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一発屋が書く文章はなめられる? 髭男爵と元アイドルライターが激論
髭男爵の山田ルイ53世さんは、ひきこもりの経験や「一発屋芸人」と呼ばれる悲哀を文筆の世界で伝えています。ドラマ『野ブタ。をプロデュース』に出演しアイドルとしても活躍した大木亜希子さんは、現在、ルポライターとして活動中です。芸能界と文筆業、両方に足場を持つ2人が、タレントのセカンドキャリアをテーマに対談をしました。元アイドルという経歴の「使い方」。文書を書く芸人への反応。2人が行き着いた「何も成し遂げない人生」の受け止め方とは?
山田さん「タレント活動をやっていらっしゃる時からもともとコラムとかを書いていたんですよね」
大木さん「ブログを1日複数回更新して、ファンの人に自分がどんな視点で生きているのか積極的に伝えたり、自分の世界観を発信したりしていきたいっていう切実な思いは、生まれながらの性(さが)ですね」
山田さん「本当はこういう感じのことが言えますよ、とか、こういう雰囲気持ってますよ、という。ブログで小出しにしてた(笑)」
大木さん「写真も含めて、旅先のアンニュイな雰囲気で、アイドルの衣装とは真逆のカジュアルでボーイッシュな服を着て。それで『意外だね』と言われるとか(笑)」
山田さん「アイドルのステージ上のイメージとはまた違う。そういうの、自己プロデュース力に長けているということなんでしょうね」
大木さん「そう言ってもらうとうれしいんですけど、私よりもプロデュース能力に長けている子たちは沢山いますよ。ただ、一つ大きかったのは、こういう私みたいな人がいるんだということを伝えたい怒りみたいなものが書く動機になっています」
山田さん「タレントは多かれ少なかれみんなそんなこと思ってるんですよ。あいつばっかりちやほやされている。マネジャーが何もしてくれない。ただ、大木さんの場合は、選ばれし人間の側だからね。スタートは」
大木さん「そう言われると……絶妙にかゆいけど、うれしいです。でも、何度でも言いますけど、これから先も、私はやっぱり売れたいんですね。なぜかっていうと、そういう人間がいるっていうことがあまり世の中に知られていない。そういう人間が世の中へ発信していくことが、私と同じような現状の人たちに救いになるんじゃないかと思って」
山田さん「ところで、大木さんは恋愛関係にないおじさんと一緒に住んでいるということでも話題になってるそうですが、でも、これ、ネタですよね?作りに行ってますよね?」
大木さん「ナチュラル、ナチュラル!」
山田さん「人間の心模様というか自然な動きとして、恋愛感情もないのに、57歳のおじさんと住もうかとならんでしょネタにしてやろうの気持ちがあるでしょ」
大木さん「ないです」
山田さん「うそをつくな!!そんな話が信じられるか!!」
大木さん「どうしよう、朝日新聞社で山田さんにどつかれた(笑)」
山田さん「じゃあ、ちょっと変わってる人だ」
大木さん「一応、背景を30秒で説明しますと。会社を辞めて、ハイスペ男子と結婚もしたかった。仕事ができる人に思われたかったけれど、どうやら失敗してしまった。その中で当然、家賃を払うお金もない。貯金がない。姉に今のお前は1人で住んでいるより誰かしらといるほうがいいと言われて…。そんな中で“ささぽん”さん(おじさんの名前)と住んでみたら、他人でほどよい距離感で会話できることに救われたんです」
山田さん「いたほうがいいんだ? 会話できるから、誰かはいたほうがいい。それで、一番いい感じなのがそのおじさんなんですか?」
大木さん「職業で自分をよく見せたりとか、良いステータスを見せるかとか、自分を商品として選んでもらうか、言い方悪いけど、結婚とか。そういうのが一切ないマイペースな方なので、一緒に住んでいると楽なんです。純粋に『大家さんと下宿人』の関係。ただ、それだけです」
山田さん「57歳でも、ある人はあるでしょ」
大木さん「みんなに言われるんですけど、ささぽんは本当にまったりおったりした方で。クラシックを愛する方でいつも穏やかで、お互いに恋愛関係は一切ありません。そういう距離感がファンタジーって言われてます。おとぎ話みたいな話だけど、ネタ作りじゃないんです」
山田さん「本当に……? まだ疑ってはいるけどね。いやまぁだから、そういうこともあるんやなという話ですね」
