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モンパチ、200万枚売ってもインディーズの理由 名曲を映画化
昨年結成20周年を迎えた沖縄のロックバンドMONGOL800(モンパチ)の、最も広く知られる歌が映画になりました。24日に公開された映画「小さな恋のうた」は、ロックバンドをめぐる高校生たちの物語を通して、リアルな沖縄を描きます。今もインディーズで活動を続けるモンパチ。シングル曲を出さない理由、そして「9.11」の夜に起きたこと……。映画を通して見えた沖縄について、ボーカル&ベースの上江洌清作(うえずきよさく)さんと、脚本家の平田研也さんに聞きました。(朝日新聞文化くらし報道部 坂本真子記者)
「映画のタイトルは入り口としていいんじゃないですか。良くも悪くも期待を裏切るというか、してやったりというか」と、上江洌さん。
「小さな恋のうた」は、モンパチが2001年に出した2枚目のアルバム「MESSAGE」に収録された楽曲です。作詞は上江洌さん。「ほら/あなたにとって/大事な人ほど/すぐそばにいるの……」という歌詞には多くの人が共感し、カラオケでよく歌われました。
アルバム「MESSAGE」は、収録曲の「あなたに」がテレビCMに使われたことをきっかけに口コミで人気が拡大。インディーズで初めて200万枚以上売れる大ヒットになり、オリコンチャートの1位を記録しました。
映画の企画が生まれたのは約8年前。上江洌さんの友人の映像プロデューサーが中心になり、「MESSAGE」の全14曲について、1曲ずつ違うテーマで沖縄を描く短編映画を作ろうとしたのが始まりでした。この企画に参加した平田さんは奈良県出身。沖縄のことを知ろうと、何度も上江洌さんを訪ねて話を聞きました。
最も印象に残っているのは、「9.11」のときの話だと、平田さんは言います。
2001年当時、大学生だった上江洌さんは、友人の誕生日を居酒屋で祝っていたそうです。すると、ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機が突入する様子がテレビに映りました。
「近くの米軍基地でサイレンが鳴り出して、厳戒態勢みたいになって、誕生会はそこで中止。それどころじゃない、帰りましょう、と。9.11の後は観光が冷え込んで、一気にキャンセル。その数年後には、大学に米軍ヘリが落ちたし」
上江洌さんにとって米軍基地はずっと身近な存在だったそうです。
「子どもの頃は、カーニバルがあると、よく基地の中に行きましたからね。バンドを始めてからは、よくライブに来てくれる米兵とたまたま仲良くなって、一緒にご飯食べることにして、せっかくだから寿司かなぁ、と。回転寿司で最初に彼が取ったのがチキンバスケットだった、ということもあった。実際に自分の身の回りで起きたこと、日常的な沖縄の雰囲気について話しましたね」
平田さんは「基地があるってこういうことなんだ、それぐらい身近なんだということを最初に教えてもらいました」。
それからも取材を重ね、最終的に今回の映画が決まりました。
映画の舞台は、米軍基地がある沖縄の町。平田さんは、脚本のこだわりを次のように語ります。
「どこにでもある普通の暮らし。その中に当たり前のように(米軍基地の)フェンスがある。何か特別なメッセージがあるわけではなくて、どこの地方にもいるような高校生たちの、言葉にできない衝動を感じてほしいですね。それを入り口に沖縄のリアルな姿を知ってもらえれば」
映画で使われるモンパチの曲の一つが「SAYONARA DOLL」。2011年のアルバム「etc.works2」に収録されています。
「この曲を使うと聞いて、どういうチョイスかと。どんな展開で使われるのか、楽しみにしていました」と上江洌さん。
以前、米軍基地の中に入ったときに、お土産の棚に琉球人形が飾られ、値札に「SAYONARA DOLL」と書かれているのを見つけたことが、曲作りのヒントになったそうです。
