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2019年05月17日

就活に成功、でも配属で「ハズレくじ」人気ライターと僧侶が語り合う


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配属での「ハズレくじ」について語るカツセマサヒコさん(左)と僧侶の井上広法さん

配属での「ハズレくじ」について語るカツセマサヒコさん(左)と僧侶の井上広法さん

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希望の会社に入っても、配属されたのが希望の部署ではなかった……。会社員人生の中で、そんな経験をしている人は少なくありません。フリーライターとして活躍するカツセマサヒコさんが新卒で入ったのは、第一志望の会社。しかし、そこで言い渡された配属先は想定外の総務部でした。しかし、その総務部の5年間続けた「ある経験」が、後のフリーランスとしての仕事につながったと言います。

そんなカツセさんと、寺の長男として「生まれたときから配属先が決まっていた」人生を歩む僧侶であり、ネット上のお坊さんのQ&Aサイト「hasunoha」を立ち上げた井上広法さんが希望の配属先に行けるかわからない「配属ガチャ」や「自己実現のウソホント」について語り合いました。

カツセさん「就活はうまくいったけど、配属はうまくいかなかった」

<「配属ガチャ」をテーマにしたイベントということで、会場には多数の大学生が参加。登壇者の二人も大学時代を振り返ります。>

カツセさん「ライターになるまで印刷会社に5年ほど勤めていました。その会社では、就活はうまくいったけど、配属はうまくいかなくて。もやっとした気分で過ごしていた時期がありました」

井上さん「私は大学を二つ卒業していて、一つはお坊さんになるための大学。その後25歳の時、もう一度センター試験を受けて、東京学芸大学に入学しました。そこでの専門は、臨床心理学です」

<一般的な就活を経験しているのは、カツセさんの方。就活や配属を控える参加者に、こう語ります。>

カツセさん「まるで希望を折るような話から始めちゃうんですけど(笑)。僕が入ったのは一番入りたかった会社だったんです。どれくらい入りたかったかと言うと、『この会社に入社するぞ』って紙に書いて壁に貼っていたくらい。その会社では面接などで何度も『クリエーティブなことをしたい』と志望動機を伝えていたんですけど、希望とまったく異なる配属が、入社2週間後に言い渡されたんです」

カツセさん「オブラートに包みますけど……『死にたい』と思いましたね(苦笑)。『入社したらやりたいこと』を散々聞かれて、イメージを膨らませてきたのに、ふたを開けたら『そうじゃないんだよ』って笑顔で言われる。これは結構ダメージが来るじゃないですか。というのが配属についての正直な感想です」

新卒で入社した会社員時代を赤裸々に語るカツセさん=水野梓撮影

新卒で入社した会社員時代を赤裸々に語るカツセさん=水野梓撮影

井上さん「お釈迦様は『期待するな』と言うんですよ」

<井上さんが運営するhasunohaには様々な質問が来るそうです。中にはカツセさんの配属ガチャのような具体的な悩みもあると言い、こう分析します。>

井上さん「今のカツセさんの話を聞いてなるほどなと思ったのが、入社面接で何度も志望動機を述べさせること。あれって、就活生は自己開示をしているわけですよね。自分をさらけ出したのだから、受け入れてもらえると期待しますよね。なのにこれ(希望と違う配属先)かよ、と。男女の恋愛にも通じるものがあります。ディズニーランドに行きたいと言ったのに、連れて行かれたのが吉野家、のような(笑)」

カツセさん「それくらいの落差がありました(笑)」

井上さん「その落差が心に傷をつけるのでしょうね。その背景には、多分期待もあるんだと思うんです。伝えた分、夢を見ちゃってる。志望動機を述べれば述べるほど、どんどんどんどん期待の高さが上がっていって、現実との落ち幅が大きくなってしまう。ちなみに、こういう場合にお釈迦様は『見返りを期待するな』と言うんですよ」

<井上さんの見事な回答に思わず笑ってしまうカツセさん。配属をきっかけに「一つ大きなことを学んだ」とのこと。>

カツセさん「大きな会社になればなるほど、望んだ場所に行ける可能性は低くなる。それを就活の時点で分かっていればよかったな、とは思います。ただ、一応言われているはずなんですよね、就活中も。『君の希望の部署に行けない可能性もあるよ』とアナウンスされて。言わないと問題になるので」

