連載
#18 #となりの外国人
日本に住んで20年、でも国籍は…フィンランド人が感じた「住み心地」
フィンランドから日本に移り住んで約20年。京都市で暮らすハッカライネン・ニーナさんは、市民グループを立ち上げて、きめ細かい外国人支援に取り組んできました。「治安がよくて清潔。親切な人が多い。でも……」。日本の永住権を持っている一方、帰化して日本国籍を取得するつもりはないそうです。外国人の立場から見た日本の住み心地とは? ニーナさんの言葉から、外国人との向き合い方を考えます。
――日本での暮らしが20年以上と長いですね。来日のきっかけは。
「フィンランドの大学で『日本学』を専攻していました。アジアを旅して興味を持ったんです。修士論文を書く前に1992年から2年半、日本に留学しました。その後、フィンランドに戻って研究を終え、2000年に再度来日し、東京で働き始めました。15年ほど前からは京都市で暮らしています」
「日本は治安がよくて清潔。親切な人が多いですね。街にごみが少ないし、迷子になったら丁寧に道案内をしてもらっています」
「最近は、『町内会』や『ごみの出し方』など暮らしの情報を簡単にまとめたガイドブックを作りました。簡単な単語と文法を使った『やさしい日本語』、英語、中国語の3種類があります。医療制度や病院の情報がとても重宝されています。一方、外国から日本に来て暮らす人に、生活ルールやしきたり、コミュニケーション方法を伝える、日本人向けのヒント集も作ってみました。いずれもホームページから無料でダウンロードできます」
「今年に入って、電話やスカイプによる月2回の無料相談事業を始めました。人前で話しにくい内容の悩みを聞いたり、問題が深刻になる前に手を差し伸べられたりできないか、と考えるようになったからです」
――ほかに、日本で戸惑うことはありましたか。
「来日当初、初対面で年齢を聞く人が多くてビックリしました。年齢であるべき姿が決まっているようで息苦しいんです――。これくらいの年齢だったら働いたり、結婚したり、孫がいたり、という風に。私は、年齢や属性でなく、内面を見て知り合いたいという気持ちが強いです」
「あと、白人とひとくくりに扱われる感じも苦手です。親切心からか英語で話しかけてくる人が多いです。私は英語を話せますが、母国語ではありません。やさしい日本語で話しかけてもらえば、もっとお互い楽にコミュニケーションがとれるんじゃないかな」
――やさしい日本語は、災害時に特に役立つと注目が集まっていますね。日本で1年ほど暮らす外国人が理解できる程度の約2千の単語と文法で表現します。
「災害時だけでなく、日ごろから使ってもらえるとありがたいです」
「日本語だけでなく、『分かりやすい英語』も大事です。『Plain English』『Easy English』と呼ばれる言葉です。日本語が苦手で、母国語が英語でない外国人住民や観光客に役立つと思います」
「街には、英訳された案内表示やパンフレットが増えました。残念ながら、直訳というか難しい表現で分かりにくいものも少なくありません」
「先日、京都市で外国人向けに作られた災害時帰宅困難者のパンフレットをみたら、『どうする?』の英訳が『How can we protect ourselves?』になっていました。間違ってはない。でも『What to do?』の方が単語三つで分かりやすいですよね」
――日本と関わりを持ってもうすぐ30年です。フィンランド人から日本人になろうと考えますか。
「日本での永住権は持っています。申請すれば帰化して日本国籍を持てる可能性があります。でも、そうしようとは考えていません。二重国籍が認められれば別ですが」
――それは、ニーナさんのアイデンティティーと関係するのですか。
「フィンランド人でいた方が老後、手厚い社会保障を受けられるかもと想像しています。高齢になった外国出身の住民はまだ日本に少なく、日本人になったとしても医療や福祉サービスを利用して快適な老後の生活を日本で送れるか不安があります」
「アイデンティティー――。長年、生まれた国を離れて生きていくと、国籍に基づいたアイデンティティーを持つ意識が薄くなりました。『国』は人工的なもので、戦争や政治で国境は勝手に変わってしまう」
「いま、日本で注目を集めている女子プロテニス選手の大坂なおみさんも同じように感じではいるのではないかなと思ってニュースを見ています。記者会見で、アイデンティティーを問われたとき『私は私』と答えていましたね」
――今春から、法律が改正されて、外国人労働者の受け入れが拡大します。
「日本政府は『移民政策』でなく、一時的な労働者として扱おうとしているようです。もったいないと思います」
「こうした外国人労働者への公的支援を手厚くして、日本語や日本文化を学び、社会にななじんでもらい、長く日本で働いてもらうほうが、長い目で見れば日本の国益にかなうのではないかと」
「多様な人を受け入れて『多文化共生』に向けた社会を少しずつでも作りあげていくことができた方がいいなと思います。そうでないと少子高齢化で日本の人口が減る一方。かつ、グローバルな時代に、単一的なつまならない国になってしまうのではと思います」
「専門的な資格や技能を持った『高度人材』は世界中でひっぱりだこです。あえて日本に殺到するとは私は思いません」
「ならば、日本に足を向けた外国人労働者や留学生が日本社会に貢献してくれるための政策が求められるのではないでしょうか」
「それと、とても似通った外見の人だけが日本人という『固定観念』はそろそろ終わりにしませんか。実態はすでに違うし、これからの時代、ますますなじまなくなる」
――「多文化共生社会」に向けて、一人一人の日本人ができることは。
「近くにいる外国人に、『困ったことはありますか?』と話しかけてみてください。近所にちょっとした悩みを打ち明けられる知り合いができると心強いです」
「国は、外国人の生活全般に関する相談に応じる『多文化共生総合相談ワンストップセンター』(仮称)を全国111カ所に設ける予定ですね。私のように、日本で長く暮らす外国出身者も人材として活用してもらえればと思います」
2年ほど前から、市民グループ「パルヨン」の取材を続けている。会うたびに、新プロジェクトに取りかかるニーナさんのエネルギーに圧倒されてきた。
時々感じる日本での生活トラブルを、笑いながら打ち明けてくれるので、嫌みな感じがない。解決に向け自分が汗をかく姿が印象的だ。
国籍にとらわれないニーナさんのアイデンティティーがとても新鮮だった。グローバル化が進んでいるのに「日本人かどうか、どの国の人か」と、いつの間にか意識して相手と話したり、生活や社会を見たりしすぎていると自分を省みた。
血統を重んじた「日本人」の定義、同質的な日本社会に窮屈さを感じている人が少なくないのではないか、と最近考えることが多い。
私は、20代前半までドイツとイギリスで計7年、両親と生活したり留学したりしてきた。インタビューにも出てくる「Plain English」のような言葉に暮らしを随分助けられたように思う。
私が住む京都市では、ゴミ出しのルールが難しいからか、ゴミ置き場が昔より散らかっていることが多い。資源ゴミをいれる透明の袋の「透明」が、来日間もない外国人には難しい単語だと耳にした。
色んな人が暮らしやすいように、課題に気づいたら不満に思うだけでなく、できることを見つけて活動したいと考えている。
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