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2019年04月01日

「これって病院行くレベル?」不安に応える医療アプリ作った医師


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アプリ「教えて!ドクター」のトップ画面。「緊急です!」をタップすると…

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深夜に子どもが高熱を出した……病院に連れていくべき? 「ステロイド」って「怖い薬」なの? ネットで検索してもたどりつくのが難しい根拠のある医療情報。不安な気持ちで病院に駆け込んだら、それほど深刻ではなかったということもあります。長野県佐久市の小児科医たちは、スマホアプリやSNSで発信する取り組み「教えて!ドクター」を続けています。「PDFをアップしただけじゃだめだ!」。病院の外に飛び出した医師たちの活動は、親の不安解消だけでなく救急現場の負担減にもつながっています。

発熱の子、1時間半かけて救急外来を受診…リスクも

「子どもが熱を出して、不安で」……。積雪が2メートルにもなる福島県の山間部。お母さんは1時間半かけて雪道を運転し、深夜に救急外来を受診しました。

2011年当時、南会津町の病院で働いていた小児科医の坂本昌彦さん(現・佐久医療センター)は、その日の当直にあたっていました。病院がカバーするエリアは神奈川県ほどの広さ。夜間に診療しているのは坂本さんが働く病院だけでした。

その子どもを診てみると、医師にとっては少し熱が出ただけの〝軽症の患者さん〟でした。

坂本さんは「子どもを心配しながら雪道を1時間半かけて運転する方が危ないのでは…と思ったんです。ホームケアの知識があれば、リスクを冒してわざわざ受診しなくてもよかった。その情報を提供していかなければと考えたんです」と振り返ります。

「教えて!ドクター」で発信する坂本昌彦さん

「教えて!ドクター」で発信する坂本昌彦さん

東日本大震災直後で、沿岸部の浜通りから避難してきた人もたくさんいました。雪道の運転に慣れていない人や、放射能の不安を抱えている人も多かったそうです。

「『医療情報を知りたい』というニーズはあるな、と思いました。それに応えるには病院の外に出て知らせていかないと」

坂本さんはオリジナルの冊子を作って勤務の合間に保育園をまわり、保護者に集まってもらって「小児科医の出前講座」を開きました。病院の受診の仕方や、ホームケアについても説明。保護者の聞きたいことと、医師が「伝えるべきだ」と思っていることにずれがあることも実感したといいます。

冊子のPDF、スマホは見づらい……アプリを作ろう!

2012年から途上国で働き、2014年に長野・佐久に就職。場所が変わってもニーズは変わらないと感じていた矢先、2015年に「教えて!ドクター」のプロジェクトの話が舞い込みました。

長野県佐久市が、「子育て力向上」の予算をつけることになり、佐久医師会に事業を依頼。それを聞いた坂本さんが「子どもの医療情報をまとめた冊子をつくりたい」と手を挙げました。

分かりやすく伝えるためにイラストが大事だと考えていた坂本さんは、佐久市のグラフィックデザイナー・江村康子さんにデザインを依頼します。

福島で作ったオリジナル冊子をベースに、どんな項目が必要か看護師たちにも相談しながら、まず最低限必要の情報を盛り込みました。

並行してネットでどう配信するかも話し合いました。「冊子をPDFでアップしても見てもらえない。やっぱりアプリを作ろう」と決め、佐久に住んでいたアプリ開発者・佐藤奈緒さん、直樹さん夫妻(北海道在住)に協力をお願いしました。

互いの仕事の合間にフェイスブックのメッセンジャーで細かなやりとりを進めながら、2015年12月に冊子が完成。翌年3月にアプリが完成しました。



7万8千件のダウンロード

情報のアップデートは続けています。もともとのオリジナルから「けが」「虫刺され」を追加し、熊本地震の際にSNSで発信した情報への反響が大きかったため、第2版で「災害対応」を入れました。第3版では「薬ののませ方」や「マイコプラズマ」、「溶連菌」を追加しました。

これまでに計7万8千件のダウンロードがあったアプリ。ツイッターやフェイスブック、インスタグラムといったSNSでも情報を発信しています。

そんなアプリが爆発的に広まったのは「子どもは静かに溺れる」と紹介した投稿がきっかけでした。

子どもは「静かに溺れる」

2017年ごろ、坂本さんが2歳の子どもをお風呂にいれていたとき、目線を少し外したら、その一瞬の間にお湯の中へ沈んでいたといいます。慌てて引き上げましたが「あれ? 全く声がしなかったな」と疑問に感じていました。