カツセさん「でも、就活生はどこかで『自分は大丈夫だろう』という変な自信を持っている。それが僕だったんですけど。そしたらそうじゃなかった。こういうケースもあるんだな、というのは学びでしたね」

井上さん「その5年間は、オブラートに包むと、どういう5年間でしたか」

カツセさん「地獄のような日々でしたね(笑)。それでも慣れはしますし、5年間のうちにその仕事が好きになることもあって、ストライクゾーンが広がりました。どんなことでもよほどきついことでなければ、ハッピーに捉えられるようになったのは、この5年間があったからこそ」

仏教の考えを交えて就職を語る井上さん=水野梓撮影

仏教の考えを交えて就職を語る井上さん=水野梓撮影

井上さん「私たちは生まれた瞬間から、ガチャされてる」

<僧侶をしながらウェブサービスを運営するという、特殊なキャリアを持つ井上さん。しかし、本来は生まれながらに人生が決まっていたはずだった、と振り返ります。>

井上さん「私は会社を作ったことはあるんですけど、会社で働いたことはなくて。寺の長男なんですよ。私たちは生まれた瞬間から、ガチャされてるんですよ」

カツセさん「無課金でガチャしてますからね(笑)」

井上さん「だから正直、こういう悩みを聞くと、遠い目で見ちゃうこともあります。私は子どもの頃、お寺が運営している幼稚園に入っていて。そこの先生がある日『はーい、みなさんは将来、何になりたいですか?』って聞くんですよ。他の子たちは例えば『僕は警察官になりたいです』とか答える。でも、私は飛ばされる。『君は決まってるからね』という扱いだったんです」

カツセさん「立派なイジメじゃないですか」

井上さん「あの時代に Twitterがあったら大炎上ですよ(笑)。こういうこともあって、昔はお坊さんになりたくなかったんです。そこで考えた私のアクションが、学校に行かないこと。15歳で自宅待機です(笑)。引きこもりという言葉もなかった時代ですけど、僕は生まれた瞬間から引かれたレールから、いったん外れるということをした」

<今ではその経験を「良かった」と思えるという井上さん。カツセさんが「ある意味、転職活動みたいなものだったのかもしれない」と言うと、同意した上でこう参加者に問いかけます。>

井上さん「高校生だったら、なんで大学に入る前に理系と文系とか専攻とか、このタイミングで決めないといけないのか、まだ悩む期間あってもいいじゃないか、そう感じても本来は全然おかしくない。でも、社会には『この時期までに決めなさい』というのがありすぎて、私たちは無意識にそこに乗っかってしまっているんですね。私は高校の時にそこを外れたので、もう関係ないと思えるようになりましたね」

お寺の子どもとして育ち「生まれた瞬間から、ガチャされていた」と告白する井上さん=水野梓撮影

お寺の子どもとして育ち「生まれた瞬間から、ガチャされていた」と告白する井上さん=水野梓撮影

井上さん「『自己』というのは仏教にはないんです」

<クリエーティブなことをしたいという気持ちがありながら、総務で勤務する毎日。カツセさんはどうやってネガティブな状態から脱したのでしょうか。>

カツセさん「会社以外のことを考えるしかなかったですね。3年目ぐらいから、社外の方との交流をするようになっていて。そうすると自分の現在地が分かるようになるんです。同じ会社の中だと先輩と後輩しかいないので、どうしても会社の中の自分の現在地しか分からなくなるけれど、世の中はもっともっと広がっていて。別の会社の同年代の人間はどんな感覚で働いているかを知っていくうちに、僕はツイッターを始めて、IT関係の同期の成長の早さを知って、もう少し自分らしく生きる道はあるなと思うようになりました」

井上さん「今の話を聞いていてパッと思い浮かんだ有名人が、イチロー選手ですね。おそらくイチロー選手って『他者評価』ではなく『自己評価』なんですよ。昨日の自分と、今日の自分を常に比較する。だから常に自分の伸びしろというか、改善ポイントが見えるんだと思うんです」

カツセさん「もちろん、メンタルを崩すくらいだったら辞めちゃった方がいいと思いますが、同時に覚悟しないといけないのは『ディズニーランドのような場所はない』ということです。どこに行っても、何らかの理不尽は絶対に待っています。『この会社を辞めて次の会社で絶対に成功するんだ』というのはお花畑すぎる発想なんじゃないかな、と」

