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#脱ステ は「親のエゴだった」ステロイドへの不安、信じた結果……
「ステロイドは怖い薬」と信じ込んでいたお母さんは、子どものアトピー性皮膚炎の治療をステロイドの塗り薬に切り替えたママ友に、「ずるしてキレイに治ってどうするの?」とさえ思っていた――。インスタグラムやネットで「 #脱ステ 」を検索しては「同志」を探す日々。根拠のないネガティブな情報ばかりを信じた結果は……。「怖くて使えない、というのは親のエゴだった」。過去に子どもを「脱ステ」で治そうとしたお母さんに話を聞いた。
8年前に長男(7)を出産した大阪在住のなーみんさん(36)。ブログ(http://na-min.blog.jp/)で育児のようすをイラストつきで発信している。
長男は赤ちゃんの頃からおなか周りの皮膚がざらざらしていた。ネットに「子どもに保湿をすると保湿する力が育たない」と書いてあったのを信じた。特にスキンケアはしていなかった。
2歳になった頃、ひざの裏に湿疹があるのに気づき、自宅近くで皮膚科も標榜している診療所に連れていった。
女性医師から「アトピー性皮膚炎ですね。治ったらすぐにやめてください」と言われ、ステロイドの塗り薬を処方された。
塗るとすぐに症状が上向き、言われたとおりにすぐにやめた。けれど、少し経つとまた発疹が出てくる。そのたびに診療所を受診すると、処方されるステロイドがどんどん強くなっていった。
「大丈夫なのかな」と不安になった。
実は長男の出産直後、自分の顔にできた発疹の治療でステロイドを使ったことがあった。塗ると一気に肌がきれいになってすぐにやめたが、直後に腫れた。
数日で腫れはおさまったが「すごく効くけど怖いんだな」と思い込んでしまった。
なーみんさんがネットでステロイドを検索すると、「毒」「体に蓄積される」と書いてあった。だんだん悪いことしか目に入らなくなった。
「『こんな怖い薬を子どもに使ってしまったんだ』と思って。本当に怖くなっちゃって」
「ステロイド」「使わない」といったキーワードで検索すると、通える距離にクリニックがあるのを知った。口コミもよかった。
治療を始めて3カ月ほどですぐに病院を変えた。
待合室は混み合っていて、自分の子どもより肌が荒れている子もいた。
「ステロイドは怖い」といったタイトルの本が並び、クリニックの医師が登場する記事が壁に貼ってあった。「有名な先生なんだ」とホッとした。
診察室へ行くと、男性医師からは「大変でしたね。うちはステロイドは一切使いません」「保湿もしないでくださいね。ステロイドが含まれている鼻炎の薬も処分して下さい」と言われた。
このクリニックではかゆみに対して使う〝酸性の水〟を無料で出された。機械で特別な処理をしてあり、全身にこまめに吹きかけるという。次からは2リットルペットボトルを持ってくるよう言われた。
体に吹きかけると、なんとなく症状がよくなったようにも見えた。
医師がじっくり話を聞いてくれ、「大丈夫、ステロイドなしで治療しましょう」という言葉をかけてくれたこともあり、「信じてついていこう」と思った。
インスタグラムのアカウントに投稿すると、同じクリニックに通っている人から「すごくいい先生」「信じていれば治るよ」とコメントがついた。
「仲間がいる。私だけじゃない。アトピーは簡単に治らないとも書いてあったし、頑張ろう」と励まされた。
保育園の先生にも「お昼寝のあとに吹きかけてください」と水の入った霧吹きを渡した。
その〝酸性の水〟がなんなのかを知りたくて検索した。「効果がない」と書いてある記事もあったが、それだけ見ない振りをした。なかば疑問に思いつつも「信じたい」という思いがあった。
2014年末に次男を出産。生まれてすぐに顔や首に湿疹が現れた。クリニックに次男も連れていくと、アトピーと診断された。
長男よりも症状がひどく、特に顔の周りの皮膚が赤く、ひどいときはじゅくじゅくして汁が出ていた。
3カ月検診で医療機関を訪れ、男性医師との問診で、ステロイドが怖いので酸性の水でアトピーを治療していると伝えた。
「僕ならステロイドで治療するけどね」。医師は鼻で笑うように、あきれたように言った。
どうしてそんな風に言われなければならないんだろう。涙をこぼしながら家に帰った。
保健師からも「どうしても嫌? ステロイドを使って治す方法もあるよ」とパンフレットを渡されたが、「余計なお世話」とさえ感じた。ますますかたくなに「ステロイドを使わずに治すんだ」と思い詰めた。
ネットを見た夫も「こんなに怖い薬なんだね」と治療方針を応援してくれた。
インスタグラムでは、拡散や検索に使えるハッシュタグで「#脱ステ」を調べた。脱ステ前と後の写真を並べている投稿もあり、きれいな肌になっている写真も見つかった。「たくさんのお母さんが脱ステで頑張っている」と思った。フォローして互いにコメントしあった。
だが、長男と次男のアトピーはなかなかよくならなかった。クリニックでは「すぐには治りません」「長い目でみて頑張りましょう」と言われ続けた。
