地元
垂直な壁をバイクが駆け回る! 北海道の神業「オートバイサーカス」
海外では「WALL OF DEATH」と呼ばれているという……。
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海外では「WALL OF DEATH」と呼ばれているという……。
北海道の夏祭り。立ち並ぶ露店を通り抜けると、お化け屋敷がありました。ほろ酔い気分で入ろうか迷っていると、隣から威勢のいい呼び込みが聞こえてきました。「巨大な樽の中でオートバイが爆走します」。想像がつかず、頭に「?」が並びます。入場料は大人700円。ちょっと高いかなと感じましたが、興味の方が先にたちました。おそるおそる巨大な円形テントに入ってみると、待っていたのはミラクルな世界。海外では「WALL OF DEATH」と呼ばれるその神業を、日本で見ることができるのは、北海道と青森だけです。
テントの中にあるのは、直径9メートル、高さ4メートルの巨大な木の桶。垂直な壁と床の境目にあたる場所には、すのこのような板が斜め45度に敷き詰められています。
観客は、桶の縁の外側に板敷きの坂を登って上がり、桶の中を見下ろすような構造になっています。
400ccのオートバイが1台、桶の中に入ってきました。エンジンをふかし、斜めの板を勢いよく1周したかと思うと、一気に垂直の壁を駆け上りました。
重力に逆らい、グルングルンと桶の中を走り回ります。時速約40キロ。1周を約3秒で回ってしまいます。
オートバイが自分に近づくたびに、爆音が体を包み、桶と足元がガタガタと大きく振動します。
時折、オートバイのタイヤが、桶の縁から60~70センチほどのところまで迫ってきます。そのたびに思わず体をのけぞらせてしまいました。心臓はもう、バクバクです。
そのうち、乗り手は両手を離して走り出しました。それどころか、バイクの上であぐらをかき、両手を離す荒技も。垂直な壁だというのに……。
さらには日の丸の旗を両手で掲げたかと思うと、頭からかぶり、目隠し状態で走る技まで飛び出しました。
手慣れた観客が、千円札を桶の中に差し出します。すると、オートバイは2、3周したかと思うと、縁までググッと近づき、ハンドルから離した右手でサッと取っていきました。見守っていた人たちから、歓声がワッとあがります。
自分もやってみました。千円札の縁を持って、差し出す。
中は風が渦巻いていいます。乗り手と目が合いました。まだ来ないかな、と思っていたら、オートバイが桶の中をグルングルンと走り、一気に自分目指して駆け上がってきました。
思わず、取られる前に千円札を落としてしまいました。あ~~~~っ。
悔しくて、再度挑戦。今度は、うまく取られることができました。が、あっと言う間の出来事。自分の記憶の中には、その瞬間の映像が残っていません。ただただ、体に吹き付けた風の感覚だけが残っていました。
ショーは、7~8分。思わず歓声を上げる自分がいました。700円は安い!!!
これが、北海道旭川支局に赴任して1年目の昨年6月に出会ったオートバイサーカスでした。
こんなすごいことをしているのは、どんな人なのか。1年後の6月上旬。再び、旭川市の護国神社のお祭りにやってきた「ワールドオートバイサーカス」に取材を申し込みました。
オートバイに乗っているのは、代表の藤田昭範さん(45)。札幌市出身の藤田さんは、かつて札幌に拠点があったキグレサーカス(現在は廃業)の裏方バイトをしたのがきっかけで、高校卒業後、キグレサーカスに入団しました。
そこで覚えたのが、空中ブランコとオートバイの曲芸。この時のオートバイ芸は、おりのような大きな鉄球の中を走る技でした。
一方で、北海道には、「ホール」と呼ばれる巨大桶を使ったオートバイサーカスが、戦前からいくつかあったといいます。1984(昭和59)年に公開された、映画「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎」でも、根室での一場面に登場しています。
藤田さんは約10年前、まだ活動していたオートバイサーカスを引き継ぎました。
「鉄球より、ホールの方が難しい。鉄球は徐々に角度が増していくが、ホールは一気に垂直になる。度胸がいる」。それでも、始めて2日目には垂直の壁を走っていた、というから、すごい度胸です。
気をつかうのは、天候です。暑ければ、木が乾燥して滑りやすくなり、走った後のタイヤの熱が逃げにくく、パンクの恐れもあります。
興行は天候や人の入りをみながら1日10回以上。興行と興行の間には、タイヤに何度も触り、熱が冷めているか、確認します。それでも一度だけ、曲芸中にパンクし、打撲をおったことがあったといいます。
体への負担も小さくはありません。重力に逆らい、強い遠心力が体にかかり続けるため、興行期間中は毎日が筋肉痛だそうです。
それでも「お客さんが、ワッと沸くと、うれしいですから」と藤田さんは笑います。
国内でいま、「ホール」を走るオートバイサーカスは「うちだけ」といいます。乗り手は藤田さんしかいません。
「本気でやりたい、という人がいたら、いつでも受け入れますよ。ただ、テントの設営から撤収までも自分たちでするので、生半可な気持ちではできませんけど」
そんなオートバイサーカスですが、世界各地には、同じような曲芸をする人たちがいます。「フランスのチームとも、SNSでつながっているんですよ」
動画投稿サイトでは、各国のオートバイサーカスの曲芸も紹介されていいます。海外では「WALL OF DEATH」と呼ばれているようです。
「ホール」に藤田さんがオートバイで入っていく様子を外から見ると、入り口の上にその言葉がありました。
「WALL OF DEATH」。藤田さんの緊張、覚悟、観客への思い、もろもろが凝縮された言葉と感じました。
入場料は大人700円、子ども500円。興行は毎年、4月に青森県弘前市、6月上旬に旭川市、中旬に札幌市、8月中旬に網走市、9月上旬に千歳市、9月下旬に栗山町のお祭りで予定されています。
こんなすごい曲芸を見逃す手は、ありません。
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