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10連休中、女装バーで開かれた「何もしない会」生きづらさへの救い

女装バー「女の子クラブ」に集った会の参加者たち=新宿区新宿2丁目、高野真吾撮影
女装バー「女の子クラブ」に集った会の参加者たち=新宿区新宿2丁目、高野真吾撮影

目次

改元に伴う10連休中、買い物やレジャーなどを楽しむ人がいる中、都内で「ただ集まるだけ」を目的にした会が開かれました。場所は新宿2丁目の女装バー。集まってきたのは対人恐怖症で公務員を辞めた男性、精神安定剤を服用しながらバイト生活を続ける女性……現代社会の「生きづらさ」を抱える人たちでした。いったいどんな会だったのか。参加者の声に耳を傾けました。(朝日新聞記者・高野真吾)

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会を開いたモカさん。自身も過去に衝撃的な経験を乗り越えてきた=モカさん提供
会を開いたモカさん。自身も過去に衝撃的な経験を乗り越えてきた=モカさん提供
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イベントごとなし

(※記事の最後に相談窓口の案内があります)

集合場所は、新宿2丁目の女装バー「女の子クラブ」でした。ピンクのソファが特徴的です。

発達障害、鬱傾向など様々な悩みを抱えていた参加者たち。「生きづらい」「生きていくのは大変」との感覚は共通していました。

こうした男女約25人が数時間、主催者の女性を中心に数時間を過ごしました。

ただし、これといってイベントごとがあるわけではありません。

会の始めに、モカさんは4月に出版した自著「12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと」にサインした=高野真吾撮影
会の始めに、モカさんは4月に出版した自著「12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと」にサインした=高野真吾撮影

600人超の悩み相談に乗ってきた主催者

この日の集まりを主催しているのは、同店の経営者モカさん(33)。男性から女性になったトランスジェンダーで、女装に関心が高い層には知られた存在です。
 
飲食事業で成功し、この店以外にも複数店を開き、女装者専門の「じょそっこ更衣室」も運営しています。

同時に、過去3年ほどで600人超の悩み相談に無償で乗ってきました。聞くのは、お金、仕事、人間関係、恋愛に限りません。

過去に「衝撃的な行動」をしたことがあるモカさん。相談者たちは、深刻な「生きる限界」の悩みを打ち明けます。

「じょそっこ更衣室」を紹介するサイト。24時間利用可能だ
「じょそっこ更衣室」を紹介するサイト。24時間利用可能だ

緩やかにつながる「みんなと会う会」

モカさんは2016年から、悩み相談を重ねてきました。

色々な相談者と接するうちに「孤独を感じているたくさんの相談者たち」が、緩やかにつながったらいいのではないかと考えるようになりました。

プログラミングなどの勉強会を経て、2018年3月から「みんなと会う会」という名称で原則毎月1回開くようにしています。

連休中に開かれた会に集った約25人の年齢は20代から50代ぐらい。男女比はおよそ半々。すでに10回近くを重ねてきた会なので、なじみの人たち同士が、話をしている姿も見られます。

モカさんが2018年1月に開いた勉強会の様子=モカさん提供
モカさんが2018年1月に開いた勉強会の様子=モカさん提供

新宿御苑にピクニックへ

この日は初めての試みとして、「女の子クラブ」を飛び出し、歩いて数分の新宿御苑に行きました。

途中のコンビニで食べ物、飲み物を買います。新宿御苑は、無料開放日でした。その分、かなりの混雑です。

はぐれる人を出さないよう、ゆっくりゆっくり歩き、皆で座れる「こども広場」を目指しました。

無料開放日だったこともあり、新宿御苑はひときわ混んでいた=高野真吾撮影
無料開放日だったこともあり、新宿御苑はひときわ混んでいた=高野真吾撮影

まったり談笑タイム続く

午後2時ごろに到着。レジャーシートや地面の上に座り、先ほど買ったパンやお菓子を食べ始めました。公園の中でも、モカさんを囲んで、特別な何かをするわけではありません。

参加者が2、3人ずつ、のんびり和やかに談笑をしています。この日は日差しが強かったので、「暑いですね」という言葉がよく出ていました。

「じゃあ、戻ろうか」

午後3時過ぎ、モカさんが声をかけ、女装バーに戻りました。到着してからも、再び、まったり談笑タイムです。この時間が夕方まで、続きました。

「女の子クラブ新宿本店」を紹介するサイトのページ
「女の子クラブ新宿本店」を紹介するサイトのページ

何もしないのが心地いい?

