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島に舞い戻った「レモン王子」の奇跡 国産レモンの「酸っぱい歴史」

「レモン王子」こと奥本隆三さん(昨年のせとだレモン祭り)
「レモン王子」こと奥本隆三さん(昨年のせとだレモン祭り)

目次

大ヒットした米津玄師さんの曲名にもなったレモンですが、瀬戸内海の島に「会いに行けるレモン王子」がいます。生産量日本一を誇る島の歴史をたどると、日本のレモンがたどってきた苦難の歴史が見えてきました。

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年間100万個

広島県のJR尾道駅から車で30分。眺めのいい橋を渡って三つめの島が、レモン生産量日本一の生口島(いくちじま)です。米津玄師さんが紅白歌合戦で熱唱した大塚国際美術館のある徳島県とも瀬戸内海でつながっています。

丘陵部にレモン畑が広がり、「レモン谷」の標識や、レモンをあしらったベンチなどもあり、サイクリングロードとしても整備されています。

レモン谷の案内板も=広島県尾道市瀬戸田町
レモン谷の案内板も=広島県尾道市瀬戸田町

島出身の画家平山郁夫の美術館近く、県道沿いのレモン色のお城のような建物に「レモン王子」こと奥本隆三さん(36)はいました。西洋の王子様とはちょっとイメージは違いますが、貫禄はあります。

この建物は土産物店が閉店して長く空き店舗だったのを、奥本さんが3年前に借りました。店内は瀬戸田産レモンを材料にした菓子、飲料、化粧品など46種類の商品がそろい、その半分は自社製。建物の半分は工場で、瀬戸田産レモンの皮を手作業でむいています。

奥本さんは日本の洋菓子作りの本場・神戸でパティシエの修行を積み、販売の仕事も経験しました。一方で、華やかな神戸から故郷の生口島に帰省すると、若者が減ってだんだんと活気を失っていくのを何とかしたいと思うように。

「レモン王子の居城」の店舗兼工場=広島県尾道市瀬戸田町
「レモン王子の居城」の店舗兼工場=広島県尾道市瀬戸田町

「日本一のレモンの産地と、自分の菓子作りの技術を組み合わせれば、大きな可能性がある」

2008年に島に戻り、小さな洋菓子店「パティスリーオクモト」を夫婦で開店。試行錯誤の末、翌09年に販売を始めたレモンケーキ「島ごころ」が年産100万個を記録する大ヒット商品になりました。瀬戸田産のレモンの皮をジャムにして練り込んだレモン型をしたケーキです。

Uターン者を中心に従業員を増やし、今は50人ほどになりました。

レモンをあしらったベンチや石碑も=広島県尾道市瀬戸田町
レモンをあしらったベンチや石碑も=広島県尾道市瀬戸田町

酸っぱい歴史

瀬戸内でレモン栽培が始まったのは明治時代。レモンの木は寒さに弱く、台風や大雨が傷や病気の原因になります。温暖・少雨の瀬戸内海の島は、国内では最も栽培に適しているとされ、特に広島県で国産レモンの6割以上を生産しています。

しかし、「酸っぱい」試練は何度も味わっています。

1964年の輸入自由化後は安い外国産レモンに押されました。70~80年代には2度の大寒波に見舞われて木が枯れ、その度に生産量が激減します。

その後、輸入レモンには収穫後に防かび剤が使われることを問題視する消費者グループなどから国産を見直す動きが起き、円安で輸入物との価格差も狭まり、じわじわと国産のシェアが増えていきました。

秋から春にかけて長く収穫できるので農家の収入が安定することもあり、広島の各産地では2000年代初めから競って増産を奨励しました。ただ、売り先を考えていなかったので、だぶついて価格が暴落した時期も。

レモンは瀬戸内の海を見ながら育つ=広島県尾道市瀬戸田町
レモンは瀬戸内の海を見ながら育つ=広島県尾道市瀬戸田町

その頃、奥本さんの島ごころが売れはじめ、瀬戸田の農家を販路で支えたのです。

2012年からは広島県やJAなどが元AKB48のタレント市川美織さんを「広島レモン大使」に起用するなどしてキャンペーンを展開。大手企業もレモン入りの菓子や調味料などを考案し、レモンブームが起きました。奥本さんも、ハンドクリームやビール、カレーなど、次々と加工品を商品化しました。

奥本さんが開業時、島で30~40歳代の後継者がいる農家は2人でしたが、2016年には27人に増えました。

しかし、試練は再び来ます。

ハート形や星形のレモンも作られる=広島県尾道市瀬戸田町
ハート形や星形のレモンも作られる=広島県尾道市瀬戸田町

新たな挑戦

2017年に寒波が来て、その影響は今期の収穫に出たのです。JA三原の片山武志・せとだ柑橘(かんきつ)販売課係長によると「今年の収穫量は例年に比べ3割程度減っている」。今度は販路があるのに、レモンが十分な量出荷できなくなりました。

そこで「王子」はレモンならぬ知恵をしぼります。

「捨てている『わた』の部分を商品にできないか」

レモンの半分近くを占める皮でも実でもない部分は、今まで捨てるか家畜のえさにしていましたが、パウダーにして調味料に使えないかと試作してみたのです。カレーなどにかけると風味が増しました。今、大手企業と売り方を相談しているそうです。

あらゆるレモンの加工品が展示されている店内=広島県尾道市瀬戸田町
あらゆるレモンの加工品が展示されている店内=広島県尾道市瀬戸田町

「王子」は、島の「開国」にも力を入れています。島の人が楽しむ祭りだけでなく島外の人を積極的に招こうと、理事になっている尾道観光協会で「せとだレモン祭」を発案し、2017年から毎春続けています。

今年は島づたいに本州四国間を結ぶ「しまなみ海道」を自転車や徒歩で巡るスタンプラリーの日に合わせ、3月24日に開かれます。

「王子」はレモンのかぶりものをして会場を駆け回る予定です。米津玄師さんとはちょっと違いますが、会いにいける「レモン王子」。東京のレモン関連の企業などにも声をかけ、今年は50種類ほどの露店が並ぶ予定です。

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