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人口少なめ、雑誌も遅い……鳥取に専用絵文字「ただ、鳥だな」の境地
7月17日の「世界絵文字デー」に合わせ、Twitter上に「#鳥取」「#鳥取県」などのキーワードを入力すると、「おしどり」の絵文字が出現する粋なはからいがあった。鳥つながりで鳥取県とコラボしたTwitter Japan社の企画だという。見渡せばいたるところに「鳥」がいる鳥取。人口は少なめで、雑誌の発売日もちょっと遅い。そんな鳥取で教わったのは「ただ、鳥だな」と思えばたいていのことは許せる心の境地だった。(朝日新聞鳥取総局記者・斉藤智子)
誰もが知っている動物が名前に含まれる都道府県といえば、鳥取県のほかに、「鹿児島」の鹿、「熊本」の熊、「群馬」の馬。鳥取以外の3県の現在の状況には詳しくないが、鳥取の場合、鳥にちなんで命名された施設や団体、企画は、枚挙にいとまがない。
鳥取県を本拠地とするサッカーチーム「ガイナーレ鳥取」のホームスタジアムの一つは、鳥取市の「とりぎんバードスタジアム」。地元の鳥取銀行が命名権を取得する前から「バードスタジアム」の愛称で親しまれ、屋根は「はばたく鳥」をイメージして設計されたという。
「ガイナーレ鳥取」は2014年シーズンからJ3に降格し、今季は第17節まで終えて5位で4連勝中。ファンが願うのはもちろん、J2への飛翔だ。
車をとめて県内の街を歩けば、廃校を拠点に演劇活動を展開する「鳥の劇場」や、駅前の屋根付き空間「バード・ハット」をはじめ、合唱団「レインボー・バード」、「ギャラリー鳥たちのいえ」、コミュニティースペース「鳥の杜」……と、鳥が目白押し。
鳥をキーワードに想像を巡らせれば、ちょっとだけ優しくもなれる。国道9号を、鳥取県中部から東部の鳥取市へと東に向けて車で走っている時のこと。鳥取市が近づき、「京都246km」という標識を通り過ぎる。
さらに東に進み、標識を見ると、京都まで230kmを切っている。鳥取に赴任した4年余り前は、標識を見るたび、鳥取って思った以上に京都に近かったのか、いや、でもかなり遠くからカウントダウンしすぎじゃないか? と印象深かった。
以来、運転するたびに京都へのカウントダウンを繰り返し、何度繰り返したかわからなくなって標識にも慣れたある日、運転しながら、カウントダウンの標識を道しるべに京都まで飛んでいく鳥を、ふと想像した。かなり、けなげで可愛い。
それで気づいた。
たとえば、ただでさえ物流の問題で遅かった雑誌の入荷が4月からさらに遅くなったのも、仕方ない。
鳥だって遠くに飛ぶのは時間がかかるし、遅くなったのは鳥取だけじゃなくて中国・九州地方全般だし。
鳥に思いを巡らせて、ワンクッション置くのがコツだ。
鳥だし、鳥ならば、鳥だけど、鳥だって、でも、やっぱり、どうなんだと思うことはいろいろある。参院選の合区も、どうなんだと思うことの一つ。
前回2016年の参院選から、東西約120kmの鳥取県と、東西約230kmの島根県が定数1の一つの細長い選挙区となり、今回もそれが続いている。住む地域によって有権者の一票の価値が違うのは不平等だという「一票の格差」を是正するとして、人口の少ない鳥取・島根、徳島・高知でとりいれられた。
数の正しさについて、子どもたちに改めて教えられたことがあった。
鳥取県には、自然を活動フィールドにする「森のようちえん」が複数ある。その一つ、西日本最大級のブナ林が広がる大山(だいせん)周辺を拠点にする「森のようちえんmichikusa」を取材した時のこと。
フキノトウを見つけたり、大山の北壁に「ヤッホー」と叫んだり、楽しく遊んで、さて、帰ろうという時、帰り道のルートで意見が二つに分かれた。
どちらのルートにするか話し合う子どもたちを見守る保育士さんたち。足湯がある方の一方のルートがいい、と言ったのは女の子1人だけ。たくさんの子が支持しているもう一方のルートになるんだろうなと思いながら、私も見守っていた。
でも、話し合って子どもたちが選んだのは、足湯ルートだった。話し合って、多数の意見が通ることも、通らないことも、少数の意見が通ることも、通らないこともある、数は、決め手ではない。子どもたちの話し合いが忘れられないし、今、国会のニュースを見ていてよくそう思う。
地図を見るのが好きだ。中でも、飛ぶ鳥が地上を見下ろしたように描いた「鳥瞰図」がいい。
山が海に迫り、いくつもの谷筋に沿って集落が広がる鳥取県。鳥の目で見れば、全体の中の位置が確かめられるだけでなく、集落にぐぐっとフォーカスすることもできるだろう。
谷筋の集落の日常を、全体に埋もれさせずに、鳥の目で見られればいいと思う。
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