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「豚肉じゃないと思って……」 会社でイスラムの夕食会を開いたわけ

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 職場にイスラム教徒が入ってきたら、どうしますか?日本で働く外国人が増えている中、何気なく発した一言が同僚を傷つけてしまうかもしれません。ある企業では、イスラム教徒のラマダン(断食月)に合わせて特別な夕食会を開き、多くの日本人社員とイスラム教徒が食卓を囲みました。「違いがあることを力にかえたい」ーー。夕食会に込められたイスラム教徒と企業の願いとは。

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 今年のラマダン期間のちょうど中頃、複合機の製造などを行うコニカミノルタでムスリム社員が夕食会を開きました。これまで、心ない言葉を受けるなどムスリムへの無理解に直面してきた社員が、何とか相互理解を深めようと思い立った行動でした。

「イフタール」の食事会 ヒジャブ体験も

用意されたサラダやビリヤニなどのハラル料理
用意されたサラダやビリヤニなどのハラル料理


 5月20日午後7時、東京・八王子にあるコニカミノルタの研究施設「東京サイト八王子」の社員食堂に、社員とその家族ら60人が集まりました。テーブルに並んだのは、モロヘイヤのスープや鶏のグリルがのったビリヤニといったハラル料理(イスラム教に従い豚肉などを使わない料理)です。


 開かれたのは、ラマダンの時期に日中の断食後にとる食事「イフタール」を、社員やその家族で楽しむというイベント。ムスリム社員6人らで内容を考えました。参加した日本人社員やその家族らはイスラム教徒でない人ばかりでしたが、ラマダンでの日中の断食が解禁された後、まず食べるデーツ(ナツメヤシ)をムスリム社員と一緒にほおばり、その後それぞれの料理を楽しみました。


 ムスリム社員からイスラムの文化や習慣についての講義も行われました。

 マレーシア出身で入社2年目のダヤン・ヌル・ナディラさん(27)が「女性は顔と手以外が見せられないのですが、実は男性もへそからひざまでは見せることができません。ただ、世界中に様々なムスリムがいて生活習慣が違うので、それも知ってほしいなと思います」と話すと、他の社員たちが興味深そうにうなずいていました。

日本人社員らがムスリム社員のレクチャーに耳を傾けた
日本人社員らがムスリム社員のレクチャーに耳を傾けた


 参加した女性たちに人気があったのは、ムスリムの女性たちが髪を覆うために使う「ヒジャブ」の体験コーナーでした。ムスリム社員は布の厚さを季節によって変えていることや、服の色に合わせて布の柄や布を留める安全ピンの色を選んでおしゃれを楽しんでいることなども伝えながら、ヒジャブのつけ方をレクチャーしました。

ヒジャブ体験には多くの女性たちが集まった
ヒジャブ体験には多くの女性たちが集まった

 日本人社員らはカラフルな装いになるとにっこり笑って写真を撮っていました。家族でイベントに参加した立山忠生さん(40)は「ムスリムの社員と交流してみて感じたことは、私たちと違いはあまりないんだなということ。ムスリムがどうこうでなくて、同じ会社の若い社員だなという風に感じました」。

ヒジャブを体験し、家族で写真を撮る日本人社員
ヒジャブを体験し、家族で写真を撮る日本人社員

「豚肉じゃないと思って食べれば」


 このイベントを開くきっかけは、ウズベキスタン出身の社員、サロモフ・アブロルさん(34)が会社に提案したことでした。

 サロモフさんは母国で日本語を学び、2006年に来日。大東文化大の大学院を出て、2011年4月にコニカミノルタに入社したムスリムの社員です。普段は同社の生産本部調達センターで、国内外で利用する社有車や机といった資材の調達戦略を立案する仕事に携わっています。

イベントで司会を務めたサロモフ・アブロルさん
イベントで司会を務めたサロモフ・アブロルさん

 サロモフさんが入社したころ、社内でムスリムは珍しい存在でした。そのため、自身の習慣について理解してもらうことに苦しんできました。

 コニカミノルタでは、若手社員は社員寮で生活することが多いのですが、寮の食事はハラル料理ではないので食べられません。しかし、ある転勤の際に本社の管理部門に相談すると「それはあなたの都合でしょ」といわれることもありました。同僚の日本人社員に、ムスリムなので豚肉を食べられないことを話すと、「豚肉じゃないと思って食べればいいじゃん」と言われることもありました。
 悪気があって言っているわけじゃないと思うけれど、理解されていないんだなと感じたそうです。

 ムスリムだからと、必要以上に気をつかわれるのは嫌だったサロモフさん。入社するムスリム社員も増えていく中で、どうすれば理解を深めてもらえるか考えて浮かんだのが、このイフタールのイベントでした。

 「理解が勝手に深まるわけではない。バックグラウンドを自ら伝えるべきだと思いました。人数が少ないので、ムスリム社員は不安になる。一緒に食事をすることで交流を深めて、ムスリムを理解できる仲間を増やせるようにしたかったのです」

取材にこたえるサロモフ・アブロルさん
取材にこたえるサロモフ・アブロルさん

ダイバーシティーへ会社も後押し

 ムスリム社員からの提案を会社側も積極的にバックアップしました。

 サロモフさんが声をかけたのは、ダイバーシティー(多様性)について取り組む同社の「違いを力に!推進室」。この推進室は今年、「ダイバーシティー推進室」から改称されてできました。
 岩本満美室長(52)は、サロモフさんが起こした行動について「小さなスタートでも、自ら働きやすくするために会社に相談してくれたことが大きい」と意義を語ります。

イフタールの食事会は、ムスリム以外の外国人従業員も参加した
イフタールの食事会は、ムスリム以外の外国人従業員も参加した

 グローバル企業のコニカミノルタは、世界150カ国で事業を営み、国内外のグループの従業員の約4分の3が外国人。国内に本拠を置くコニカミノルタ単体の従業員は約5千人で、外国籍の人は1%程度ですが、直近の新入社員では約15%が外国籍で、国内でも多国籍化が進んでいます。

 一方で、外国籍社員の価値観や経験についてなど、まだまだわからないことがあります。この機会を通じて、個々の違いを認め合うことは、新しいものを生み出す源泉になると考えて、サポートしてきました。


 サロモフさんは「自分たち(ムスリム)が発信することによって、他の宗教などのバックグラウンドをもつ人たちも様々な企画をやりやすい方向になれば」と言います。実際に、今度はヒンドゥー教の祭りに合わせた企画が、社内で検討されているそうです。


 記者自身、ムスリムに関する取材は初めてでした。その中で印象に残ったのは、文化を知ってもらおうと尽力するムスリムの皆さんも、異なる文化に触れている社員の皆さんも、同じように輝いた目と笑顔でお互いに向き合っていたことでした。

 多様性への理解のスタート地点は一人ひとりの小さな触れあいなのかもしれない、今回取材したイベントはそう感じさせるひとときでした。

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