話題
三菱パジェロ、寂しい終幕の理由 3台乗り継ぐ熱烈ファンは復活望む
また一台、平成初めのバブル期を象徴する名車が姿を消す。三菱自動車が看板RV「パジェロ」の国内向け生産を8月に終える。福島市内で見つけた初代ロングボディーの極上中古車に触れながら、パジェロの寂しい終幕の理由を考えた。
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また一台、平成初めのバブル期を象徴する名車が姿を消す。三菱自動車が看板RV「パジェロ」の国内向け生産を8月に終える。福島市内で見つけた初代ロングボディーの極上中古車に触れながら、パジェロの寂しい終幕の理由を考えた。
また一台、平成初めのバブル期を象徴する名車が姿を消す。三菱自動車が看板RV「パジェロ」の国内向け生産を8月に終える。福島市内で見つけた初代ロングボディーの極上中古車に触れながら、パジェロの寂しい終幕の理由を考えた。(北林慎也)
福島市にある中古車店「四駆工房」。
トヨタ・ランドクルーザーにハイラックス、日産サファリ、いすゞ・ビッグホーン――。店名の通り、国産の硬派なRV四駆が並ぶ。
でっかいタイヤに高い車高といったワイルドなディテールの非日常感が若い男女に受けて、空前絶後のRVブームが訪れた90年代。四駆工房がそろえるのは、そんな一世を風靡(ふうび)した懐かしいクルマたちだ。
なかでも、ひときわ武骨で異質な存在感を放つのが、三菱の初代パジェロ。フルモデルチェンジ間際の1990年式、最終型のロングボディーだ。
フロントガラス上部にはデコトラ風の大きな庇(ひさし)。フロントグリルをカンガルーバーがぐるりと覆い、その中央には大径のフォグランプが鎮座する。
野生動物の群れをかき分けて進むかのような、暑苦しいほどのマッチョな装い。
これらRVブームを象徴するドレスアップパーツは、ほぼ絶滅した。歩行者の衝突安全性を高めるため、クルマの過剰な突起物は許容されなくなった。
だが、初代パジェロのスタイリング自体は機能的かつ現代的。
定規を当てて図面を引いたかのような直線基調のデザインはシンプルながら適度に力強く、メルセデス・ベンツGクラスやスズキの新型ジムニーといった今どきの人気クロカンにも通じるモダンなたたずまいだ。
車検切れのため、店舗の敷地内で駐車場所を移動させる助手席に乗せてもらった。
5ナンバーサイズのスクエアな車体は見切りが良く、目線も高いためボンネットの長さが視界の妨げにならない。
今の水準よりもはるかに狭い車幅のおかげで、車庫入れも手間取らない。
燃費は悪いが耐久性に優れるという、油圧式4速オートマチックの挙動もなめらか。
そして何より驚いたのが、エンジンの静粛性だ。
昔のトラックのうるさいディーゼルサウンドを想像して乗ると拍子抜けする。現代のクルマに比べて遮音に劣るはずの室内に入ってくるノイズや振動は、思いのほか小さい。
走行距離は16.5万キロ。一般的なクルマだと過走行車扱いだが、ウィークポイントの燃料ポンプ交換など、整備の行き届いた2.5リッターのインタークーラー付きディーゼルターボは快調だ。
ハンドルを握る四駆工房の整備士・吉田潤さん(29)も「この時代のディーゼルはとにかく丈夫」と太鼓判を押す。
往時のRVをこよなく愛する吉田さんの愛車は、自身3台目となる2代目パジェロ(1991~1999年)。
19歳から各メーカーのRV10台を乗り継いだが、子どもの頃の憧れだった2代目パジェロがベストな一台だという。
これまで乗った3台すべて、2.8リッターのターボディーゼル。頑丈さと乗りやすさがその理由だ。
休日は他県までの長距離ドライブを楽しむ。トルクがあるディーゼル車は高速道路で速度を一定に保ちやすく、アクセルの微妙なオン/オフが必要なガソリン車よりも疲れないし快適だという。
2台目は20万キロまで乗って、今の3台目は10万キロ近く。まだまだ乗るつもりだ。
初代パジェロの登場は1982年。
米ウィリス・オーバーランド社のライセンス生産で本格四駆の「ジープ」を用意していた三菱が、ハードコアな野外レジャーや山間部での業務用途以外にも使える、ライトでカジュアルな都会派四駆として売り出した。
