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ロシア製の乗り物って安全なの?故障はしないの?
ブラピもハマった!ロシアのサイドカー 操縦激ムズ、だけど「満足」
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ロシア製の乗り物って安全なの?故障はしないの?
ロシア生まれのサイドカー「ウラル」が世界的に注目を集めています。日本でもサバイバルゲームのファンらの人気が急上昇。車や飛行機などロシア製の乗り物のイメージはパッとしませんが、ハリウッドの人気俳優ブラッド・ピットさんが息子と乗っている写真を外国メディアが掲載しています。果たして、どんな魅力があるのでしょうか。(朝日新聞国際報道部・中川仁樹)
ウラルの歴史は第2次世界大戦が始まった1939年にさかのぼります。ソ連の独裁者スターリンが、ヒトラーのナチス・ドイツの侵攻に備え、どんな場所でも走行できる車両の開発を命令したといいます。
戦前は、安くて機動力があり、最大3人が乗れるサイドカーは軍で活躍しており、戦争映画でもおなじみです。ソ連国防省が検討した結果、モデルに選ばれたのが、なんとヒトラーのお膝元ドイツのBMWでした。
正面切っては買えないので、中立国スウェーデンから5台が極秘に密輸されたそうです。エンジンや車体などをコピーして2年後に初代M-72型の試作品が完成しました。
当初はモスクワで生産しましたが、迫り来るナチス軍から守るため、ウラル山脈に近いイルビトという小さな町に移転しました。現在の会社名「IMZ・ウラル」のIMZはイルビト・オートバイ工場という意味です。
終戦までに約1万台のM-72型が出荷され、対ドイツ戦争などで活躍。戦後は共産圏を中心に輸出も伸び、これまでに320万台以上が出荷されました。60年代には、地名にちなんだ「ウラル」の名称を使い始め、91年のソ連崩壊後は民営化されました。
ウラルの最大の特徴が悪路に強いこと。販売総代理店のウラル・ジャパンはこの冬、北海道の小樽から宗谷岬まで走るツーリングを企画しましたが、写真のように雪道を平気で走っています。「オートバイは雪が苦手」というイメージが覆されました。
泥道や川の中でもどんどん走れます。もともとサイドカーは3輪のため安定しており、通常の1輪駆動でも走破性はかなり高いそうです。さらにオートバイの横につく側車側のタイヤも駆動輪となる2輪駆動にすれば、悪路の走破力を格段に高く出来ます。
また最大3人が乗れる上、側車に荷物を積んでも2人乗りが可能なので、キャンプに行くのにも便利です。バイクのような軽快さはありませんが、風を受けるダイレクトな感覚は格別です。
意外なのは、2輪駆動のサイドカーは車の普通免許で運転できるので気軽に挑戦できます。エンジン排気量が750㏄なので、オートバイなら大型二輪の免許が必要です。1輪駆動のウラルは大型二輪の免許が必要です。
ちなみにオートバイのことを「単車」とも呼びますが、昔はサイドカーが多かったため、側車のないバイクを単車と呼んだそうです。それぐらい魅力的なサイドカーですが、車の普及と共に販売台数は減少していきました。
初代からほとんどデザインが変わっていませんがが、最新モデルは外国製部品をたくさん使って信頼性が大幅に向上。保証も2年間、走行距離無制限です。ただ、世界のオートバイやサイドカー市場は減少傾向を続け、ウラルも2014年に普通のオートバイの生産を停止。ホンダやヤマハ、米ハーレーダビットソンや独BMWなどに対抗できないからです。
ウラル・ジャパン代表で、ロシア極東ウラジオストク出身のボリヒン・ブラジスラーフさんも「ロシア時代は日本製のバイクばかり乗っていた」と言います。
ところが欧米のメーカーがサイドカーから撤退したおかげで、ウラルは世界で唯一のサイドカーメーカーという独特の地位を手に入れました。年産はわずか1500台前後ですが、大半がロシアから輸出されます。
レトロな外観や、いまだに車体に鉄を使う頑丈さ、悪路走破性など、オートバイ好きのアウトドア派にはとても魅力的な乗り物です。エンジンはポルシェやスバルなどと同形式の水平対向エンジン。エンジンのヘッドが横から飛び出ているのが目印です
特にアメリカにはファンが多く、ブラッド・ピットのほか俳優のユアン・マクレガー、エアロスミスのスティーブン・タイラーもウラルがお気に入りだと言われています。
気になる価格は諸費用込みで約250万円。高いようにも感じますが、オートバイを改造して側車をつけるだけでも200万円以上かかるそうで、サイドカーとしてはお値打ち価格だそうです。
ウラルは昨年、日本では63台が売れ、今年は80台を計画しています。ブラジスラーフさんは将来は年120台の販売を目標としており、日本のウラルファンと「ロシアでツーリングしたい」と考えています。
日本の熱烈なファンに魅力を聞きました。名古屋市の会社員、堀内将さん(26)はミリタリー(軍事)好きから入って、学生時代、レトロなスタイルのウラルに夢中に。「思いが抑えきれず」、就職1年目にローンで購入しました。
稲垣孔一さん(25)もミリタリー系車両がほしくてウラルに。ツイッターで知り合った堀内さんが購入を助けました。ヤマハの逆輸入の大型バイクも保有していますが、いまはウラルに乗ることが多いそうです。
サイドカーには優雅なイメージもありますが、アクセルのオン、オフでも左右に動いてしまうため、運転感覚はかなり独特だと口をそろえます。稲垣さんは購入2日目に路肩に近付いたウラルを戻そうとしてうまくできず、歩道に乗り上げバス停に衝突しました。堀内さんも最初は苦労しました。
ほかに苦労するのが熱対策。空冷エンジンのため夏が苦手です。渋滞や長い上り坂を避けたり、オーバーヒートしそうになると止まったりする余裕が必要です。堀内さんは暑さを避けるため、昨年7月は4週連続で長野に、同8月は北海道に行きました。
それでもウラルの信頼性は「十分だ」と満足しており、部品が壊れても新しいものをすぐに購入できると言います。普通の車やオートバイにはない苦労が多いいのに、不思議なことに2人の満足度はとても高いのです。「壊れても笑って直せる」ぐらい惚れ込む必要があると2人は笑います。
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