話題
さんからの取材リクエスト
それでも女子大が必要な理由って何ですか?
「女子大は必要?」Xジェンダーの女子高生が、お茶大に聞いてみた
Xジェンダーとして生きてきた現役女子高生が、お茶大に聞きたかったこと「女子大は必要ですか?」
話題
それでも女子大が必要な理由って何ですか?
Xジェンダーとして生きてきた現役女子高生が、お茶大に聞きたかったこと「女子大は必要ですか?」
お茶の水女子大学が、戸籍上は男性として生まれながら性別とは違う性である女性として生きるトランスジェンダー学生の受け入れを決めました。私は、今、高校3年生です。そして、Xジェンダーという性自認が男性でも女性でもない当事者として生きています。戸籍上は女子大の受験資格を持つ18歳の学生として、今回の決断をしたお茶の水女子大学に聞きたいことがありました。それは「女子大学がある意義」。取材に応じた大学側の答え、そして、私自身の気持ちの変化から、日本社会における性別について考えます。(高校生記者・伊藤おと)
そもそもセクシャルマイノリティーの中には、Xジェンダーだけではなく、トランスジェンダーという当事者もいます。
どちらも性自認が合わない人間全般を表すとされています。
この二通りだけというわけでは必ずしもありません。
「性的少数者」を意味するLGBTQの中でも、性指向と性自認とは分けて考えることが一般的です。
性自認について、自己認識と自分の体が一致せずその性的違和感が激しい場合、性同一性障害と言われてしまうことも少なくありません。でも、性自認と体にズレがあることが障害なのでしょうか? 社会がそれを障害にしているのではないでしょうか?
彼女らを国立大学であるお茶の水女子大学が受け入れを認める、これは日本におけるセクシャルマイノリティーにおいて、大きな一歩だと思いました。
すでにお茶の水女子大学の取り組みについて、たくさんの記事、情報が発信されています。それでも、Xジェンダー当事者であり、大学受験を控えた現役の高校生として、あらためてこの問題に向き合いたいと思い取材を申し込みました。
今回の決定について、お茶の水女子大学の理事・副学長の三浦徹さんと、同じく理事・副学長の猪崎弥生さんに話を聞きました。
——どうして、トランスジェンダー受け入れを表明したのですか?
「2017年に行われた朝日新聞の女子大学に向けたアンケート調査を受け、1年以内に、結論を出そうと思っていた。女子という定義を広げるべきだ、という認識は多くの女子大学が抱えていた」
「ただ二つ、大きな問題点があった。一つは性自認が女性である、ということをどうやって確認するか。二つ目は、入学したトランスジェンダーの学生が、
その後、本学で暮らしやすく過ごせるだろうかということ」
「一つ目は事前相談式を取り、まず自分の性についてどう思っているかなどの申告書の提出と、医師からの診断書や学校での処置を受けていること、友人に証明してもらうなど、客観的な資料の提示をお願いすることになる。疑わしい、判断できない場合は、在学生のことも考えお断りする場合もあり、極めて慎重な手順を踏み判断を下していく」
「二つ目に関しては、昨年より学内でのトランスジェンダー問題についての理解を深めるよう、教職員や学生、その親に向けた説明会などを開いてきた。今年ようやくそれらの土台が完成し、今年公表することができた」
——構想段階で反発などはありましたか?
「女子という定義を広げようという方向について、特に反対はなかった。ただ、運用面での問題、例えばトイレや更衣室、そのような具体的な点で学生の方から懸念が生じた。賛成だが、不安というような声があった」
——トランスジェンダー問題に関しての考えを教えてください
「学長は『男女とは単純な二分ではない。性は多様であり個も多様である。その多様性を認めていこう』という方向性を示している。目指すべき方向として『多様性を包摂する女子大学と社会』を掲げている」
——大学として、女性と男性の平等なのか、全ての人間の平等なのか、どちらを目指しているのですか?
「(三浦氏の)個人の回答としては、後者の『全ての人間の平等』になる。性別に限らず人種、民族、年齢などに関係なく全ての人が勉学の機会に恵まれるべきだと思う」
——私はXジェンダーですが、私のような人間はどのように扱われるのでしょう?