山田さん「僕は基本的に『文才がすごい』と書かれるのがうれしい。単純に褒められるのは好きですから。褒められたらうれしいでしょ、普通に」
大木さん「深夜原稿に詰まった時に、アンチの内容だけ文字が見えなくなる特殊能力があるんです。褒めてるのだけピカッと見えるみたいな」
山田さん「その暗視ゴーゴルいいですね」
大木さん「逆暗視ゴーグル! 『元アイドルただものじゃない』とか言われると、その文字を2、3秒集中して見て、また原稿に戻る」
山田さん「編集者の経験もされてるんですよね。編集者目線からすると『元アイドル・元女優がライターやってます』っていうのは非常にいいフックですよね。キャッチーですよね。でも、元アイドルだっていう部分でハードルを下げていると言われると腹立つでしょ?」
大木さん「むかつきますね、けっこう」
山田さん「芸人だからっていうハードルの下げ方は今の時代できないですから。ピースの又吉くんとか芥川賞ですから。芸人が書くことに物珍しさはもうない。だから僕の場合は、『一発屋芸人が』っていう部分でハードル下げてると思われるとしたら、複雑な気持ちになるかもしれません」
大木さん「自分の個人的なエピソードをどこまで書くべきなのか。ちょっとそのバランスがまだ分かんないので。山田さんは、どうお考えになっていますか?」
山田さん「文章を書く時っていうのは、今回の本『一発屋芸人の不本意な日常』に関してはSNSなどのごく一部の(批判をしてくる)方々というのを意識しつつ書いているので、ほぼプログラミングに近い部分もある。あらゆる角度からどこから突っ込まれても大丈夫なように組み上げている」
大木さん「それも限られた時間のなかで」
山田さん「向こうの攻撃が当たらないように用心深く書いてる」
大木さん「完璧な鉄壁に感じられました」
山田さん「なんていうんですかね、壁っていうか、うまいことかわすようには心がけてますけどね」
大木さん「優しさというか、分かります。伝わってきました」
大木さん「山田さんのエッセーは、感性を文章にしているからそれが今の時代にマッチしているんじゃないかなって読んでて思いました」
山田さん「ここ何日か色々取材をしていただいて、ようやく漫談が仕上がってきたんですけれど。結局、書いてるのは外界からの目線、その視線の角度の話なんですよね。読んでいただいた方には、自分ならこういう場面で、こういう立場の人間に、どんな言い方をするかなというのは考えてほしい」
大木さん「私は、芸能界の中の人として読んだんですね。男爵さんが若いディレクターからタメ口で話しかけられるとか。相方のひぐち君の名前を間違われたりとか。大笑いしたんですけど、ちゃんとその時の気持ちも品良く、ギャグとして書いてらっしゃる。でもやっぱり一発屋芸人って素晴らしい芸を持っている集団であることが伝わってきて。本当にそれが救い。そのアイドル版をやりたいんです」
山田さん「じゃあ、タイトルに『列伝』ってつけてください」
大木さん「本当にいいんですか? そしたら数万部保証とかあるかな(笑)」
山田さん「いや、『列伝』はダサいですから、僕は反対しましたから(笑)」
大木さん「アイドルをやめて会社員として毎日一生懸命に働いている人、保育士になった人、アイドルの振り付けをされている人。そういう人たちがいることを伝えたいんです。その道を山田さんが作ってくれたんです」
山田さん「当たり前なんですけど、アイドルを辞めてから色んな仕事についているんですね。普通、知らない部分ですもんね」
大木さん「取材をした人からは、誰に言われているわけじゃないけど、営業の時に元アイドルっていうことを出さなきゃいけないのか、という悩みを聞いて。そういう時の色んな、出し引きの計算があるみたいで」
山田さん「それはどういう時に出すの? 大木さんにも同じ経験あるんですよね?」
大木さん「『AKBの方なんですか?』と聞かれて。近い、近いけど残念!って思いながら。私、何してるんだろう……みたいな」
山田さん「自分から言いたいわけではないんだ? それによって有利に進むのであればカードの一つとして切っていいと僕は思いますけど。あんまり自分から言うことはないんですか?」
大木さん「けっこうメンタル弱ってて、今日はノリで押し切れないなっていう時とか言っちゃったりします。名刺代わりにパッて言って『おぉっ?』とか言われて、はい次のステップ!みたいな」
山田さん「それ聞いたら、言われた相手はメンタルを気にしちゃう(笑)」
