2.5次元舞台もフィギュアスケートも同じかもしれません。
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