連載
#19 現場から考える安保
最新イージス艦、なぜ「はぐろ」 地名・動物…自衛艦命名の謎に迫る
海上自衛隊がミサイル防衛のためイージス護衛艦を増やす目標に掲げる8隻目の命名・進水式が、7月中旬に横浜港でありました。お値段1734億円の艦名は、「はぐろ」。私たちがほとんど関われない、海自の様々な艦艇の命名の謎に迫ってみます。(朝日新聞編集委員・藤田直央)
きょう横浜港であった8隻目の海自 #イージス 艦命名式。防衛相の命名書が代読され、艦名「はぐろ」が発表されました。イージス艦には山の名がついており、今回は修験道で知られる山形県の羽黒山からきています。 pic.twitter.com/gaxskZ7Pnw
— 藤田直央 (@naotakafujita) 2019年7月17日
「はぐろ」の命名・進水式は7月17日、梅雨の晴れ間の昼下がり、横浜港に臨む造船会社ジャパン・マリンユナイテッドの磯子工場でありました。防衛相の命名書が読み上げられ、艦の側面にある掲示板にかかった紅白の幕がするすると開き、艦名が現れました。「はぐろ」は信仰の山・出羽三山のひとつ、羽黒山(山形県鶴岡市)からきています。
自衛艦の命名は、1960年に防衛庁長官(いまの防衛相)が出した海自の訓令がもとになっています。「自衛艦の名称付与は進水する時に防衛相が行う」と書かれており、それでこのように防衛相による命名と進水が一体になった式典になるのです。
その訓令には「自衛艦の名称等を付与する標準」も、22種類の艦艇ごとにずらりと示されています。読んでみると――。
火力の強い護衛艦は「天気・気象、山岳、河川、地方の名」とあります。そのうち、「はぐろ」のようなイージス艦には山の名、空母化が取りざたされる「いずも」のようなヘリ搭載型には昔の各地の国名がつけられています。「むらさめ」という、天気であっても江戸時代の小説に出てくる名刀を思わせる名もあります。
輸送艦は「半島(岬を含む)の名」で「おおすみ」などが、機雷を処理する掃海艦艇は「島の名、海峡の名」で「あわじ」や「えのしま」などがあります。対艦ミサイルを備え小回りの利くミサイル艇は「鳥の名、木の名、草の名」で、現有の6隻は「はやぶさ」「おおたか」など全て猛禽(もう・きん)類にちなむ名です。
興味深いのが潜水艦で、「海象、水中動物の名、ずい祥動物の名」です。「水中動物の名」が最も「体を表す」ように思えますが、いま20隻の海自の潜水艦にそうした名はありません。「おやしお」など海象の「潮」にあたる「○○しお」が9隻と、新しい型で「そうりゅう」など「竜」を使った「○○りゅう」が11隻です。
つまり「竜」が「ずい祥動物」というわけですが、一体どんな生き物でしょう。「ずい祥」は「瑞祥」と書き、めでたいことの兆しという意味です。「竜」は旧海軍で戦闘機を積んだ空母の名にも見られます。「竜」が空を飛ぶこととの関係もあったようですが、それが今は海に潜る潜水艦に使われているのです。
軍事ジャーナリストの田岡俊次さんに聞くと、1960年代から防衛担当記者だった朝日新聞当時を振り返り、「潜水艦は当初『○○しお』と名付けることにしていたが数が増え、『潮』を使う言葉はそんなにないので艦名を考える担当の将校が困っていた」と話してくれました。
その点、「竜」はおなじみの空想の動物だけに「○○りゅう」という言葉は割とあります。ただ、いま政府が潜水艦をさらに増やす背景には、中国の海洋進出で防衛の重心を南西諸島の方へ移していることがあります。それに伴う潜水艦の命名を中国伝来の「竜」に頼るというのは、何とも皮肉です。
調べるうちに疑問がもっとわいてきました。「つづく」ということで続編もご覧下さい。
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