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2019年04月17日

受けた相談1000件以上 野球「イップス研究家」が語る人生最悪の試合


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慶応高校時代の谷口智哉さん(左から2番目)はイップスに苦しんだ

慶応高校時代の谷口智哉さん(左から2番目)はイップスに苦しんだ

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 「イップス」という言葉をご存じでしょうか。スポーツなどで「今まで何の気なしにできていたことが、何らかの重圧などで、思い通りにできなくなる」状態を指します。野球では、特にキャッチボールで起きることが多いです。

 当時はつらくても、現在は乗り越えた経験を生かし、「LINE」などでは計千件以上も相談に乗っている谷口智哉さん(24)にイップス体験談を聞きました。(朝日新聞スポーツ部記者・井上翔太)

「飛んでくるな…」

 神奈川の名門・慶応高校野球部だった谷口さんが、イップスに陥った決定的な「事件」は、高校2年の秋でした。

 神奈川県大会の3回戦。控えの外野手だった谷口さんは、七回の守備からレフトの位置に入りました。

 このときすでに「常に重圧があって、野球をつまらなく感じていた時期」。投げる感覚に「あれっ?」と思うことが多かったようです。守備位置について感じたのは、後ろ向きな思いでした。

 「飛んでくるな……」

 なぜか、そういうときに限って、打球が飛んでくるもの。1死一塁から、相手がフライを打ち上げて、びっくりしたそうです。

 後方への飛球だと思って、背走。しかし振り返ると、思ったほど飛んできていませんでした。
 
 「やばい!」
 
 慌てて前進して、頭から飛び込みましたが、間に合わず、打球は後ろを転々。内野手への返球も暴投となり、ピンチを広げてしまいました。

慶応高校時代の谷口さん。代走からの出場も多かった

慶応高校時代の谷口さん。代走からの出場も多かった

出典: 谷口さん提供

「サイン見逃したんじゃ…」

 守備が終わり、ベンチに戻ると「準備しとけよ」「切り替えろ」と発破をかけられた谷口さん。すると打席で信頼を取り戻すチャンスが、やってきました。

 1死一塁、サインは「送りバント」。
 チーム内での谷口さんの立場からすると、「成功させて当たり前」と思われる作戦です。

 1球目、ファウル。
 2球目、ファウル。

 追い込まれ、サインが「打て」に変わりました。
 3球目。変化球にバットを合わせ、レフト前ヒット!
 
 一、二塁にチャンスを広げましたが、一塁ベース上の谷口さんは「まだ体が浮いている」と頭が真っ白。
 ぼーっとした感覚だったそうです。ここにまた落とし穴がありました……。

 「ん、サインを見逃したんじゃないか……?」

 走者は塁上にいるとき、ベンチから出されるサインを確認します。まだ緊張がほぐれていない谷口さんは、ベンチを見ていなかったことに、焦りを感じてしまったようです。

 でも、少し冷静に考えると分かりますが、リードしている展開の1死一、二塁で、作戦が繰り出されることは、まずありません。
 ただ、このときの谷口さんに、そこまでの余裕もありませんでした。

慶応高校時代のチームメートと

慶応高校時代のチームメートと

出典: 谷口さん提供

監督の表情は「マジか、こいつ…」

 「事なきを得るために、二塁ランナーを見ようと思ったんです」

 当時、慶応高校は、投手の投球と同時に、スタートを切るようなリードを取ることが徹底されていました。二塁ランナーを見ていた谷口さんは、その動きが「三塁に走った!」と見えてしまい、自身は慌てて、二塁に向かって全力疾走しました。

 結果は、言わずもがなです。

 投球後、捕手から一塁に送球され、谷口さんは一、二塁間に挟まれました。
 その間に、二塁走者が三塁を狙いましたが、タッチアウト。

 二塁ベースに到達した谷口さんは、ベンチで「マジか、こいつ」というような監督の表情を、今でも覚えているそうです。試合には勝ちましたが、自信は地に落ちました。

イップスは才能である

今では自身の体験をもとに、乗り越えるヒントを伝える

今では自身の体験をもとに、乗り越えるヒントを伝える

 「本番で結果が出せない」「メンタルが弱い」

 半ば自暴自棄に近い状態となり、練習でもキャッチボールが、思うように投げられなくなりました。
 野球部を引退するときは、他のチームを偵察する役割。

 「何のために野球をやっているのか。全く実力を発揮できていない」

 大学で野球を続けると決意し、わらにもすがる思いで、イップスのケアをする専門家のもとを訪ねました。
 
 そこで気付かされたのが「イップスは才能である」ということ。

 「野球を真剣にやっていない選手は、そもそもイップスにならない。これを乗り越えたら、一つ上のステージに行ける」

 固定観念をすべて捨て、自分の体に合った投げ方、ボールの握り方、目の使い方を「ネットに向かって投げながら、研究していきました」。結実したのは慶大4年のとき。合宿で行われたノックで、センターから三塁に理想通りの強い送球を連発。コントロールも抜群だったそうです。

 「覚醒です。大学で試合には出られなかったけど、イップスを振り払った達成感はありましたね」

投げ方を助言する谷口さん(左)

投げ方を助言する谷口さん(左)

出典: 谷口さん提供

内定辞退してまで

イップスに悩む球児は多い。谷口さん自ら直接話を聞くことも

イップスに悩む球児は多い。谷口さん自ら直接話を聞くことも

出典: 谷口さん提供

 自身の経験を踏まえながら、今でもイップスに苦しむ人たちに寄り添いたい――。

 就職が決まっていた企業の内定を辞退して、2017年からツイッター、LINE、YouTubeなどで発信を続けています。

 悩んでいる選手には実際に会い、彼らの経歴や「どんな選手になりたいか」などの聞き取りを行うことも。

 「気持ちの持ち方で、活躍する可能性を逃している選手も多いのでは……」

 そんな思いが、今の谷口さんを突き動かしています。

「トモヤ@イップス研究家」としてチャンネルを開設している谷口智哉さんのyoutube動画

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