せっかく集っているのに、なぜ何もしないのか。

参加者たちには、むしろ、何もしないこの状態が心地いいようです。

初参加だった都内の男性会社員・かずきさん(23)は、新宿御苑で青空の下、語りました。

「このまったり、いいですね」

かずきさんは、学生時代に発達障害と診断されました。高専卒業後、工場で働くも2年で退社。2018年4月からの1年は、コールセンターなど職場5カ所を転々とし、うち1カ月半ほどは、引きこもりでした。

モカさんがツイッターで発信する「みんなと会う会」のお知らせ。参加費は無料だ
モカさんがツイッターで発信する「みんなと会う会」のお知らせ。参加費は無料だ

参加者は対人恐怖症の男性、自殺未遂の女性など

横浜市でバイト生活を送っている、ゆうとさん(33)は会の常連です。

ゆうとさんは、幼少期から母親に精神的、肉体的な虐待を受け、対人恐怖症などになりました。

大学院を経て、国家公務員となるも1年半で休職。別の正社員職も長続きせず、今後の展望が開けないでいます。

都内で事務職として働くみーさん(24)は、鬱傾向があり、この4年ほど精神安定剤を服用中です。

一時、鬱が自殺未遂するまで悪化し、週5日間働くことが難しくなりました。なじみやすい職場を探しながら、週3日のバイト生活で1人暮らしを続けています。

愛されたり、認められたりすることがない家庭環境だったことから、自己否定の気持ちが強いそうです。

「生きることに執着していない」と打ち明けます。

モカさんが作った「お悩み相談」を受け付けるサイト。「いつでもご連絡ください」とある
モカさんが作った「お悩み相談」を受け付けるサイト。「いつでもご連絡ください」とある

リストカットの女性、鬱病経験の男性も

茨城県から参加した人もいました。ゆきさん(33)は、父と祖母が自ら命を絶っています。高校時代にリストカットの経験があります。結婚して5年になるのですが、離婚を考えています。

しかし、職場で上司・同僚とうまく意思疎通ができず、経済的に自立できるか自信がありません。

都内で会社員として働くひでさん(43)は、不動産関係の仕事についていた10年ほど前、仕事のプレッシャーから鬱病にかかりました。

別の仕事につきましたが、再発防止のため、今も鬱病患者たちの互助会に通っています。

女の子クラブで談笑する参加者たち=高野真吾撮影
女の子クラブで談笑する参加者たち=高野真吾撮影

主催者「ずっと続けるかは分からない」

こうした参加者の中心にいる、主催者モカさんの会に対するスタンスは自由です。

まず、「ずっと続けていくのかですか? それは分からないです」と宣言しています。

「気分次第にした方がいいと思っています。みんなも気分で来た方がいいし。ただ、今はやる気があるから、続けているだけです」

「実際問題、私の体調が悪かった4月は休みました。それぐらい自由にしていないと、私にプレッシャーになってしまいます」

モカさんが4月に出版した「12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと」
モカさんが4月に出版した「12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと」
4月に発売された、モカさんの半生を描いた『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』(光文社新書)

つながりと心地よさ生む、まったり会

特段のイベントがなく、いつまで続くかもわからない会。
 
それでも、ゆうとさんは、「大変な経験をしている仲間」が集う空間は、「癒やしの雰囲気があるし、参加しているだけで気分が切りかえられる」と語ります。
 
「何かやろうぜ!」と集う会は、楽しい分、エネルギーを消費し、疲れることもあります。
 
その一方、「ただ集まるだけ」だと、刺激こそ少ないかもしれませんが、疲労は生まれにくいのかもしれません。
 
まったりの会だからこそ、「生きづらい」人たちでも疲れず、自然体でいられるようです。そうした安心感が、つながりと心地よさを生み、さらには参加者たちの生きる支えになっているのではと感じました。
 
モカさんの気分、体調次第で中止になる可能性がありますが、次の「みんなと会う会」は6月2日(日)午後に開催予定です。参加料は無料。開催状況はモカさんのツイッター(https://twitter.com/____usaco)でチェックできます。

相談窓口はこちら

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■24時間こどもSOSダイヤル
0120-0-78310

     ◇

■こどものSOS相談窓口(文部科学省サイト)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06112210.htm

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■いのち支える窓口一覧
http://jssc.ncnp.go.jp/soudan.php

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