大木さん「弱さであり、武器というのにはおそれ多いというか」
山田さん「在籍してなかったらあれだけど、在籍しているんだから、別にいいんじゃない? 中心にいたわけでしょ」
大木さん「いえ、ほとんど人気はなくて末端です」
山田さん「いや、まあ、言っていいと思いますよ(笑)」
山田さん「本当のセカンドキャリアというのはファーストキャリアを誰も知らなくなることだと思う。『え、昔そんなことしてたん』っていう状態が、セカンドキャリアの成功です。そう考えると、僕がやらしてもらってることはセカンドキャリアというよりは、お笑い芸人というものがあって、そこからの枝葉ですね。芸人であることは、もう別に変わらないですからね。ことさらにセカンドキャリアです、って感じではないかもしれない」
大木さん「多くのアイドルの場合、20代の半ばまでで結果がわかる。人生が60歳、70歳まであるのなら、そこで花開く可能性があるっていうのに最近気がつきました。山田さんの場合、40代から花が開きはじめるような、そういう意識はないものなんでしょうか?」
山田さん「うーん、自分に限ってはないですね」
大木さん「ここから上を目指す、みたいなことは?」
山田さん「単純にいうと、死ぬまで生きていくといことしかないですよね(笑)。人生を節道立てて考えられる人って、ある程度、人生をちゃんと過ごしてきてる。
ただ、今は娘がいるから、彼女が20歳くらいまではなんとか養っていく。それくらいしかないんですね。誰でもいつかは花開く可能性はあると思います。
反面ね、一生花の咲かない人もいるんだということを僕は添えておきたい。
たいがい怒られますけど。新聞にしろテレビにしろネットにしろ、発信していく時に、『球根植えたけど腐ってそのままで終わる人も実際はいます』っていう注釈は、何かしらの形で併記しないと」
大木さん「おいしいところだけお見せして……うーん」
山田さん「『一発屋芸人列伝』(新潮社)であったりとか『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)とか書いた意味が少しでもあるとすればそれ。
手前みそで申し訳ないですけど、ああいうなんかよく分からない、
"しんなり"したものを、ドチャっと置いたような部分を含む読み物もやっぱり世の中には必要だと思うんですね」
大木さん「そのお話、すごく印象的で、私はまだ若さなのかな、人間性なのかもしれないですけど、何もならなかったものを添え置くという意識が今日お話するまでなくって」
山田さん「いや、29歳でそんなこと思ってたらちょっとおかしいでしょ(笑)」
大木さん「でも、やっぱり世の中に発信する身としては、頭に置かなきゃいけなかったのかなと思って、めっちゃ勉強になりました」
山田さん「活き活きとかキラキラとか、我々も加担してますけどね。情報とかお話の純度を高めるってことは、うそつくってことにもなりかねないと思う。小説なら良いけど。本当は『まだら』なんだから。発言する時も気をつけたい。いや、ただ、もちろん、花開くこともあると思ってますよ。それはそれであることだから」
大木さん「分かります」
山田さん「だから、さっきの"おじさんと住んでいる"というのは、僕の偏見でいうと『なんかそれ関係があるんちゃうの』とか『お金持ってんちゃうの』と簡単に思ってしまうけど、そうじゃないこともやっぱりあるっていうこと」
大木さん「そうですね、色んな価値観がある」
山田さん「ただすごい、珍しい。珍しさを感じちゃいますけどね。
で、それを狙ってるんでしょ?(笑)。こんだけ頭の回る人間がそれを考えてないはずがないですよ!」
大木さん「山田さん!(笑)。じゃあ正直に言いますけど、頭良く考えはじめたらヒットしないかもと思いはじめています」
山田さん「あーっ、逆に計算で弾きだしたら違うかな、という?」
大木さん「今この無鉄砲さが、エネルギーがあるんですよ。だから、私怨と怒りとパワーで乗り切っちゃってるんですけど。この間、樹木希林さんが出演された映画『あん』(河瀬直美監督)を見たんですけど、人は別に何かを成し遂げなくてもいい、何も成し遂げないで死んで行ったっていい、みたいな話でそれとリンクしたんですよね」
山田さん「それと同じことを僕が言うてたということにしてもらってもいいですか(笑)。でも本当にそうですよ」
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