深夜にかゆくて起きてしまう長男。「かかないで」「我慢して」と言うしかできない。自分もイライラしてしまう。わらにもすがる思いで、「アトピーに効く」という3千円ほどの化粧品も買った。お風呂のあとに泡のようなクリームを塗るもので、むしろ悪化したようにみえた。
ある日、インスタグラムでフォローしていた「脱ステママ」のひとりが、「ステロイド治療に切り替えました」と投稿していた。
「裏切られた」と感じた。
「あんな怖い薬を使ってきれいになって、満足なの? ズルしているみたい」
ただ、そのママが投稿していた、肌のツルツルした赤ちゃんの写真が忘れられなかった。
次男が生後5カ月にさしかかる頃、症状が一番ひどくなった。
クリニックからは「アトピーじゃないかもしれない。アレルギー用のミルクに変えて」と言われた。するとおなかの調子がどんどん悪くなった。1週間ほどでクリニックとは別の小児科へ連れていった。
医師からは、まずはミルクを戻すよう言われた。さらに「今やっているアトピーの治療は、合う子もいれば、合わない子もいるのかもしれません。専門的に診られる病院を紹介するので、受診してみませんか」と勧められた。
初めて「もしかしたら子どもに合わないことをずっとしていたのかもしれない」と感じた。
それでも「ステロイドはできるだけ使いたくない」という気持ちが根強く残っていた。
脱ステを始めたときに書いたブログには、「親にステロイドを使われて今でも恨んでいます」「使い続けて手放せない体になりました」といったコメントが寄せられていたからだ。
半ば不安を残しながら、アトピーやアレルギーを専門で診る科がある病院へ行った。
次男の血液検査をすると、アトピーの重症度をあらわす値が大幅に高かった。
専門医の女性医師はきっぱりと言った。
「アトピーは、ステロイドを使って治療する病気なんですよ」
改めてそう言われて、目からうろこが落ちたようだった。
肌が荒れたまま離乳食が始まると、食物アレルギーのリスクも高まるとも説明を受けた。
ステロイドをやめるとまた湿疹が出て、強い薬になっていくんじゃないか……。そんな恐怖感を伝えると、湿疹を「火事」に例えた説明をうけて腑に落ちた。
「一見、火が消えたようにみえても、下に火種が残ってくすぶっているんです。だからぴたっと薬をやめるとまた火事が起きてしまう。この火種をなくすために、コントロールしながら使うんです。最終的に薬を使わなくてもいいように頑張りましょう」
「『ステロイドが怖くて使えない』というのは親のエゴだった」と感じるようになった。
軟膏を指にたっぷりとり、肌を覆うようにして厚塗りした。こわごわと試してみたが、翌朝、次男の顔から赤みがひいていた。
「こんなに色白だったんだ」。3日目には湿疹が目立たなくなった。激変した次男の皮膚をみて、長男も同じ病院に連れていこうと決意した。
次男よりも症状が軽いと考えていた長男は、皮脂の量が足らず、すぐに付き添いで入院することになった。一日じゅう、2~3時間おきに一度ステロイドを塗った。これまでのように、かゆみを訴えて夜中に起きることもなかった。
「これまでかゆくて眠れない日もあったのに……睡眠不足だったかもしれない。本当にかわいそうなことをしてしまった」
3泊4日の入院が終わると、長男の皮膚も見違えたようにすべすべになった。
これまで「脱ステ」を発信していたブログで「ステロイド治療を始めた」と書くのは勇気がいった。だが、同じような体験をほかの親にしてほしくないと思い切って書くと、ステロイドを悪いと断じる人たちからは「親失格だ」「今はよくても大人になって苦しむ」といったコメントやメッセージが届いた。
また「ステロイドが怖い」という気持ちにぐらっと傾いたが、病院の待合エリアできれいな肌の子どもを見ては「大丈夫」と言い聞かせた。症状が落ち着いてもすぐにステロイドをやめない「プロアクティブ療法」を続けた。
3年以上経って、今は2人とも朝と夜に保湿剤を塗ることがメインの治療になった。
ゼロ歳で治療を始めた次男は、手や足に時たま湿疹が出ることはあるが、ほとんどステロイドは使っていない。遅く始めた長男は、皮膚がこすれるところでいまだに湿疹が出るが、使う量は大幅に減った。
「ステロイドは怖い薬」と信じていた数年前の自分は、「ステロイドのデメリット」という根拠のないネガティブな情報ばかりを信じていた。「脱ステロイドのマイナス面」といった情報も届いていたら、もっと早く治療に踏み出せたかもしれないと思う。
母親学級などでステロイドやワクチンについて科学的根拠をもとに伝えてほしいし、「アトピーが治る」とうたった商品を売って悩む親子をだますようなビジネスはなくなってほしいと感じる。
子どものためだと信じて「脱ステ」を選ぶ親の気持ちは痛いほど分かる。だから批判や否定はしたくない。
けれど、子どもは「ステロイドを使いたい」「使いたくない」と主張できない。「どうしたら子どもが楽になるか」「治るか」を第一に考えてあげるべきだったと振り返る。
「もし、ステロイドを使わない治療で子どもの症状がなかなかよくならないなら、勇気を出して考え方を変えてみてほしいです」
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