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手やのどが…突然からだが腫れる恐怖 見た目でわからない難病の日常

HAEの発作で手が腫れている時の様子=患者提供
HAEの発作で手が腫れている時の様子=患者提供

目次

 ある日、自分が難病だとわかったら――。兵庫県加古川市の主婦高岸一菜さん(36)は、子どものころから顔や手足の腫れを繰り返していました。見た目ではわかってもらえず、風邪薬を処方されて終わりだったことも。病名がわかったのは20歳の時、きっかけは1人の医師の気づきでした。地域による差、そもそも知られていないことによる不安。「難病のある日常」を追いました。

激痛こらえて試験、修学旅行も……

 高岸さんがかかえる難病、「遺伝性血管性浮腫(HAE)」は体のいたるところに腫れやむくみの発作を繰り返す難病で、国内に約2500人の患者がいると推計されています。発症してから診断がつくまで平均10年以上かかるとも言われます。

 患者によって症状は異なりますが、高岸さんの場合は、腫れなどの発作は週に一度ほど。からだのさまざまな場所が同時に腫れ、ときに激痛を伴います。発作を抑える注射を打つため病院に駆け込んだことは、今年に入ってすでに10回を超えたそうです。

 症状があらわれたのは、3歳のころでした。手がパンパンに腫れました。小学生のころは、手足や顔などを中心に月に1回以上、腫れが起きました。1回腫れると、おさまるまで3日はかかりました。

 内科や皮膚科……。いろんな病院をまわっても原因ははっきりしません。水も飲めないほど顔が腫れているのに、「風邪薬を処方されて終わり」だったこともありました。

 子どものころは、腫れ以外に目立った症状はありませんでした。恥ずかしさを感じながら、顔を腫らしたまま、学校にも通い続けました。高校生になると、おなかの痛みを感じることが増えました。あとから、これは内臓の腫れによる痛みだと知りました。激痛をこらえながら試験を受けたこともありました。楽しみにしていた修学旅行は発作と重なり、行けませんでした。

病院を回っても原因は分からず、顔を腫らしたまま学校にも通い続けた(写真はイメージ)
病院を回っても原因は分からず、顔を腫らしたまま学校にも通い続けた(写真はイメージ) 出典: PIXTA

携帯電話落とし、「また腫れるかも」

 20歳の時、寝転びながら触っていた携帯電話を顔に落としました。「また、腫れるかも」。それまでも打撲などをきっかけに、腫れたことがありました。

 予想通り、のどがパンパンに腫れました。当時、風邪をひいていて、せきをした瞬間、たんが絡んで息ができなくなりました。

 救急車で大学病院に運び込まれました。この際、1人の皮膚科医が疑ったのが、HAEでした。検査を受け、診断が確定しました。「難病だとは考えてもいなかったが、この病気のことを知っている人がいてラッキーだという思いもありました」と高岸さんは言います。

発症年齢や症状に個人差

 HAEの主な原因は、体内で「C1インヒビター」と呼ばれるたんぱく質がうまく働かないことにあります。親から遺伝することが多いとされています。高岸さんの母親も、おなかを痛がっていたことがあったそうです。でも、顔が腫れたことはありませんでした。

 発症する年齢や症状の程度が大きく異なることもこの病の特徴といいます。

 神戸大学の福永淳講師は「腫れる部分は患者によってさまざま。腸管が腫れたらすごく痛い。のどが腫れれば命を落とす可能性もある。発作頻度も違い、60歳ぐらいになって初めて発症した人もいます」と話します。

HAEの患者を多く診ている神戸大学の福永淳講師
HAEの患者を多く診ている神戸大学の福永淳講師

「見た目でわかってもらえないつらさも」

 高岸さんは24歳で、長女を出産しました。

 この際、初めて、発作が起きないよう、「C1インヒビター」を精製した血液製剤を予防的に使いました。長女はHAEの血液検査で「陽性」でしたが、いままで発症していません。

