みなさんの実家の最寄りの停留所に止まるバスの本数は、数年前から減っていませんか? それって実は、「人口減少」と大きく関係している可能性があります。ひとが減るって、いったいどんなことなのでしょう。そして、このままだと日本はどうなるのか。新年号の時代を担う大学生と語り合ったら「自治体が消滅するのは仕方ない」「電車も通っていないようなところに住めません」本音トークが次々と……。これって合理的? 冷たい? 専門家と一緒に考えてみました。

老化を防ぐというアンチエイジング商品はありますが、老いる国家に効く対策は簡単ではありません。朝日新聞では、日本の将来を案じ、現状にあらがう人々を取り上げるシリーズ「エイジング・ニッポン」をはじめました。この国のすべての人が直面する未来。平成の終わりに見えた私たちの持続可能性とは……?
【記事はこちら】
学生たちと語り合ってみた
座談会には、この問題に詳しい法政大経済学部の小黒一正教授と、そのゼミ生に参加してもらいました。
・阿部里歩さん(3年=21歳)
・鈴木圭さん(3年=21歳)
・戸波隼さん(2年=20歳)
・日暮直人さん(2年=20歳)
・篠田侑利さん(4年=22歳)
・古川諒さん(4年=24歳)
・小黒一正さん(大学教授=44歳)
・藤原学思(新聞記者=32歳)

マクドナルドで過ごすおじいちゃん、おばあちゃん
阿部さん「私は横須賀市出身なのですが、バイト先のファミレスは常に人手不足です」
鈴木さん「実家が千葉県銚子市です。商店街はシャッター街になっています」

日暮さん「東京都町田市にある大学の多摩キャンパスはバスで行くのですが、乗っているのは多くがお年寄りのように感じます」
篠田さん「僕の出身地、埼玉県三郷市は農業が盛んな土地ですが、畑や田んぼが放置され、荒れています。耕す担い手が減ってきていると実感します」
古川さん「東京うまれ、東京育ちです。マクドナルドで過ごすおじいちゃん、おばあちゃんが目に見えて増えたような気がします」
藤原記者のつぶやき
自衛隊の採用年齢、定年の引き上げ、大丈夫かな
阿部さん「おとなになったときの年金や医療の面が心配です。いま現在、危機感を感じているかというとそうではないのですが」
鈴木さん「地方の生活関連サービスがどうなるか。暮らしもままならなくなるのではないでしょうか。ただ、高齢者向けのサービスの需要は増えるので、そこにビジネスチャンスはありそうです」

日暮さん「地方の自治体の消滅が心配ですよね。安全保障面でも、自衛隊の採用年齢、定年の引き上げの話を耳にして、大丈夫かなって」

古川さん「いま、日本の国内総生産(GDP)は世界で3位ですが、ずっと維持するのは難しいような気がします。現実的に、大きくない国のあり方を模索するべきではないでしょうか」
藤原記者のつぶやき

能力が低い都市は切り捨てざるをえない
日暮さん「ある程度の自治体が消滅するのは、仕方ないのではないかと思います。全部残すのは無理なわけですから。『消しちゃう』という表現は悪いけど、拠点となる都市を選んで、能力が低い都市は切り捨てざるをえないのではないでしょうか」
戸波さん「それはアリだと思いますね。淘汰(とうた)されるべきなら、守らない方が合理的ではないですか」
続けて阿部さん「ただ、若い世代にとっては、場所がなくなるだけで、過ごした時間はなくならないんじゃないかとも思います。みんなで集まって、思い出話ができればそれでいいのかなあ。難しいですね」
藤原記者のつぶやき

本当にいた、お年寄りの票狙い
日暮さん「有権者の半分以上が60代以上って、信じられないですね、なんか。いまは周りの友人はほとんど選挙に行ってないですし、そもそも聞いてほしいという意志を持っていない。じぶんは選挙に行ってるし、『とりあえず投票はすべきじゃないか』と思います。権利を持っている以上は使うべきかなって」

戸波さん「ある地方議会の方とお話をさせていただいたんですが、そこで『お年寄りの票が大事なんだ』という言葉を聞きました。選挙に当選することが大切だというのはわかりますが、本当にそういうふうに動いているんだと驚きました」
藤原記者のつぶやき

電車も通っていないようなところに住めません
阿部さん「東京は、知識も技術もひとも情報も、全てが集まっていると感じます。でも、地価が高いし、競争がしれつだから、起業するなら逆に地方の方が簡単かもしれないですね」
戸波さん「地方で就職したくても、できないのが現状なんじゃないでしょうか。職がありませんよね。子どもの教育も考えちゃいます。僕は2年ぐらい米国で修行して、アジアで起業しようと考えています。日本のマーケットは小さくなるのが目に見えているわけですから。ふつうに考えたら、アジアに目を向ける方がいい。苦しい思いはしたくないし、成功したいですし」
日暮さん「僕は農業に興味があります。でも、仮に自給自足ができたとしても、商売としては成り立たないのではないかと。消費者が減っていくとわかっている地方で、なにか始めようとはなかなか思えません。安定した、無難な仕事をしたいです」

古川さん「東京うまれ、東京育ちの僕としては、東京じゃないときつい。じぶんを高める、力をつけるエキスは東京にこそあると思います」
鈴木さん「実は地方公務員志望です。『安定』が一番。で、1年前までは銚子市役所に勤めたいと考えていました。でも、志望が変わりました。地方公務員の実態について詳しいひとから、『地方は入りやすいけど、この先どうなるかわからないよ』とアドバイスされたからです。それで、東京の特別区や、県庁などをめざすことにしました。僕は『地方やばい』って思っていますが、こういう考え方のひとって、いまは多いと思うんですよ」
藤原記者のつぶやき

32歳の驚きと納得「若者はわかってた」

今後数十年は止まらない縮小化に、どう向き合うのか。簡単に答えは見つかりそうにありませんが、少なくともファイティングポーズを崩すことだけは、しないでおこうと思います。
小黒教授からのメッセージ「何を守り、何を諦めるのか」

「平成」は、戦後に築き上げた様々な仕組みが時代や環境変化に適応できなかった時代でした。漸進主義的で抜本改革が進まず、もがく30年だったように思います。特に人口減少への対応は、財政・社会保障改革を含め、「道半ば」でした。
今を生きる我々は将来世代に対し、持続可能な日本の未来を託す責任があります。「何を守り、何を諦めるのか」といった視点や国と地方のあり方を含め、現実を直視し、既成概念にとらわれず、徹底的な議論を行い、問題の解決策を模索する義務があると思います。

老化を防ぐというアンチエイジング商品はありますが、老いる国家に効く対策は簡単ではありません。朝日新聞では、日本の将来を案じ、現状にあらがう人々を取り上げるシリーズ「エイジング・ニッポン」をはじめました。この国のすべての人が直面する未来。平成の終わりに見えた私たちの持続可能性とは……?
【記事はこちら】