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「なんで売ったの?」アライグマに心が痛む……外来種本への思い

「『タヌキに似てるがタヌキじゃねー!」というセリフとともに描かれるアライグマ=ウラケン・ボルボックスさん提供
「『タヌキに似てるがタヌキじゃねー!」というセリフとともに描かれるアライグマ=ウラケン・ボルボックスさん提供

目次

「外来種」ってどんなイメージがありますか。厄介者、怖い、悪いやつら……。でも、イラストレーターのウラケン・ボルボックスさん(@ulaken)が出した本「侵略!外来いきもの図鑑 もてあそばれた者たちの逆襲」に描かれた彼らは、愛嬌さえ感じる姿。ジョークとともに自らの境遇を訴えます。単純に悪者扱いはしない、でも、起きている問題からは目をそらさない。本に込めた思いを聞きました。(朝日新聞記者・杉浦奈実)
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「あれ、なんか可愛い?」

本は2月末ごろから全国の書店などに並んでいます。最近生き物系のイラスト本はよく見掛けるようになりましたが、生き物好きの私でも、外来種縛りは見たことがありません。中をのぞくと、イラストと小ネタがページを埋め尽くしています。

「アライグマ」の項目では、前脚でザリガニを捕まえるイラストの周りに、タヌキとの見分け方の説明と、某国民的アニメを思い起こさせる「ぼくはタヌキじゃない!」のセリフ。東南アジアなどが原産で沖縄に定着しているクララ(ウォーキングキャットフィッシュ)は「這えた、私這えたわ!」とうねうねしています。

第一印象は「あれ、なんか可愛い?」。

「なんか可愛い?」クララのページ=ウラケン・ボルボックスさん提供
「なんか可愛い?」クララのページ=ウラケン・ボルボックスさん提供

「必死に生き抜こうとしたら見つけ次第殺せと言われる」

ページを繰ると、多くの種にマンガの解説がついています。

アライグマでは、1970年代にアニメの影響で輸入されたけど、大きくなると扱いきれなくなり、逃がされて野生化した経緯が描かれます。

重要文化財を傷つけ、希少在来種を食べ、農作物を荒らし、病気を媒介――。多くの問題を引き起こすアライグマは駆除の対象です。

「人間は勝手だ」と叫ぶアライグマたち。

「知らない国にペットとして連れてこられたあげく飼いにくいと捨てられ、必死に生き抜こうとしたら見つけ次第殺せと言われる」「日本生まれの僕らは原産国でも外来種扱いだから帰れない」「なんで売ったの?どうして輸入許可したの?自分がそうだったらって考えてみて」とコマの中からこちらを見つめます。

「侵略的外来生物って?」といった「基本」から「国内由来の外来生物」といった、まだ一般にあまり知られていない項目も含めた解説もあります。

「侵略!外来いきもの図鑑」の表紙カバー=エディット提供
「侵略!外来いきもの図鑑」の表紙カバー=エディット提供
裏表紙のカバーには、アライグマなどが登場する漫画が描かれている
裏表紙のカバーには、アライグマなどが登場する漫画が描かれている

外来種につきまとう負のイメージ

外来種って、とにかく嫌われ者のイメージです。私は生物多様性の保全を専攻していた学生時代、野外実習中に外来種駆除で捕まったウシガエルの胃から準絶滅危惧種の昆虫を見つけ、詮無いと知りつつも腹を立てたことを思い出します。

記者になり、滋賀県で勤務した時は、県の事業で漁師さんが琵琶湖から大きなバケツ何杯分ものブラックバスとブルーギルを引き上げるのを取材しました。

本来の生業である在来種の漁獲が回復しない中、外来魚は莫大な税金を投入して取りつづけても思うように減らない……。同じ場所に複数の外来種が入っていたりすると、片方を減らすともう片方が増えたりと一筋縄ではいかない。「ほんとに厄介!」と思ってきました。

こうしたイメージや、かんだり、刺したり、毒を持っていたりといった性質への恐れから、外来種には「怖い」という印象がついているのかもしれません。

アライグマのページ(左)
アライグマのページ(左)

いかにも恐ろしげだった外来種関連本

ウラケン・ボルボックスさんはCMのコンテや映画のイラストなどを描いてきました。

外来種を描くことになったきっかけは、近所の公園に大量にいたミシシッピアカミミガメを見て「なぜこんなに増えたのだろう」と調べたこと。イラストにしてツイッターに投稿しました。

