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東北や九州の話し方、なぜ「なまってる」扱い 都会は偉い?理由探る
東北・福島出身の記者。先日、九州・宮崎に行きました。地元の人と話すと、話し方が記者とどこか似ているように感じます。都会の人から言わせると、「なまっている」感じ。田舎から出てきた身としては余計なお世話という気持ちですが、なぜ似た話し方に聞こえるのか探ってみると、そこには降る「雨」となめる「飴」のように読みは同じ「あめ」でも、アクセントで区別しないという事実が関係していました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
勝手に親近感を覚えている宮崎の話し方。その中心地・JR宮崎駅前で通りかかった人に声をかけてみました。子どもと一緒に歩いていた女性(33)は大学時代、東京にいました。「周りで九州から出る子はあんまりいなかったけれど、私は都会に住んでみたかったんです。たしかに最初はなまっていると言われましたね。けれど、それもキャラの一つとして生かせました」と県外に出たときのことを振り返ってくれました。
一方、観光地の青島神社近くでも聞いてみました。福岡から来たという男子大学生(21)は、「大学で宮崎出身の人と初めて話した時、東北出身の人かと思いました。とは言っても、東北の人も実際に会ったことはなく、テレビで見たことしかないですが」と話します。
なんとなくのイメージする東北と宮崎の話し方は重なる部分があるようです。福岡の人にとって、距離的に近いはずの宮崎の言葉を聞いて遠い東北が連想されるのは、何だか不思議なものです。
福島と宮崎に共通しているのは、抑揚のない平板な話し方だということ。イメージしにくいかもしれません。例えば福島のお隣・栃木の芸人「U字工事」の2人の話し方を思い浮かべてもらうと、分かりやすいかと思います。
単語自体はかなり違うのになぜ似た話し方に聞こえるのか、専門家に取材しました。教えてくれたのは金沢大学の加藤和夫教授=日本語学=です。本題に入る前の基本として、混同することが多いのですが、アクセントとイントネーションは違います。
ざっくりと、アクセントは音の高低が単語ごとに、イントネーションは文全体の意味によってつくと考えると良いでしょう。さらに、普段あまり意識することはありませんが、英語のアクセントは音の強弱、日本語のアクセントは音の高低という違いがあります。
日本語のアクセントは大きく、「京阪式」「東京式」「無(無型)」の三つに分類されます。京都・大阪などが代表の「京阪式」は「東京式」と比べてかなり複雑なアクセントです。東京式アクセントを「雨」と「飴」を例にとって見てみます。
日本の多くの方は感覚的に理解できるかと思いますが、記者はいまだに、単語で「あめ」とだけ聞いても、どちらを指しているのか判別できません。加藤さんによると、京阪式と東京式にはアクセントの高低のルールがありますが、無アクセントは「雨」と「飴」などの同音異義語でも高低のルールがありません。
他にも区別しないものの代表例としては「蛙」と「帰る」、「スイカ」と「Suica」などがあります。しかし、無アクセントと言っても、常に音の高低がつかないわけではありません。その時々で変わることもあるようです。
そもそも高低のルールが存在しないために、どちらかを判別するかは難しいのです。記者の出身地・福島も宮崎も、その無アクセント地域でした。
無アクセントの代表的な地域として、南東北から北関東(宮城、山形の一部と福島、栃木、茨城)や九州(宮崎、熊本北部、福岡南部、佐賀、長崎の一部)などがあります。それ以外にも、語の長さに関係なく2種類のアクセントしか現れない「二型アクセント」(鹿児島など)、単語や文節の最後だけが高くなる「尾高一型アクセント」(宮崎・都城など)といったものも。
なぜ無アクセントは、都会でない全国に散らばっているのでしょうか。理由として、無アクセントは日本語の古いアクセントが残ったからだと考える研究者もいるようです。
実は2018年春まで記者が赴任していた北陸・福井の県庁所在地でも、福井市を中心とした地域が無アクセント地域で、似たような話し方をしていました。ホッとするような、どこまでも似た言葉から逃げられないような…。
福井は県内に「京阪式に近い」「二型(京阪式がより単純化)」「あいまい(決まりがあいまい)」「無(無型)(決まりをなくした)」「東京式」など、多くの種類のアクセントが混在する珍しい県で、研究者の中には「アクセント銀座」と呼ぶ人もいるそうです。
無アクセントだとしても日常生活では何も不自由しませんが、職業によっては大変です。福井にいた2016年、地元出身でキャスターをしていた女性(当時24)に、無アクセント地域で生まれたことによる苦労を聞いていました。
アナウンサーやキャスターは言葉をお手本のように操らなければならず、「無アクセント地域からなるのは無理」と言われた時代もありました。そんな中、女性はがっつり無アクセント地域の坂井市坂井町出身。普段は「ほやってぇー」などと福井方言のネイティブスピーカーですが、テレビではしっかりと話していました。
横浜の大学に進学するまで、地元生まれの祖父母や両親と同居し、方言に囲まれていたという女性。中学校で転機が訪れました。「単語ごとにアクセントがあるなんて全く知らなかった」という女性が入ったのは放送部。厳しい教師に「アクセントが違う」と何度も指導され、泣くこともありました。「ここは高い音から低い音へ」などと一語ずつアクセントを「日本語発音アクセント辞典」で調べ、原稿に線を引いて猛練習しました。
その成果で、中学2年時と高校3年時に全国放送コンテスト・朗読部門で優勝。アナウンサーを漠然と将来の目標にしました。大学時代はアナウンススクールに通って技術を磨き、取材当時、キャスターの職を得ていた女性は「方言と共通語のどちらも話せる利点を生かした伝え手になりたい」と話してくれました。
加藤さんによれば、日本語のアクセントは、京阪式から東京式、さらに区別の少ないアクセントから無アクセントへと変化してきたと考えられるそうです。東京あたりでも、よく使う語からアクセントの平板化が進んでいるとのこと。
今後、アクセントが変わりゆく中で、記者が生まれ育った東北・福島の無アクセントがおしゃれな言葉としての地位を築く日が来るかも、そんなことを夢見ています。
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