「戸籍が男性で性自認が女性(MtF)」という方に絞って定義を広げたため、今回の受入れからは外れる。ただこの定義の拡張が上手くいけば、さらなる拡張もあり得るかもしれない。但し、戸籍が女性であれば、Xジェンダーの方も受験資格がある」
——現在の日本における「性差」は世界と比べてどのような違いがあると思いますか?
「ジェンダーイコーリティという問題に関して、日本は非常に遅れをとっていると思う。政府が女性の社会進出を唱えているが、むしろ、年々世界ランキングは下がっているという事実がある」
「まだまだ、女性に厳しい世の中、女性が生き生きできるような空間を提供するのが女子大の存在意義だと考えている。本学は教員も理事も現在男女比5:5で学長も女性。女性が活躍できる環境づくりは運営体制からも成り立っている。このような環境が、学生にとって理想的だ」
——日本を変えていくために他の機関に求めるものはありますか?
「まさかこんな反響があるとは思わなかった。むしろ、女子大学は、トランスジェンダー受け入れへの対応は遅れていたと言える。だが、多くの新聞社の社説に取り上げられ、好意的に受け取ってもらえた。私たちとしては、女子大学としてやるべきことをやった、いつかやらなければならないことがようやく出来た」
「他の私立女子大学は、おそらく後に続いていくだろう。波及的に広がり、この動きがきっかけで女性が更に活躍できる世の中になれば嬉しい」
「ここから先は、着実にトランスジェンダーを受け入れ、多様な学生が共に学び合う環境づくりをしていきたい。少なからず偏見を持つ学生もいるだろうが、そのような学生にも誤解を解くような機会を与えることに繋げたい。在学生も、トランスジェンダーとして新たに入学した学生も共に成長するような環境を提供していきたい」
——お茶の水女子大学が女子大学である意義とは?
「『日本社会の女性活躍』を目指している。『学ぶ意欲のあるすべての女性にとって、真摯な夢の実現の場として存在する』というミッションに基づき、自立していける女性の育成を目標にしている」
「女子大学であるが故に、共学であれば男性に任せてしまいそうになる仕事も、女子学生が率先して自分からやり、世間で男性が受け持つような役割をこなせるようになる」
「もしも20年、30年経って男女が伍して活躍出来る社会がくるならば、女子大学の意義を考え直しても良いだろう。しかし今はまだ女子大学という自立した女性を育成する場は必要だと考えている」
私は現在女子校に通っていますが、男子が周りにいない環境で6年間共に学んできた彼女たちはたくましく美しく、カッコイイと日々感じています。
そして思うのは、こんなに強い彼女たちがこれから社会に出て、どれだけ「どうせ女だ」と冷たい偏見にさらされることになるのだろうか、ということです。
そもそも、どうして性別というものに縛られて生きていかなければいけないのでしょう。
今回のお茶の水女子大学のトランスジェンダー受け入れは、セクシャルマイノリティーへの理解、関係する制度が遅れている日本において大事な、大きな一歩です。
だけど、まだ一歩に過ぎないのも事実です。ここから二歩三歩と前に進むのは、これから社会を担う私たちの世代です。
お茶の水女子大学の決断は、すばらしいことだと思いつつ、私は一刻も早くこの世界から女子大というものが無くなればいいと思ってしまいました。
女子大を無くしたい訳ではありません。女子大が必要の無い世界を実現したいのです。
私は、見た目だけは立派に女性です。だからこそ、何度だって声を上げたくなります。私は女性ではない、と。少なくとも誰かの頭の中にある女性像を押し付けられることには、声をあげたい。
生まれ持った体に縛られない、ジェンダーという社会が決めた性別という名の枠に囚われずに生きる。そろそろ私たちは「性」についてパラダイムシフトをするべきではないでしょうか。
真に目指すべきは、女性と男性が平等な世界ではなく、性別という概念が体のつくり以外で問われない世界なのではないか。そんなことも思ってしまいます。
性のことを考える時、私は今の社会に、とてつもない息苦しさを感じます。でも、お茶の水女子大のように、変化は少しずつ起きている。Xジェンダーとして生きている、戸籍上は女子大の受験資格を持つ18歳の高校生として、諦めずに社会への働きかけを続けていきたい。この息苦しい世界と戦っていきたい。
「どうして体の作りの違いで分けられていたんだろう」。そんな風に思えるような世界が訪れたのなら……。それは、今よりずっと生きやすい世の中ではないでしょうか。
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