連載
#16 現場から考える安保
まさに海上の航空基地、護衛艦いずもを探検 艦長「意識変えないと」
その巨体でいったい何をするのか。話題の海上自衛隊の護衛艦、いずもを探検してきました。似た感じの「空母」でイケメン艦長が登場する映画が5月下旬に公開されますが、本物の艦長の話も聞きました。(朝日新聞政治部専門記者・藤田直央)
神奈川県の横須賀港に停泊中のいずもが報道陣に公開されたのは、日差しが春めく3月13日午後です。JRで横須賀駅に着くと、3階建ての海自横須賀地方総監部の背景のように視界を占める艦体が、すぐそこに浮かんでいました。
海自によると、今回の報道公開は各社から要望が相次いだので、まとめて実施したそうです。なぜいずもがこんなに話題なのか、乗艦前におさらいしましょう。
それは、自衛隊の船で一番大きく、最新鋭で目立つから、というだけではありません。「空母」になるのではないか、いやいやもうなっているのでは、と国会などで議論が尽きないからです。
空母とは航空母艦の略。要は、航空基地を海に浮かべたものです。
旧日本軍が太平洋戦争で駆使し、米軍は今も世界に展開させていますが、戦後の自衛隊は持たないできました。戦争への反省から生まれた憲法に基づき、他国を攻めない「専守防衛」になったのだから、戦闘機を積める空母で外へ出張っていく必要はないという考えからです。
ところが、長さ248m、幅38mの巨大ないずもが2015年に就役します。艦橋などが片方に寄り、甲板は広くてまっすぐ見通せるので、いかにも戦闘機の滑走路に使えそうです。
きょう横須賀停泊中の護衛艦 #いずも に乗ってきました。どうなる #空母 化… pic.twitter.com/xywyZm9q9T
— 藤田直央 (@naotakafujita) 2019年3月13日
いずもについて、政府は「周辺海域を哨戒するヘリコプターを中心に載せる、ヘリ搭載型の護衛艦(DDH)だ」と説明してきました。また、「多機能」の船であり、災害などの現場付近でヘリで情報を集めて指揮したり、広い甲板や格納庫を生かして陸自部隊などを運んだり、被災者の一時収容や治療を充実した艦内施設でこなしたりできると強調します。
確かにいずもは、護衛艦の特徴である火砲などの打撃力に関しては、他の護衛艦ほどすごくありません。しかし、政府は去年の末に重い判断をしました。2023年度までの中期防衛力整備計画で、海自の DDH 4隻のうち2隻ある大きめの「いずも型」護衛艦に、「短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機」を載せるための改修を検討する、と閣議決定したのです。
つまり、いずもに戦闘機を載せようということです。野党からは、いよいよ空母の本性を現した、「専守防衛」を超えると批判があります。一方で政府は、いよいよ台頭する中国が空母を造って太平洋へ出てきた、いずもを含め自衛隊の装備強化が必要だという姿勢。賛否がぶつかっています。
では乗艦です。ヘリ9機を積めるビルのような船体を仰ぎながら歩き、中央の車両乗降用ハッチへ。さらに先に見える船外への大きな出っ張りは昇降機で、床が甲板まで上がっていました。いずもの格納庫と甲板をつなぐ5つの昇降機のうち2番目の大きさで、14m×15mもあります。
「いずもIT長」の牧野兼治1尉を案内役に、乗員らの敬礼を受けながら乗り込むと、いきなり格納庫です。長さが170mもあり、体育館がすっぽり入りそう。そういえば2年半前、稲田朋美防衛相が就任した頃に横須賀を訪れ、ここで4百数十人の乗員を集めて訓示しました。それを見たのを思い出します。
格納庫を艦首の方へ少し行くと、一番大きな13m×20mの昇降機が床まで降りています。30トンまで積め、安全上1機ずつ載せる哨戒ヘリなら6~7トンで楽々です。この昇降機に報道陣や乗員ら40人ほどが乗り、10m上の甲板まで30秒でした。
護衛艦 #いずも の動画をもう一つ。この第一昇降機は30トンまでの航空機などを甲板へ運べます。近く探検記をネットで。 pic.twitter.com/HIfTGfafL4
— 藤田直央 (@naotakafujita) 2019年3月13日
艦尾の方を見ると、左側に艦橋やレーダーのある高さ20数mの構造がそびえます。やはり2年半前に見た、横須賀を母港とする米空母ロナルド・レーガンを思い出しました。いずもはそれよりは小ぶりですが、ハッチから甲板への造りや広い甲板の雰囲気は似ています。
運動会ができそうないずもの甲板に、白く大きなXっぽい印が五つ並びます。ヘリの着艦の目印です。
もしここから戦闘機が飛ぶとしたら? 5月下旬公開の映画「空母いぶき」の試写会を思い出しました。戦後日本が初めて持つことになる空母の話です。甲板が戦闘機の離陸には短いため、艦首の方が少し反ってジャンプ台のようになっていました。