 「のどやおなかが腫れたとき、見た目でわかってもらえないつらさもある」と高岸さんは話します。いま、予防的に使えるのは、出産や歯科治療などの際に限られていますが、それ以外のときでも広く使えるようになることを願っているそうです。「今はいつ発作がおきるか分からないので仕事をするのも、家で娘の誕生パーティーを開くのも難しい」と言います。

 昨年11月、約30年ぶりに新たな治療薬が発売されました。

 この薬は発作が起きたとき、自分で注射できます。高岸さんは、発作時に治療を受けられる病院まで5分のところに住んでいるため、まだ使ったことはありませんが、「旅行などに行きやすくなる」と期待しているそうです。

HAEの患者のためにつくられた「緊急時連絡カード」。高岸さんは普段は持ち歩いていないという
HAEの患者のためにつくられた「緊急時連絡カード」。高岸さんは普段は持ち歩いていないという

診断まで13.8年「病院まわり続ける人も」

 夫の直弘さん(34)は、2014年設立の患者会「HAEJ」で役員を務めます。「大した病気じゃないと思っていましたが、腫れている姿を初めて見たとき、針を刺したら抜けるんじゃないかと思うぐらい、すごく痛々しかった」と振り返ります。

 「出会ったころは遠い病院まで通い、関係のない薬を与えられていた。妻の治療環境はとてもよくなったが、いまだに病院をまわり続けている人もいる。この病気のことを知ってもらいたい」

 国内ではHAEの患者は発症から診断までに平均13.8年かかっている、とのデータもあります。推計2500人の国内の患者のうち、実際に治療を受けている人は450人ほど、だそうです。

患者会での活動を通してHAEについての理解を広めようとしている高岸直弘さん
患者会での活動を通してHAEについての理解を広めようとしている高岸直弘さん

メンタルのせいにしていた

 奈良県生駒市の病院で作業療法士として働く女性(49)も、20代で初めて発作が起きてから、確定診断に至るまで10年以上かかりました。

 「症状を自分のメンタルのせいにしていたこともありました。3、4回目の入院で初めて診断がついたとき、とにかく原因がわかってうれしかったです。まずは医師にこの病気のことを知ってほしい」

 福永さんは「詳しい医師も救急や、腎臓内科、血液内科、皮膚科などばらばら。まずは医師全体の認知度を上げたい。地域ごとの偏在もあり、詳しい医師が少ない四国や東北では、患者も少ない傾向にあります。全国で診断や治療ができるようにしなければいけません」と話します。

高岸一菜さんは「世界希少・難治性疾患の日」(2月の最終日)を前に、HAEJの主催で開かれた患者らの交流会にも参加した=2019年2月23日、神戸市、直弘さん提供
高岸一菜さんは「世界希少・難治性疾患の日」(2月の最終日)を前に、HAEJの主催で開かれた患者らの交流会にも参加した=2019年2月23日、神戸市、直弘さん提供

取材を終えて

 発症してから診断にいたるまでの長さに驚きました。発症する年齢や腫れる場所、頻度も人それぞれ。親からの遺伝ではなく、遺伝子変異により突然起こる例もあります。

 近年でもHAEと診断されていないまま、のどの発作が起き、呼吸困難で亡くなったケースもあるそうです。患者さんや家族の方たちは「まずこの病気の存在を知ってほしい」と強く訴えます。

 完治する方法はなくても、発作を押さえる薬はあります。診断されないまま、悩む人を一人でも減らしたい。難病には、「知られないこと」による苦しみがあることを、あらためて知りました。

 患者会「HAEJ」のホームページhttps://haej.org/)には、HAEの治療法や治験、患者同士の交流会などの情報が載っています。
HAEの患者や家族らが集まった、患者会主催のウォーキングイベント。高岸さん家族も参加した=2019年5月26日、京都市、鈴木智之撮影
HAEの患者や家族らが集まった、患者会主催のウォーキングイベント。高岸さん家族も参加した=2019年5月26日、京都市、鈴木智之撮影

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