カツセさん「会社は『ただお金をもらって働くだけの場所だ』と言われればそのとおりで、本当は自己実現の場ではないはずなんですよね。それを勝手に重ね合わせてしまうけど、現実的にはあんまり夢を見すぎることなく、『これだけは絶対にイヤ』みたいなことを、めちゃくちゃ分析することが大事。そうしてどんどんネガティブなところを潰していって、何社か渡り歩く中で、本当に行きたい会社にたどり着いたら人生OKな気がします」

<この「自己実現」という言葉を受けて、井上さんは仏教における「自己」の考え方を説明してくれます。>

井上さん「『自己実現』という言葉がありますが、『自己』というのは仏教の考え方からすると存在しないんですよ。今日、僕はここに僧侶として来て、カツセさんがいるという雰囲気の中で、思いついたことを話しているだけにすぎない。家に帰れば父親であったりとか、寺に行けば副住職であったりとか、シーンによって自己は変わるんです。固定的な自己というのはない、それを『無我』と言います」

「自己実現」について語り合う2人=水野梓撮影

「自己実現」について語り合う2人=水野梓撮影

カツセさん「明日から変えられることを1個やるだけで、昨日とは違う自分に」

<企業に勤める人からすると華々しいイメージのある「フリーランス」ですが、そんなに甘くない、とカツセさんは釘を刺します。>

カツセさん「フリーランスという言葉自体に憧れている人が非常に多いと感じていて。自分を営む業と書いて『自営業』なので、当然、暮らしていかなければならないんです。生活の糧を得られる算段が立っていれば自営すればいいし、そうでなければ会社員を続けてもいい」

カツセさん「定年後にどれくらいの貯蓄が必要か、という話がわかりやすくて、会社員であれば定年後に2500万円あればいいと言われているんですけど、それがフリーランスだと倍の5千万。僕はこれから5千万を余計に稼がないといけないんですよ。キツイなと思ってるんですけど、そういうのはフリーランスにはずっとつきまとうものだから、度胸は必要かもしれないですね」

井上さん「実はお寺も30年のうちに1/3以下になると言われているんです。人口が少なくなりますからね。人がいない集落ではお寺は続けられません。おそらく今のお寺の組織というものを『0→1』で考え直さなければいけないんじゃないかな」

<フリーランスにはリスクが伴う。しかし、従来型の組織にも未来があるかはわからない――そんな閉塞(へいそく)感を打破するにはどうすればいいのでしょうか。カツセさんの答えはこうでした。>

カツセさん「どう行動したらやりたいことに近づけるのか、ということはいつも考えています。人生においても同じですね。『ロールモデル』という言葉があって、僕が大嫌いな言葉なんですけど(笑)。だって、自分の将来像が丸々他人って結構ダサいのでは、と。100%この人になりたいというのが、完全に一致することはないじゃないですか。性格だったらこういう人、しゃべり方だったらこういう人、ファッションセンスならこういう人、というたくさんの見本を抱えて、オリジナルの自分を作っていくという感じで良いと思っています」

カツセさん「それって、『多分あの人だったらこういう筆箱を使っている』とか、そのレベルでいいと思っているんです。明日から変えられることを1個ずつ変えていくだけで、昨日とは違う自分になっている。それを積み重ねていけば、いつのまにかやりたいことに近づいているはずです」

フリーランスの厳しい現実についても語ってくれたカツセさん=水野梓撮影

フリーランスの厳しい現実についても語ってくれたカツセさん=水野梓撮影

カツセさん「社外の仲間と過ごすパリピな時間に救われた」

<就活や配属を巡る問題の背景には、「自分らしい仕事をしたい」という思いがあります。しかし、井上さんはこの「自分らしさ」という概念そのものにも疑問を投げかけます。>

井上さん「みうらじゅんさんって、ご存じの方も多いかもしれないですけど、ニッチな趣味をお持ちで、仏像マニアなんですよね。実際に仏教に造詣(ぞうけい)が深いなと思ったのが『自分らしさなんて言葉はない』とおっしゃっていたことなんです。その代わり『自分かしら?』と思い続けて生きるといいよ、と。『自分らしさ』のように何か固定された価値価値があって、そこでミスマッチが起きるとハレーションが生じる感じがしますけど、『自分かしら?』にするとその線引きをするのが自分になる。常に自分の選択について『自分かしら?』と思いながら、疑問符を投げかけるというのは面白いんじゃないかな。そういうテレビを見ました(笑)」