海外の文献などを調べたところ、米国の沿岸警備隊では「静かに溺れる」と啓発していることが分かりました。「日本でも知ってもらおう」と、江村さんがイラストを描いて、すぐにツイッターで紹介しました。すると情報が拡散。アプリのダウンロードにつながったといいます。

アプリが爆発的に広まったのは「子どもは静かに溺れます」という情報発信がきっかけ

アプリが爆発的に広まったのは「子どもは静かに溺れます」という情報発信がきっかけ

出典:教えて!ドクター

SNSには限界も 大事にしている「出前講座」

ただ、アプリやSNSでの情報発信には限界があります。せっかくのツールがあっても、信頼してもらい、うまく使ってもらわなければ意味がありません。

「教えて!ドクター」が大切にしているもう一つの柱は「出前講座」です。

坂本さんや江村さんが、今年度は30カ所の保育園を回って、お母さんたちの元へ出向いて、医療情報を伝えました。

講座では「うちの子は爪をかむクセがある」「おねしょはいつまで大丈夫か」といった診察室では聞けないような疑問や不安の声が出てくるそうです。

「SNSだと、自分とは違う意見を見てもパタッと閉じてしまうだけ。例えばワクチンを受けたくないという人に、『ワクチンの大切さ』を何度も発信しても、なかなか届かないですよね。

ただ、出前講座だと、自分とは違う意見を医師が話し始めても、そこで席を立つってなかなかできません。偶然の出会いで聞いているうちに『意外とその意見もありだな』と思ってもらえれば、と考えています」



「ステロイド」嫌がる母親には……

なかには、診療の時にかたくなに薬の「ステロイド」を嫌がるお母さんもいるといいます。

炎症や体の免疫力を抑えるステロイドは、アトピー性皮膚炎や湿疹のほか、鼻炎やぜんそくの治療でも使われますが、過去にテレビ番組や本などで偏った情報が流布し、「怖い薬」というイメージが残ってしまっています。

坂本さんは、まずお母さんたちの思いや不安を受け止めると言います。

「お子さんのことを考えているからなんですね」と伝えると、これまで「ステロイドを使わないなんて」と責められるように感じてきたというお母さんから「医師からそんな風に言われたことがなかった」と驚かれたこともあるそうです。

「『教えて!ドクター』はイラストの力がとても大きいと思っています。相手を責めるのではなく、包むようなあったかいイラスト。多くのお母さんが自然と耳を傾けてくれるような取り組みになっているのでは」



「治す」だけではない医療の役割

坂本さんたちの活動の価値は、治すだけではない医療の役割を形にしているところです。

出前講座で配布している冊子版は、祖父母にも使われているといいます。そこで起きているのは「子育てギャップ」の解消です。

スキンケアや食物アレルギーの対応、ミルクのあげ方などは時代に応じて変わってきます。当時は常識だったことが、全く別の方法になってしまうこともあります。

根強く残りがちな「子育ての自分たちの常識」は、トラブルを生む原因になりかねません。

祖父母世代に新しい情報が届くことで、冊子版は世代間の情報共有のツールになっています。現役世代の子育ての助けになれば、これもまた医療の一環と言えるのかもしれません。

災害時の対応もまとめている「教えて!ドクター」

災害時の対応もまとめている「教えて!ドクター」

海外でもダウンロード 災害時も使えるように

新たなニーズも見つかっています。

アプリがダウンロードされているのは、ほとんどが佐久市外。東京・大阪といった大都市圏のほか、海外でもかなり使われているそうです。

渡航医療にも詳しい坂本さんは「海外では、日本にいるとき以上に〝病院に行く〟というハードルが上がります。言葉の壁もあり、薬も違う。病院で言われたことを『これって信じていいの?』と悩む人も多いんだと思います」と指摘します。

軽症の患者さんが自宅でのケアで過ごせるようになれば、病院に連れていく保護者だけでなく、救急現場の医療関係者の負担を減らすことにもつながります。

アプリならネット回線がない大災害の時も使えます。不安が解消され緊急時の現場が動きやすくなれば、これもまた医療の一環になりえます。

一方、課題は資金です。アプリは無料ですが、システム改修といったランニングコストは佐久市が負担しています。多くの親たちが助かる取り組みには、さらなる財政的な支えがあるべきではと感じました。

坂本さんにとって励みになるのは、ユーザとの双方向のやり取り。

「アプリを参考にして、病院に行かずに過ごせました」「インスタのイラストが役立ちました」

そんな言葉をかけてもらえる時が一番、うれしいそうです。

アプリ「教えて!ドクター」 緊急です!をタップして、症状別に…
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