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「反ワクチン」「脱ステロイド」情報が…発信始めた #インスタ医療団

インスタグラムで「脱ステ」と検索すると多くの投稿がヒットする
インスタグラムで「脱ステ」と検索すると多くの投稿がヒットする

目次

「ステロイドは危険」「ワクチンは受けさせない方がいい」……。SNSで「ぱぱしょー」というアカウントで発信する小児科医・加納友環さん(37)は、インスタグラムに偏った医療情報があふれているという危機感を持つようになりました。「インスタユーザーにも根拠ある医療情報を届けたい」と思い、イラストを使って分かりやすく医療情報を発信し始めました。賛同する医師たちが続き、ハッシュタグ「#インスタ医療団」をつけた取り組みが広がっています。
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「ワクチン受けさせるな」「脱ステロイド」インスタで

「インスタがやばいことになってます」

「パパ小児科医(ぱぱしょー)」のアカウント名で活動している大阪南医療センターの加納友環さんがツイッターで発信したのは昨年11月ごろ。

自分のまわりでは、同年代も、受診にくるお母さんたちも含め、ツイッターよりもインスタグラムを使っている人の方が多いと感じていました。

そこで、インスタグラムでも情報を発信しようと、アカウントを作って情報を検索していたところ、科学的な根拠なくワクチンを受けないよう広める「反ワクチン」、「ステロイドは怖い薬」と一方的に決めつけ、アトピー性皮膚炎や湿疹治療に使わないよう訴える「脱ステロイド」の情報があふれていると気づきました。

パパ小児科医・ぱぱしょーさんとして発信する加納さん
パパ小児科医・ぱぱしょーさんとして発信する加納さん
同じ分野に興味のある人が情報を探しやすくするハッシュタグでは「#ノーワクチン」「#自然派」が人気を集め、「#脱ステロイド」のタグには、ただれた赤ちゃんの肌の写真もありました。

加納さんは「科学的根拠のある医療情報がインスタにはありませんでした。ワクチン反対や脱ステロイドの情報と同じぐらいの量を出して、探せるようにしていかないといけないなと感じました」と振り返ります。

SNSで発信するほかの医師たちも趣旨に賛同し、京都大皮膚科医の大塚篤司さんの発案で「#インスタ医療団」というハッシュタグが立ち上がりました。
ハッシュタグ「#インスタ医療団」の投稿
ハッシュタグ「#インスタ医療団」の投稿

発信のきっかけ、ネットにあふれる「母乳神話」

加納さんが医療情報の発信を始めたのは2016年3月ごろ。はじめは、情報をインプットしたり探したりするためのアカウントのつもりでした。

ただ、妻が子どもを産んで、母乳育児について調べようとしたところ、「母乳だけで育児を」「ミルクはダメ」といった〝母乳神話〟がたくさんヒットしました。

「母乳はビタミンDやKが少ないという一部のデメリットもあるのに、それは説明されていませんでした。ミルク育児のメリットもありますし、母乳が出なくて困っているお母さんもいるかもしれません。そんなお母さんが追い詰められないようにしたいなとも思いました」

そこで、ミルクのメリットを発信し、「小児科医に何か聞いてみたいことはありますか」と尋ねました。

「それがかなり拡散されて、すごい数の質問が集まりました。こんなにたくさん悩んでいる人がいるんだな、と。その疑問に少しずつ答えていこうと思いました」



画面を追わずに医療情報を知ることができるように、音声メディア「ボイシー」を昨年6月に始めたあと、昨年11月、インスタグラムにも挑戦します。

同じSNSでもツイッターは、誤った根拠にもとづく医療情報を、多くの医師や医療関係者が「これにはエビデンス(科学的根拠)がありません」と指摘しやすいメディアです。そのため〝誤り〟が分かりやすくなっています。

ただ、インスタはそんな指摘や拡散がしづらく、共感した人が「いいね」を送るコミュニケーションの形です。「オーガニック」や「無添加」を求めるライフスタイルとも親和性が高く、「薬に頼らない生き方がしたい」と考えるユーザーも多いのでは、と加納さんは指摘します。

加納さんは、あえて「#ワクチンの副作用」「#自然派ママ」といったハッシュタグをつけて、できるだけ違う価値観の人の目にふれるように心がけます。

炎症や体の免疫力を抑えるステロイドは、アトピー性皮膚炎や湿疹のほか、鼻炎やぜんそくの治療でも使われる効果の高い薬です。

1980年代以降、テレビ番組や本などで「毒物」などと形容され、「怖い薬」というイメージが先行してしまったそうです。重症度や部位にあわせた薬剤を使うといった注意点はありますが、正しく使えば「怖い薬ではない」と言います。

加納さんは「ステロイドが怖いと信じている人に、最初から『ステロイドを出しますから塗って』と言っても無理です」と話します。

まずは保湿剤を処方して、「これをしっかり塗ってください」と伝えます。また診療に来てもらい、少しずつ関係性をつくって信用を得て、徐々に薬について説明していくことが大切だと言います。

パパの目線と小児科医の目線 身近な疑問を大切に

SNSでの投稿内容を考えるのには時間がかかりますが、加納さんは「医療者側にもメリットがある」と指摘します。

「保護者が何に困っているのか、診療のヒントを考えることにもなるし、説明を分かりやすくコンパクトにまとめようとするので、そのクセがつきます」

情報発信で大事にしているのは、<親目線&小児科医目線>です。「パパ」である自分の体験をまじえようと心がけます。

▼▼▼加納さんが情報を医療発信するサイト「ぱぱしょー.com」

「お餅は何歳から食べていいの」「子どもが離乳食を食べない」といった身近な疑問や悩みも大切にしています。

インスタやツイッターを通じて、「受診のきっかけになりました」といううれしい反応をもらうこともあるそうです。SNSを始めて、患者と医師の距離が近くなったように感じています。

今後は、学会などでこの情報発信の取り組みを紹介し、医療関係者にもっと知ってもらい、仲間を増やしたいと考えています。

「情報の〝量〟の力ってありますよね。日常的に接する医師の情報が増えれば、根拠のある医療情報を『やっぱりそうなんだ』と思ってもらいやすいんじゃないでしょうか。

10~20年後には、SNSで医療情報を手に入れることがもっとポピュラーになっているでしょう。だから、必要な情報を医療側も提供していかないと。そして、お医者さんの顔が見え、親しみやすさを持ってもらって、病院に行ったり相談したりするハードルが下がればいいなと思います」

患者が情報を選べるように 発信する医師たちの存在

インスタの「#脱ステ」「#自然派ママ」といったハッシュタグの投稿を読むと、子どものためになることを必死に考えているお母さんたちの思いが伝わってきます。

ただ、根拠のある医療情報がなかなか届いていないのではないか、とも感じました。小さい頃にアトピーに苦しんだ記者自身も、医療の担当になるまで「ステロイドはやめとこうかな」と根拠なく避けていました。

ワクチンの影響や薬の副作用など、普段なんとなく不安に思っていることは誰しもあります。ただ、ネットで調べても、ほしい情報にたどり着けないことも。

「お医者さんに聞こう」と決意しても、診療時間はあっという間で、忙しそうに見える医師には聞きにくい。だからこそ、診察室を飛び出して医療情報を発信していく医師たちには「頼もしいなぁ」と感じます。

「医師の言うことが全て正しい」とも限りません。専門外のことは情報が更新されていなかったり、患者の不安感を利用したりする人もいるからです。

ただ、患者側がいろんな情報を選んで、よりよい受診や病気の治療につなげたり、医師への信頼感をつくったりするために、発信する医師たちの存在はより大きくなっていくと感じています。

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