<一方のカツセさんは、総務での経験から「自分かしら?」に思い当たることがあるようです。>

カツセさん「総務の僕は典型的なダメ社員という感じで。帰るとき、ロッカールームで泣くこともあって。でも会社を出た後の自分は、友人とか同期とか仲良かった15人くらいのメンバーがいて、そいつらと過ごす。そこで過ごすときの自分は、本当はなりたかった企画職としての自分。メンバーの誕生日に『何かすごい企画やろうぜ』っていうことをやっていて。その企画が当時の自分を救っていました」

カツセさん「渋谷のスクランブル交差点のビルに誕生日メッセージを出すとか、パリピなことを(笑)。『自分かしら?』と問いかけたとき、会社にいる自分よりも、それを企画している自分の方がしっくり来ていました。ロッカールームで泣いている自分を消すことができる瞬間だったので、それでメンタルを保つことができていたんだと思います」

井上さん「それがその後フリーになるための企画や柔軟な発想のトレーニングになっていたんじゃないですか」

カツセさん「なっていましたね。ライターになるときに編集プロダクションの転職試験を受けているんですけど、未経験だったので、総務部しかネタがないとロッカーで泣いてるダメ人間じゃないですか(笑)。『プライベートでこういうことをやっていました』って言えたから、『企画力はあるんだ、文才はわからないけど』というところまでたどり着けた。やっててよかったじゃんパリピ、と思いましたね(笑)」

会社員時代に続けてきた友人たちとの企画について語るカツセさん=水野梓撮影

会社員時代に続けてきた友人たちとの企画について語るカツセさん=水野梓撮影

井上さん「これって友達が15人くらいいれば、本来は誰でもできるということですよね」

カツセさん「そうですね。大事なのは1人でやらなかったことだと思います。頭の中で企画をひたすら考えても、どこにも出していなければ失敗も成功もないし、評価も得られない。でも1回誰かを巻き込んでアウトプットすると、失敗しても成功しても得られる経験が大きい。企画を見せる相手は15人でもいいから、とにかく世に出すというのはとても大事です」

カツセさん「インターネットによって、こういうことがしやすくなりましたよね。フォロワーが少ないから、視聴者が少ないから『やっても意味ないでしょ』という方もたくさんいるんですけど、いいものを出し続けていれば、いつか誰かが目に留めてくれるものです。僕、スタートはブログなんですよ。会社がイヤで土日にパリピをやりつつ、面白い文章を書こうと思って続けていたら、ブログが目にとまって転職できたんですよね。それも当時はフォロワー200人くらいですから。その中で手にした唯一の切符だったので、転職しましたし、そういうトライができる環境はたくさんあります。何かやりたいことがあったら、黙々と自分の中でためておくのではなく、小規模でも世の中に出していくのがいいのではないでしょうか」

     ◇

カツセマサヒコ(かつせ・まさひこ)自営業。1986年東京生まれ。編集プロダクションでのライター・編集経験を経て、2017年4月に独立。取材記事や小説、エッセイの執筆・編集を主な領域としつつ、PR企画やメディア出演など活躍の場は多岐に渡る。特に20代女性に向けたコンテンツに定評があり、SNSで話題に。Twitter:@katsuse_m

     ◇

井上広法(いのうえ・こうぼう)佛教大学で浄土学を専攻したのち、東京学芸大学で臨床心理学を専攻。仏教と心理学の立場から現代人がよりよく生きるヒントを伝える僧侶として、お坊さんのQ&Aサイト「hasunoha」、マインドフルネスをベースにしたビジネスパーソン向けプログラ「cocokuri」、史上初のお坊さんバラエティ番組「ぶっちゃけ寺」(テレビ朝日系)の立ち上げなど、新たな仏教への「入り口」をデザインしている。著書に「心理学を学んだお坊さんの幸せに満たされる練習」(永岡書店)

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ブラック企業、『魔王』が社長になったら… 実体験をベースに漫画化
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