その頃、アライグマのキャラクターが出てくる米映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーリミックス」(2017年)が公開直前だったこともあり、これも外来種問題と関連づけてイラストを投稿。他の生き物イラスト本も手がける編集プロダクション「エディット」の編集者、福ケ迫昌信さんの目にとまりました。

福ケ迫さんは、書店に並ぶ外来種関連の本はいかにも恐ろしげだったり、闘わせることを想定していたりと、怖いイメージのものがほとんどだとして「持ち込んだのは人間じゃないのか。子どもたちに知ってもらい、駆除しなければいけないような外来種が生まれないように学んでほしい」と企画をまとめたといいます。ウラケンさんのイラストの、特徴を崩しすぎないデフォルメ感や映画的な構図、笑いの要素などにもひかれたそうです。

コミカルに描きつつ、アライグマの生態についてもおさえているイラスト=ウラケン・ボルボックスさん提供
コミカルに描きつつ、アライグマの生態についてもおさえているイラスト=ウラケン・ボルボックスさん提供

「文字文字のページは読まない」

国の資料や各種の本などを調べ、テレビ出演などでも有名な国立環境研究所の五箇公一さんの監修を経て書き上げたウラケンさん。「外来種(問題)には、人間の業が詰まりに詰まっている」と話します。

「『外来種=悪』だと思考停止しちゃう。決めつけたら簡単だけど、本質はそこじゃない。大人がしてきたことで申し訳ないけど、子どもたちは学んで、少しでもこういうことがなくなるようにしてほしい」と語る点は、福ケ迫さんと同じです。

イラストに対し「可愛く描くと、同情が芽生えるからやめてほしい」といった意見も届いたそうですが、「読んだらそう思わないはず。文字文字のページは、自分なら読まない。子どももまず読まない」と話します。

子どもにも読みやすいよう、漢字にはルビを振りました。イラストなら生き物が苦手な人でも手に取りやすいのではないか、という期待も持っています。

表紙には多くの動植物たちを登場させました。左右対称の構図は米映画のポスターの影響を受けているそうですが、「まつる」気持ちも込めているそうです。言われてみると、フイリマングースとタイワンハブがこま犬、ホテイアオイが供花に見えてきます。

私はカバー裏まで読み終え、考え込んでしまいました。一番厄介な生物が潜んでいたからです。

アライグマが日本にやってきた経緯を説明したマンガ(右)
アライグマが日本にやってきた経緯を説明したマンガ(右)

「けしからん」で終わらない本

監修した五箇さんは、国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室の室長。外来種について積極的に発信しています。

「これまでの外来種の本はサイエンティフィックだったり、写真を使った図鑑的なものか、『けしからん』というような啓発ものだった」。そしてこの本について「全ての原因は人間にあるという本質を示していて、しかも重たくない。重要なことを書いているが、コミカルに描いていて読みやすい」と話します。本を通じ、関心がない人にも理解が広がることを期待しているそうです。

掲載する種の助言もしたそうで、「哺乳類から爬虫類まで幅広い分類群から、意外に外来種というもの、意外なエピソードを持つものなどを選んでもらった。動物に関しては、日本で問題になっているものをかなりの部分でカバーしている」。

そのうえで「外来種は人間のライフスタイルや経済活動が生み出している。問題を防ぐためには、人間の生き方から見直す必要があると知ってほしい。ペットを逃がすのは絶対いけない」と語ります。

「悪いのってオイラたちなの?」という問い

外来種による被害が生まれているのは事実で、駆除という手段を否定することはできません。

ただ、「悪いのってオイラたちなの?」と問う、帯に描かれた外来種たちの目を見ると、「そうじゃないんだ」と謝りたい気持ちになります。裏表紙のカバーに描かれた漫画では、本に登場したアライグマなどが集まり、「オイラたちをもてあそんだ人間たちに……コイツらに逆襲するんだ」というセリフで締められています。私はおなかの辺りのもやもやを感じながら、これからも向き合っていきたいと思います。

本は1200円(税別)。全国の書店やインターネットで手に入れられます。PARCO出版(https://publishing.parco.jp/books/detail/?id=128

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