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日曜じゃないの?北海道でなぜか土曜投票 だって市場が休みだから…

雪の中に立つ北海道増毛町の選挙ポスター掲示場
雪の中に立つ北海道増毛町の選挙ポスター掲示場

目次

 日本の選挙の投票日は日曜日。それが当たり前と思っていました。ところが昨春、北海道へ転勤してきてビックリ。数は少ないとはいえ、土曜日や火曜日の投票、さらには曜日ではなく、投票日が2月28日に固定されている選挙まで。そこには「青函トンネル」の存在や、魚市場の営業日、農家の働き方など、北海道ならではの事情がありました。(朝日新聞旭川支局長・本田大次郎)

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だって市場が休みだから……

 今年の1月28日。日本海に面した増毛町の町長選が告示されました。

 この日は月曜日。投票は2月2日の土曜日。町の選挙管理委員会に尋ねると、「増毛漁港の魚市場の休みが土曜日。漁業関係者も投票しやすいように、土曜日にしたそうです」。以前は統一地方選挙に組み込まれ、日曜日投票でしたが、町長の辞職で2月上旬選挙となった1999年から土曜日投票になりました。

 漁協に話を聞いてみました。「漁師は土曜日に出漁する人もいますが、仲買人や運送業者といった漁業関連の人たちは休みなので、投票しやすいですよ」

2月にはタラなどが水揚げされる増毛港=北海道増毛町
2月にはタラなどが水揚げされる増毛港=北海道増毛町

だってトンネル工事の基地だったから……

 津軽海峡に面する福島町の町議選は、前回の2015年、8月15日の土曜日が投票日でした。これは、青函トンネルが影響しているそうです。

 町経済課によると、町は青函トンネル工事の北海道側の基地だったため、その時の工事経験者やその子どもたちが、今も全国のトンネル工事へ「出稼ぎ」に行っています。その人たちが帰ってくるのが、お盆と正月。町議選はお盆の時期にあるので、できるだけ投票しやすい日にちを選ぶそうです。

 前回であれば、「16日の日曜日に設定するとみんな帰ってしまうので、土曜日にしました」(町選管)といいます。

青函トンネルの先進導坑貫通点を通って、北海道側に来た青森側の工事関係を胴上げして喜ぶ人たち=1983年
青函トンネルの先進導坑貫通点を通って、北海道側に来た青森側の工事関係を胴上げして喜ぶ人たち=1983年

だって経費が浮くから……

 十勝地方の本別町は、ずっと以前から土曜日が投票日。選管からは、懐かしの言葉が。

 「昔、土曜日は半ドン(お昼までの半日勤務)だったじゃないですか。投票所に張り付ける職員を、日曜日に休日出勤させるより、土曜日の午後だけ勤務にした方が手当が浮く、と考えたようです。土曜日が休みになっても、そのまま土曜日投票が続いています」

 平日投票もあります。道南地方の黒松内町の町長選、町議選は火曜日投票。町選管は「町の基幹産業は農業。土日が休みではないので、平日でも問題ありません。平日だと、職員の休日出勤の手当がかからないので、経費が100万円以上は削減できます」といいます。

土曜日に投票され、即日、開票作業が進む本別町議選=2006年7月
土曜日に投票され、即日、開票作業が進む本別町議選=2006年7月

だって農作業で忙しいから……

 選挙日程で一番驚いたのは、2月28日が投票日、と決めている町が4町もあることです。北海道の中央部にある秩父別町と東川町は町長選と町議選が、北竜町と長沼町は町議選が、今年あります。北竜町、長沼町とも、以前は町長選も2月28日でした。

 町選管や町史などによると、以前は4町とも統一地方選で4月下旬に選挙をしていました。ところが1959(昭和34)年、「4月は農作業で忙しい」という声が農業団体から上がりました。この声に押され、各町で町長と議員が辞職し、3月末に選挙が繰り上げられました。

東川町長選と町議選の投票日を知らせる町広報
東川町長選と町議選の投票日を知らせる町広報

 そして次の選挙の63年からは、投票日がさらに前倒しとなり、2月28日に固定されました。ですから投票日は月曜日から日曜日まで、まんべんなく行われています。

 移住者が多い東川町では近年、「統一地方選に戻した方がいいのでは」という声も出てきました。2011年に町民アンケートをとったところ、2月28日派が57.4%、統一選派が42.6%。町選管は、期日前投票や2月28日投票が定着していることも踏まえ、2月28日投票を続けることにしたといいます。

 ただ、今年2月の町議選へ立候補する予定の新顔の1人は首をかしげます。「日曜日告示、金曜日投票となった場合、期日前投票ができるのは月曜日から木曜日まで。土日が休みの人は投票しにくい。おかしいですよ」

2月28日に町長選・町議選の投票が設定されている東川町は、米産地としても知られている=2016年、東川町
2月28日に町長選・町議選の投票が設定されている東川町は、米産地としても知られている=2016年、東川町

実は法律で決まっていない

 北海道以外はどうでしょうか。2015~18年の朝日新聞の選挙データをひっくり返して調べると、少なくとも秋田県小坂町、山形県飯豊町、小国町、宮崎県高千穂町で、平日投票がありました。いずれも、経費節減や候補者の政策を土日にじっくり聞けるから、と説明します。

 投票日の曜日は、法律で決まっていません。春に全国で一斉に行われる統一地方選も、1947年の第1回は土曜日と水曜日が投票日。その後、月曜日、木曜日などとめまぐるしく変わり、日曜日投票となったのは、1971年からでした。

 国政選挙の投票日も同様。1969年の総選挙が土曜日に行われたのを最後に、日曜日投票が定着しました。

 総務省選挙部は、国政選挙について「一般論ですが、日曜日だと投票に行きやすい、ということで定着してきたようです」と説明します。ただ自治体の選挙については「投票日の曜日について、特に分析していません」とのことでした。

第3回参議院選挙の投票日の1953年(昭和28年)4月24日は金曜日。東京都墨田区の第四吾嬬小学校の投票所で仕事前に列を作る有権者
第3回参議院選挙の投票日の1953年(昭和28年)4月24日は金曜日。東京都墨田区の第四吾嬬小学校の投票所で仕事前に列を作る有権者

このドラマ、のぞいてみませんか?

 選挙って、全国一律、ガチガチに堅苦しいイメージがあります。でも投票日に、こんなにもローカルな事が反映されているなんて、驚きでした。

 長年、選挙報道に携わってきましたが、選挙に関する驚きは、尽きません。政策論争はもちろん大切ですが、人間ドラマだって見逃せません。

 立候補を決意した人、諦めた人。当選した人、落選した人。ちなみに、当落線上で得票が同じになったら、どうするかご存じですか? くじ引きです。くじの結果は、ただの「はずれ」ではなく、「落選」です。こんな過酷なくじ引きはありません。

 4月には地方の首長選や議員選をまとめて実施する、統一地方選があります。「選挙なんて関係ない」なんて思わず、まずはその扉を開いて、ドラマをのぞいてみませんか。

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