もちろん、そうしたものはこのいずもにはありません。改修するかどうかはこれから政府が判断します。
いずもの構造は甲板より上が5層、下が8層になっています。
甲板から狭くて急な階段を4層目まで上り、操艦を指示する艦橋を見た後、今度は降りて甲板の下2層目の「医務区画」へ。「いずもは多機能の護衛艦」という牧野1尉らの説明に力が入ります。ベッドは34床で手術室もある、いざという時は500ある簡易ベッドを格納庫に並べるもよし、国内では防災訓練に参加し海外では人道支援活動に協力……。
でも、特筆すべきはやはり、この船と航空機との関係の深さでした。それは、いずものようなヘリ搭載型護衛艦にしかない「航空管制室」に詰まっていました。
甲板上の5層構造の中で航空管制室は、操艦の中枢である艦橋と同じ下から4層目にあります。艦橋が前を向くのに対し、航空管制室は横を向き、艦尾から艦首までまで伸びる甲板を見下ろせます。ヘリを1隻だけ積むふつうの護衛艦にはない、複数の発着を管制する司令塔なのです。
航空管制室では発艦より着艦の時の方が緊張します。まず、航空管制官の国家資格を持っている乗員が複数のヘリに対し、レーダーを見ながら無線で着艦順やルートを伝えます。民間空港の管制塔のような役割です。
全体を「飛行長」が仕切ります。艦橋の艦長と連絡を取り合い、ヘリが着艦しやすいような操艦を進言することもあるそうです。
格納庫へ降り、哨戒ヘリの SH60J を間近に見ました。いずもの艦載機で、側面に神社の大しめ縄をかたどった「IZUMO」の大きなロゴがありました。
探検は約2時間で終了。いずもとヘリの深い結びつきを実感しました。空母と呼ぶかどうかはともかく、まさに海上の航空基地でした。
報道陣にずっと付き添っていた艦長の本山勝善1佐(51)に、いずもを操る心構えを聞いてみました。
「確かに、先のとがったふつうの護衛艦と形が違いますね。空母じゃないんですかと言われますけど」と本山艦長は笑い、続けます。
「私は護衛艦乗りとして育てられてきましたが、この船は航空部隊がメインになるので意識を変えないといけない。航空機を運用しやすいよう艦内態勢を整えるのが肝です」
ただ、そこに大変さというより、メリットを感じるそうです。
「船から見ると、航空機は速さも、敵を見つける能力も何倍も上です。だから協力するとパワーアップする。例えば潜水艦対水上艦の戦いなら、潜水艦が先に水上艦を見つけます。でも水上艦と哨戒ヘリが組めば、ヘリが先に潜水艦を見つけてくれます」
「だから、船乗りだ、パイロットだと区別するんじゃなくて、両方をうまく使っていく。それを特化したのがこの船なんです」
いずもはいつごろ戦闘機を載せ、空母への道を歩むのでしょう。日本の憲法と安全保障にとって重い問題です。
本山艦長はそうした話には応じません。映画「空母いぶき」に触れると、「あれは空自が艦長なんですよね」と笑顔を見せただけでした。
映画では、西太平洋にある日本の離島を奪おうとする「国籍不明の軍事勢力」から攻撃があり、いぶきが向かうことになります。戦闘機部隊を載せる空母は空の戦いのための兵器としての性格が強く、艦長には「船乗り」でなく元空自エースパイロットが抜てきされたという設定です。
いずもにもし、敵の戦闘機や船に対処するため遠くへ飛ぶ戦闘機ばかりが載り、本山艦長が語ったように対潜水艦戦で頼りになる哨戒ヘリがいなかったら、いずもをどうやって守ればいいのでしょう。その辺の難しさも映画に描かれていました。
ちなみに防衛省によると、映画の制作者側から協力の可能性について打診されましたが、応じなかったそうです。
防衛省の内規により「広報に有意義」と判断すれば、ただで自衛隊が協力することもあるのですが、「今回の協力は妥当でないと判断しました。原作の漫画が、実在する国の軍事組織が我が国に侵攻するという内容なので」(広報課)とのことでした。
その辺の設定が映画で結局どうなったかは控えますが、リアルさということで言えば、戦闘シーンについては試写を見たOBを含む自衛隊関係者のいろんな声を聞きます。
ただ、海自が持つ4隻のヘリ搭載型護衛艦に乗る隊員らは、現実の日々で「海上の航空基地」を持つメリットを感じながら、航空機運用の技術を磨いていることでしょう。それを今回いずもで目の当たりにしました。
将来もし日本が空母を動かす時、そうした海上自衛隊の蓄積が土台になることだけは確かだと思いました。
最後に「確か」なことをもう一つ言わせてもらうと……。いずもの外観はいぶきにそっくりでした。
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