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2019年07月04日

教員“定額働かせ放題”は「文科省の法律の解釈に問題」 学者に聞く


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給特法と先生の残業代について語る高橋哲・埼玉大准教授=2019年5月、さいたま市、牧内昇平撮影

給特法と先生の残業代について語る高橋哲・埼玉大准教授=2019年5月、さいたま市、牧内昇平撮影

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小学校の現役の先生が残業代を求める裁判を起こしました。「定額働かせ放題」とも言われている先生の過酷な働き方を変えるためですが、学校の先生には「給料の4%にあたる『教職調整額』を支給し、それ以外の残業代を支払わない」という、文部科学省がつくったルールがあります。「正直言って勝算は低いかな」と思っていたら、教育法学者の高橋哲さん(埼玉大准教授)が「文科省の法律の解釈に問題がある。法律を正しく読めば残業代は当然支払われるべきだ」と話してくれました。高橋さんに詳しく聞いてみました。(朝日新聞記者・牧内昇平)

「定額働かせ放題」なぜ?

ーー先生たちの働き方は「定額働かせ放題」とも言われています。教職調整額が一律で支給される代わりに、いくら長く働いても残業代が支払われないからです。なぜこんな仕組みになっているのか、教えて下さい。

「給特法」(公立学校教育職員の給与等に関する特別措置法)という法律があるからです。給特法は先生の時間外勤務を4つの特殊な業務に限っています。生徒実習、学校行事、職員会議、災害時の対応の4つです。「限定4項目」と言われています。

実際には、この4項目以外にも様々な時間外勤務をしていますが、文科省はこれらを「先生の自発的行為」と位置づけています。そして賃金については、自発的行為も含めて教職調整額でカバーしている、というのが文科省の見解です。私が「包括解釈」と呼んでいる考え方です。

ーーテストの採点とかトラブル対応とか、先生たちはいろいろな仕事で夜遅くまで働いていますよね。そうした仕事が「自発的行為」とみなされるのは納得がいきません。

その通りです。本来ならば、4%の教職調整額がカバーしているのは「限定4項目」の仕事だけだと考えるべきです。そして、4項目以外の仕事についても正当な労働と評価し、この分については別に残業代を支払う。こうすべきです。お金の問題だけではありません。先生の長時間労働を防ぐのにも効果があります。

教員の時間外勤務の考え方=2018年12月

教員の時間外勤務の考え方=2018年12月

出典: 朝日新聞

残業代、仕事減らす動機に

ーー残業代を支払うようにすれば、先生の働きすぎを防げますか?

効果は大きいです。残業代には通常の賃金より高い割増賃金を支払う義務がありますので、学校が先生の仕事を減らす動機付けになります。『高い残業代を払うより、もう1人雇った方が安上がりだ』ということで教員増にもつながるでしょう。さらに、なによりも大切なのは、残業をさせるためには「36協定」の締結が必要な点です。

ーー36協定とはなんですか?

労働者を合意のない残業、時間外勤務から守るためのものです。労働基準法(労基法)は1日8時間労働を基本としています。例外的に8時間以上働く場合は、会社と労働者の代表が協定を結び、役所に届け出る必要があります。労基法の36条で義務づけられているため、「36(サブロク)協定」と呼ばれています。

ーー先生は36協定を結んでいないのでしょうか?

公立学校の先生は36協定を結んでいません。文科省が「必要ない」という考えだからです。まず、限定4項目の仕事は、労基法33条3項の「公務のために臨時の必要がある場合」の時間外勤務と位置づけられていて、36協定を結ばなくてもよいとされています。次に、4項目以外の仕事ですが、これは文科省の考えで言えば「自発的行為」ですから、やはり36協定の対象ではない。したがって36協定は必要ない、というのが文科省の見解です。

教育法を研究している高橋さん。米国の先生の働き方などにも詳しい=2019年5月、さいたま市、牧内昇平撮影

教育法を研究している高橋さん。米国の先生の働き方などにも詳しい=2019年5月、さいたま市、牧内昇平撮影

学校の先生も36協定を

ーー限定4項目以外の時間外勤務を正当な労働と位置づければ、36協定を結ぶ必要が生じますか?