「ネーミングのセンスに驚いたし、基地に従事するために沖縄に来て、この島を好きになってくれたかもしれない人が記念に買うのかな、と思って。映画のストーリーの流れにすごくマッチしているというか、いやが応でも翻弄(ほんろう)されながら揺れている島の感じとかが、どこの家庭にも起こり得るリアルな感じ。歌詞とリンクするイメージがありましたね」と上江洌さん。
平田さんは、SAYONARA DOLLというものがあることを、モンパチの曲で知ったそうです。
「歌っている内容が、映画で書きたいものと本当に合っていたので、この曲を使おうと。曲を作った背景を聞いてから、実際に基地の中に入ったら本当にあったので、自分用に買いました。いまは自分の机に置いてあります」
どういう場面で使われるかは、映画を見てのお楽しみに。
映画の中で、高校生たちはモンパチの曲を演奏します。多くの俳優は楽器の初心者で、半年かけて練習しました。
「少しずつ上手になる過程がすごくリアル。登場人物の成長記録として描かれていて面白い」と上江洌さん。演奏しやすいように、曲のアレンジを少し変えたそうです。
上江洌さん自身も中学3年の学園祭で「何かやりたい」と仲間とバンドを組み、初めてベースを弾いたのが、音楽活動の始まりでした。
「俺は何でもいいって言ったら、残り物のベースになって、2曲だけ覚えて演奏しましたね」
高校入学後、同じクラスの同級生と結成したのがモンパチでした。
「20年も続けられて映画にもなって、上等な仕上がりですよ」
曲作りのこだわりは、2つ。一つは、サビ並みのAメロを作ることで、もう一つは、1曲の長さが3分を切ることだそうです。
「アスリートじゃないけど、演奏して『今何分でした?』『3分12秒』『もうちょい行けるな』ってどんどんそぎ落とす。そういう作り方をしたときもあります。アルバム全部で30分。お時間取らせませんっていうときもありました。2小節か3小節イントロやって、すぐにサビ並みのメロディーが来て、サビの展開があって、急に終わる。これだけで完結するじゃないですか。でも、かたや10分ぐらいの曲を作ったりもするので、あんまりつかみどころのない感じでやっていますけどね」
モンパチは、「MESSAGE」が売れたときも今も、ずっと沖縄にいて、ずっとインディーズで活動を続けています。
「ライブをやれて、作品を作れたら満足なんです。中央に出て何かを発信することは、もともとの欲としてなかった。単純に」と上江洌さん。
シングルを数枚出して、アルバムを出す、というメジャーのレコード会社の手法に反発もあったと言います。
「どうせシングルはアルバムに入るじゃん。お金がない子たちのこと考えたら、かわいそうじゃん。俺らはシングルなくていいんじゃない?って。だから昔からシングルを作ってないんです。だんだんみんなシングルを切らなくなってきたし、ライブがメインになっているし、あながち間違ってなかったな、と」
そして、日々の暮らしを大事にしようという思いを、ずっと歌ってきました。
上江洌さんはもともと童謡が好きで、誰でも歌えるよう、歌詞に難しい表現を使わないことを意識してきました。
「使いたい言葉がたまっていって、自然に歌詞の風景が見えてくる。それを、どこを切り取ってもサビに使えそうなメロディーでつないでいくんです」
素朴で身近な歌。そして、平和を願い、ふるさと沖縄を思う。その感覚は、映画「小さな恋のうた」にも通じます。
今回の映画では、沖縄にある米軍基地の中と外にいる、両方の立場の人たちの複雑な心情が描かれます。
そして、映画の中で起きる事件は解決しません。それは、沖縄でずっと以前から繰り返されてきた現実でもあります。
でも、厳しい現実に打ちのめされる一方で、とりあえず行動を起こそうとする。映画の中の高校生たちの姿には、希望を感じます。
「あの熱量には学ぶところがあるし、見ていて、すごく心地いい感じがする」と上江洌さん。
さまざまな課題を抱える沖縄で、光を見いだせるかもしれない――。この映画は、そんなことを感じさせてくれます。その背景には、ずっと変わらない、モンパチの歌の心があるのだと思います。
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