この商品コンセプトが、三菱の思惑を超える大ヒットにつながる。
耐久消費財需要が一巡した80年代。肥大する貿易黒字と内需拡大策を背景に、新たな豊かさの象徴として若者のレジャーや旺盛なデート消費が社会現象化する。
ジープと乗用車のいいとこ取り四駆のパジェロは彼らにとって、タフでワイルドなライフスタイルを演出する格好の舞台装置となった。
そしてお茶の間には、三菱自動車提供のバラエティー番組「関口宏の東京フレンドパーク」(TBS系)のクライマックス、ゲストタレントによるダーツゲームでスタジオ観覧客が発する「パジェロ!」「パジェロ!」の掛け声でおなじみだった。
かくして三菱のドル箱となったパジェロ。
ピークの92年度には国内で年間8万台以上売れたが、現行型である4代目の国内販売は近年、年間1千台前後にとどまっていた。
低迷の理由の一つは、国内マーケットの嗜好(しこう)の変化だろう。
バブル崩壊後しばらくして、売れ筋はミニバンと軽ハイトワゴンに収斂(しゅうれん)する。
休日に遠出してレジャーを楽しむ余裕は無くなり、最小限の燃費で最大限の室内空間が確保できるリーズナブルなクルマが求められた。
過剰な悪路走破性はもういらない。景気テコ入れの公共工事で田舎道の舗装とバイパス延伸は進み、平らな道で郊外のショッピングモールまで行き来できれば十分だ。
モデルチェンジのたびに高くなる価格も、不況の時代には足かせだった。
1982年の発売当時、初代パジェロの最上級グレードであるメタルトップの2300ディーゼルターボの東京地区メーカー希望小売価格は189万円。今年4月に発表された700台限定最終モデルのメーカー希望小売価格は、8%の消費税込みで453万円だ。
そして何より、ラインナップを維持できなかった原因と責任はメーカー自身にある。
1990年代後半から相次いで発覚した三菱自動車の不祥事がそれだ。
米国法人でのセクハラ訴訟や総会屋への利益供与事件、複数回にわたるリコール隠し――。
そのたびごとに変わる経営トップと筆頭株主、それに振り回されるように再建計画は二転三転した。
初代パジェロばかり乗り継ぐ熱心な三菱ファンの顧客もいるという四駆工房でも、リコール隠し発覚のたびに「このまま乗ってて大丈夫か?」と不安の声が寄せられたという。
不況に顧客離れが追い打ちをかけ、製造拠点とラインナップの整理が進んでいった。
軽自動車のパジェロミニや小型車のパジェロイオといった弟分や、世界中の走り屋たちに人気だった「ランエボ」ことランサーエボリューションの生産を打ち切り、後継車の開発を断念。そして今回、歩行者保護のための法規制に対応する開発投資の回収が難しいとして、パジェロの国内撤退を決めた。
一方この間、細分化するニーズを捉えて三菱のシェアを奪ったのはトヨタだろう。
四駆工房の在庫車を見回すだけでも、80系以降の高級路線のランドクルーザーのほか、米国で定番のピックアップトラック「ハイラックス」、本格クロカンとして中東でも根強い人気のランドクルーザープラドなど、品ぞろえは多彩だ。
さらに近年は、乗用車プラットフォームのSUV「ハリアー」「RAV4」「C-HR」など、街乗り優先の前輪駆動ベース四駆も大中小と取りそろえ、セダンからの乗り換え需要も取り込む。
国内需要の先細りで車種統廃合や系列販売店の整理に着手しつつあるトヨタだが、硬軟織り交ぜた手堅いラインナップを見るにつけ、それを維持する堅実な経営と顧客視点の大切さを痛感させられる。
それでも、三菱の根強いファンはいる。
2代目パジェロを大事に乗り続ける四駆工房の整備士・吉田さんは、「三菱と言えばランエボとパジェロ。どっちもなくなるのは寂しい」とパジェロの国内撤退を惜しむ。
手頃な本格クロカンとして人気が再燃したスズキのジムニーを引き合いに、吉田さんは具体的な提言をしてくれた。
「初代パジェロぐらいの手ごろな大きさで、角ばったデザインの本格クロカン四駆を出してほしい」
パジェロの国内復活と三菱の再生を待ち焦がれる、同じ思いのファンは少なくないはずだ。
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