そう考えています。そして36協定を結ぶ際には、残業時間の上限を決めなければなりません。現在のような無定量の時間外勤務は許されなくなります。

なおかつ、いわゆる「働き方改革」法が成立し、民間企業は労使で36協定を結んだとしても残業できる時間に上限が設けられました。「1カ月で最長100時間、6カ月平均で80時間」という設定に批判もあると思いますが、私は一定の効果はあると思っています。

学校の先生も36協定を結べば、この上限規制が適用されます。現在は36協定がないため、民間企業に義務づけられた上限規制は、学校の先生に対してはガイドライン、努力目標として提示されているだけです。

民間企業は労使で36協定を結んだとしても残業できる時間に上限が設けられた

民間企業は労使で36協定を結んだとしても残業できる時間に上限が設けられた

出典: 朝日新聞

人事院の「解釈」が今でも

ーー給特法の解釈が変われば、先生の働きすぎを防ぐ効果も期待できるわけですね。個人的には高橋さんの意見に賛同しますが、文科省が長年堅持してきた「包括解釈」が変わる余地はあるのでしょうか。

給特法の歴史を掘り起こしてみましょう。この法律ができた1971年、文部省は「施行通達」という文書を出しています。政府による給特法の公式な考え方をまとめた文書です。この文書の中には「包括解釈」の考え方が明記されていません。

ーーえっ、そうなんですか?

この考え方を最初に示したのは、人事院です。給特法案が国会で審議される際に、人事院はこの法律について「意見の申出に関する説明」という文書を作っています。その中で「包括解釈」の考え方が出てきます。

ところが、文部省は正式な施行通達にこの考え方を明記しませんでした。この事実は、当時の文部省が包括解釈をとることに慎重であったことを示していると、私は考えています。

一方で、施行通達には明記されなかったにもかかわらず、その後文部省筋が一般図書として発行した給特法の解説書の中には包括解釈が盛り込まれました。なぜそうなったのか、詳細については今後明らかにされる必要があります。

ーーつまり、どういうことですか?

いま定着している「包括解釈」という考え方は、教育の責任官庁である文部省ではなく、第三者的立場にあった人事院による見解の一つに過ぎないということです。それが十分な議論を経ないまま、教育現場に定着してしまったのです。

人事院は国家公務員の給与水準に意見する「人事院勧告」で有名ですが、「意見の申出に関する説明」は「勧告」のように法的根拠が明確でなく、人事院が書いた参考文書に過ぎません。必ずしも確定された行政解釈ではなかったわけです。

実際、1971年に給特法が制定された直後にも、「先生たちは限定4項目以外の業務について36協定を結び、残業代が支給されるべきだ」と主張する研究者はいました。

ーーなぜ、これまで議論が進まなかったのでしょうか?

平均的に言えば、先生がいまほど忙しくなかったからです。1966年から67年にかけて文部省が教員勤務状況調査を行っています。そのとき、小学校の先生の時間外労働は1週間で2時間30分、中学校の先生は4時間弱でした。4%という教職調整額の数字が実態とそれほど矛盾していなかったのです。

ところが今は、小学校教諭の3割、中学校教諭の6割が過労死ラインを超えている時代です。法の運用が実態に見合わなくなった現実が、給特法の解釈問題を再燃させていると思います。

ーー「包括解釈」という考え方が生まれた経緯を聞いてみると、必ずしも変更不可能なものとも思えなくなりました。

どちらが正しい解釈なのかは、最終的に裁判によって決定されることです。現在、さいたま地裁で現役の先生が残業代訴訟を起こしています。こうした裁判が全国で起き、どれか一つでも勝訴すれば、世の中が変わるきっかけになると思います。

残業代を求めて裁判を起こした田中まさおさん(仮名、画面左)。小学校で4年生の学級担任を務めている=2019年5月、さいたま市、牧内昇平撮影

残業代を求めて裁判を起こした田中まさおさん(仮名、画面左)。小学校で4年生の学級担任を務めている=2019年5月、さいたま市、牧内昇平撮影

ーー司法の場に解決を求める、ということですね。

もちろん、必要なのは裁判だけではありません。大切なのは、先生たちが団結して自分たちの働き方や職場環境の問題に声を上げることです。

たとえば、ニューヨーク市の先生の労働時間は1日6時間20分とされています。これは、先生たちが学校側と団体交渉し、つかみとってきた成果です。一方、日本では長らく、先生が自分たちの働き方に意見を反映できなかった時代が続きました。これを克服すべきです。

労働時間だけでなく業務内容やクラスの規模まで、先生たちが学校や教育委員会と話し合い、意見を反映させる仕組みが必要です。

取材を終えて

「先生は聖職だ」という人がいます。たしかに子どもを教え育てるのはとても大切な仕事ですが、一方で一人ひとりの先生が労働者であることも事実です。労働者として雇い主(学校)と36協定を結び、正当な残業代をもらう。先生の過労死が相次いでいる現状を考えると、こういった改革も必要ではないでしょうか。

埼玉大の高橋哲准教授へのインタビューで、先生の働き方のネックになっている給特法について、できた頃の経緯が少し分かりました。現役の先生の裁判を一つのきっかけにして、この法律の是非をめぐる議論がさらに活発になることを期待しています。

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