グルメ
もう「歯磨き粉」呼ばわりはさせない! チョコミント味苦難の歴史
日を追うごとに暑さが増し、何かひんやりしたものが食べたいなぁと「涼」を求めることが多くなってきました。アイス、クッキー、パン、飲み物……。店頭に並ぶのは、夏季限定のチョコミント味の商品。そういえばここ数年、スーパーやコンビニで、このさわやかな水色のパッケージをよく見かけるようになりました。小さい頃からチョコミントが好きで、今でもアイスクリーム屋に行けば、必ずチョコミントを注文。でも、家族からは「歯磨き粉みたいでおいしくない」「人間の食べるものじゃない」と不評で、肩身の狭い思いをしてきました。苦手な人も多いはずなのに、どうして突然、こんなにブームになったのでしょうか。(朝日新聞西部報道センター記者・城真弓)
もともと日本でチョコミントフレーバーが誕生したのは、サーティーワンアイスクリームが東京・目黒に1号店をオープンさせた1974年と言われています。当時、アイスといえばバニラやチョコレート、ストロベリーくらいしかありませんでしたが、32種類も販売を始めたことで、話題になったそうです。
「チョコレートミント」は当時からスタンダードフレーバーですが、「ミント」という言葉が広く知られておらず、「薄荷(ハッカ)」と注釈をつけて販売していたそうです。珍しさもあり、初登場から2年後の1976年には一番人気に。その後も安定して上位にランクインしているそうです。同社によると、最近の工場からの出荷も2016年は前の年に比べ9.3%伸び、2018年も5.5%増えたといいます。
通常はチョコミント味のない「ガリガリ君」(赤城乳業)や「クランキーアイスバー」(ロッテ)といった人気のアイスクリームも近年、数量や期間を限定して販売されています。
ブームはアイス業界だけではありません。
コンビニ大手ローソンは今年5月28日、オリジナルブランド「ローソンセレクト」から、チョコミントクランチ(税込み108円)、ミントクリームサンド(同)、チョコミント餅(税込み168円)の3商品を期間限定で販売。チョコミント商品を自社ブランドで発売するのは初めてのことだそうです。
広報担当者は「ここ数年、20~30代を中心に売れています。清涼感があり、気温の上昇とともに販売も上がるため、夏に向けて販売を開始しました」と話しています。
同じコンビニではファミリーマートが3月に「チョコミントドリンク」を販売。キッコーマンも昨年、チョコミント味の豆乳飲料を販売開始するなど、飲料業界や菓子メーカーにも広がっています。
何かブームになるきっかけはあったのでしょうか。取材を進めると、あるテレビ番組の存在が浮上しました。TBS系の「マツコの知らない世界」。マツコ・デラックスさんがゲストの専門家とともに日常に潜む「知らない世界」を探求する番組で2017年8月にチョコミント特集が組まれたことで、火がついたのではないかという話を聞きました。
サーティーワンでも、常時販売する21種の中でチョコミントは年間6位でしたが、17年8月の出荷は2位に急浮上したそうです。
番組にチョコミント好きゲストとして出演した大学生、うしくろさん(21)に話を聞いてみました。
◇
――チョコミントブームについてどう思いますか?
「ブームは率直にすごくうれしいです。いっぱい売っているのを見るとうれしくなります。チョコミントの色も好きなので」。
――チョコミントの魅力って何ですか?
「甘いのにスースー爽やかな味が一番の魅力です」
――どうしてこんなにブームがきているんだと思いますか?
「味のギャップが受けているのかなと思います。あとはきれいなパステルカラーの水色。インスタ映えするんだと思います」
◇
うしくろさんのチョコミント歴は長く、親の影響で幼少期にはすでに好きだったそうです。
「家族で外食した後はよくサーティーワンアイスクリームに寄って、チョコミントを食べていました」
そんな、うしくろさん、今や商品開発にも関わっています。
2015年から自身のインスタグラムで食べたり買ったりしたチョコミント商品の写真を投稿したところ、フォロワーが徐々に増え、チョコミント好きの「チョコミン党」の中で知られる存在に。
今ではツイッターやブログといったSNS、テレビや雑誌などにも登場して、チョコミントの魅力を発信し続けています。
森永製菓は昨年から、自社のチョコミント商品の販促キャンペーンにうしくろさんを起用。2018年4~6月の関連商品の売り上げは前年比の237%。今年はさらに、うしくろさん監修の商品も販売しています。
私の家族と同じようにチョコミントが苦手な人は最近になってもいるようで、インターネットの検索サイトで「チョコミント」と入力すると、関連して「歯磨き粉」や「まずい」といった言葉が出てきます。
「人気とはいえ、ミルクチョコレートと比べると、チョコミントは人によって好き嫌いが激しくわかれています」と、森永製菓の広報担当者。同社ではチョコミントが苦手な人にも手にとってもらえるよう、ミントの葉をあしらった「ミントレベル」をパッケージに掲載しています。レベル1は「ミント初心者でも楽しめる爽やかさ」、レベル3は「ミント好きも満足の冷涼感」といった具合です。
チョコミントが苦手な人がチャレンジするのにもってこいの商品を、うしくろさんに聞いてみました。
「銀座コージーコーナーの『夏のミルクレープ(チョコミント)税込み453円』ですね。ミント感は控えめですが、チョコクレープの生地に青のミントクリームが重ねられていて、見た目がかわいいんです。見た目から入ってみるのもいいと思います」
チョコミント好きには、森永製菓の「ベイクミント味」、好きでも嫌いでもないけれど、食べたことがないという人には、価格が手ごろなローソンの「チョコミントクランチ」がおすすめだそうです。
日本にチョコミントをもたらしたサーティーワンは、このブームをどう見ているのでしょうか。
「今まで、特定のお客様のものだった『ミント』の垣根が取り払われ、トライアルも含めて潜在的需要を喚起するきっかけづくりになったことは、創業以来チョコレートミントを販売する弊社にとって、とてもありがたいことです」
取材をする前は、てっきり少数派だとばかり思っていましたが、世の中はむしろチョコミント推し? 店頭のチョコミントコーナーでお菓子を大人買いしながら、「いい時代になったな~」とほくそ笑みました。
インスタ映えの視点には驚きましたが、確かに夏にぴったりのきれいな水色で、「映え」るのも納得。SNSがブームを牽引するなんて、まさに今の時代ならではと感じます。
もしかしたら、本当はみんなチョコミントが好きなのに、好き嫌いがはっきり分かれているがゆえに、好きだと声を上げられず、うしくろさんのようなインフルエンサーの存在で少しずつカミングアウトできてきたのではないでしょうか。
チョコミン党が堂々と胸をはれる時代がようやくきたのかもしれません。今度、人からチョコミントが苦手と言われたら、言ってみたい。「今時珍しいね!」
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