きゃりーぱみゅぱみゅさんや、中田ヤスタカさんらが所属するアソビシステムは、芸能事務所の枠を超えて、クールジャパン、KAWAIIカルチャーを先導する存在になっています。ところが、社長の中川悠介さんは「そういう名前にはこだわらない。軌道修正しづらくなっちゃうから」と言います。ツイッターやインスタで人気のアーティストたちを率いる一方、「きゃりーがどんなにSNSに強くても、テレビに出る」と言う中川さん。インバウンドやアイドル、そして芸能事務所の役割について聞きました。
アソビシステムのアーティストは、それぞれツイッターなどSNSで固定のファンをたくさん持っています。中川さんは「100万人を狙わなくても、好きなこと好きっていえる5万人がいれば強い」と強調します。
「SNSに強い、セルフプロデュースが得意な子たちを見ていて思うんですけど、10万人のファン、もっと言えば1万人のファンに届けることが大事なんです。100万人なんて別に狙わなくても、好きなこと好きって言える5万人がいれば強いのかな。どれだけ熱量を持っているか。伝えることにウソがなくて、好きなものが一緒で、その子自体のライフスタイルも好きですっていうところが大切」
中川さんが一つの指標にしているのは同性のファンがいるかどうか。
「きゃりー(きゃりーぱみゅぱみゅさん)のように、同性のファンがいることは強みになる。異性を超えて、ジャンルという存在になる。もともとイベントを企画する会社だったので、イベントに出てもらう子を集めていたら、結果的にそこに行き着いた感じです。一人一人がメディアの時代なので、その情報をどうやって伝えるか、そのこと自体が、発信者のアイデンティティーになる」
KAWAII文化の象徴の一つがアイドルですが、中川さんはアイドルについて「作り込んでいくもの」と説明します。
「例えば同じ衣装をきたりとか、シリーズで一緒だったりとか。一方で、きゃりーのようなアーティストは、作り出していく存在。自分のアイデンティティーの中で、自分がやりたいことを作り出していく。作り込むのと作り出す、両方ともすごくいいカルチャーだと思います。きゃりーも、20年前にデビューしたらアイドルだったんじゃないかな」
趣味趣向の細分化が進み、マスメディアの存在感は薄らいでいます。そんな中、中川さんは「メディアに出ることより、どうやって出るかが大事」と言います。
「やっぱりテレビには影響力がある。伝え方だと思うんです。何の理由でどうやって出るかを考えることが求められています。『ストーリー』がないものは、すぐ人の記憶から消えてしまうので。でも『閉ざす』ことはしない。きゃりーがどんなにSNSに強くても、テレビに出る。SNSってフォロワーがたくさんいても、一人称だと思うんです。テレビは違う。お茶の間にいるのが4人なら4人が違う意見でしゃべるから」
様々な発信手段が増える時代、中川さんは、芸能事務所の役割が「逆に大切になってくる」と見ています。
「テレビだけじゃなくて、SNSなど、色んなプラットフォームからスターが出てくる。でもそれはプラットフォームの中のスターじゃないですか。プラットフォームを超えるスターをつくっていくことが大切。きゃりーもある意味、ユーチューブでヒットして、そこからテレビなどに出てきて人気になった。そこはやっぱり芸能事務所の仕事なんじゃないかな。人と人とのセッション、コミュニケーションの中での人づくりだと思っている」
クラブに行ったことがないような人も、所属アーティストの名前は知っている。アソビシステムには、そんな最先端と大衆性が同居しています。
「クリエーターという立場だったら、自分がいいと思う究極のものを作り出すのが役割です。僕らみたいなプロデューサーはそれを、どうやって世の中に伝えるか。今は『これおいしいよ』じゃなくて『これおいしいらしいよ』の方がはやると思うんです。『なんとか風』と偽物は違うと思っています。人に言ってもらうことが大事。そうやって広まっていく時が、プラットフォームを超えていく瞬間だと思う」
原宿というイメージが強かったアソビシステムですが、2018年12月、銀座に大型の音楽ラウンジ「PLUSTOKYO」をオープンさせました。中川さんは「まわりから見たら『なんで?』と思うかもしれません」と認めつつ「僕たちからすると、けっこう自然発生的になっていった」と説明します。
「東京の象徴でもある銀座は、すごく面白いエリアだなと思っていました。歴史ある街である一方、外国人観光客にも人気で。色んなことが混ざっている感じ。そんな銀座の文化や伝統ある人たちと一緒に新しい街を作っていきたい」
銀座に対してアソビシステムの「おひざもと」である原宿は「作り込んでいく街」だと言います。
「原宿は作り込んでいく街。ファッションも若いブランドが多くて、裏に一本入ると民家を改装した服屋さんとかもいっぱいある。そういう意味で下町っぽさもある。銀座は大人の街と言われているように、とにかくきれい。歩きやすいし、路地裏感はないじゃないですか」
「PLUSTOKYO」で中川さんは挑戦しようとしているのは、日本人の遊び方の固定概念を崩すことです。
「ここは、昼からやってますし、食事もできます。人それぞれの楽しみ方でいいんじゃないかなと思っています。日本人って、ランチはこういう店、ディナーはこういうものっていう固定概念が強い。別にここで仕事をしてもらってもいいし、音楽がかかったら踊ってもいい。海外のホテルのロビーみたいな、朝、昼、夜で顔が変わっていきながらもちゃんと同じ。空間の過ごし方が上手に変わっていくような場所を意識していますね」
外国人観光客でにぎわう銀座に開いた「PLUSTOKYO」ですが、インバウンド施設を目指しているわけではないと言い切ります。
「常に狙いすぎないというのが大切だと思っています。本当に自分たちがいいって思えるものの中に、自分たちのテイストを入れていくのが大事。日本に2人しかいないと言われている銭湯絵師の方に描いてもらった富士山は、裏は赤富士になっています。そんな、ちょっとした遊び心。音楽も同じだと思っています。J-POPってJ-POPの中にロックもバンドも入ってるじゃないですか。『PLUSTOKYO』はインバウンド施設ではないですし、日本人でも外国の人でも楽しんでもらえると思っています」
そんな中川さん。今では「クールジャパン」の旗手のような存在ですが、実際のサービスが追いついていなかった時期もあったと振り返ります。
「(2014年からあるインバウンドプロジェクト)『もしもしにっぽん』は、始まった当初より今の方がニーズが強いんじゃないかと感じています。当時もインバウンドって言われてましたけど、企業とか実際のサービスが追いついていなかった。今はそれがそろってきたと思います」
中川さんが気をつけているのは「定義付けない」ということ。
「日本人の悪い癖だと思うけど、定義づけをしようとするから失敗する。軌道修正しづらくなっちゃう。名前にこだわりすぎな気がします。なんとか戦略、とか、言いやすいけど、それはメディアで表現しやすいだけなので。僕らはあんまりレールを敷かない、ゴールを決めないと思っていて。ふわふわした状態で色んなことを進めると、そこから何かが始まっていく。ゴールを決めたらそこから逆算じゃないですか。それはクリエーティビティーじゃないと思っている」
「成功すればそれでよくなってしまうじゃないですか」