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青学支える名トレーナーも陥った市民ランナーの呪縛 解いたのは……
東京オリンピックがいよいよ来年に迫り、NHKでは大河ドラマ「いだてん」が始まりました。日本各地で、毎週のように大小のマラソン大会が開かれていて、市民ランナーの熱は高まっています。44歳の記者もそんな市民ランナーの一人です。目標タイムをクリアするにはどんな練習を積んで、大会に臨めばいいのか? タイムに伸び悩み、やる気が落ちた時はどうすれば? ランナーたちが陥りがちな悩みを、青山学院大を駅伝強豪校に導いた有名トレーナーに聞いてみました。(デジタル編集部記者・平井隆介)
フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さん(47)。2014年に青学大の原晋監督と出会い、通称「青(あお)トレ」を呼ばれるトレーニングを築き上げました。体のコア(体幹)を鍛えたり、ストレッチなどのケアで体の疲労を取ったりする、ランニング以外の強化の総称が「青トレ」です。
市民ランナーが気をつけることは何なのでしょうか。「記録が伸びずに壁にあたると、走る距離やトレーニングの量を増やしがちですが、それは体に過度な負担がかかり、けがにつながりやすい」。フルマラソンでタイム向上を目指す一般的なランナーなら月に80~100㌔以上は走りたいところです。ただ、何事もやり過ぎは禁物。200㌔を超えると、逆にけがをする確率が格段に上がるそうです。
走ったり、体幹トレーニングを頑張ったりするだけでなく、「リカバリー(疲労回復)にも目を向けないと、逆にタイムは遅くなります」と中野さんは指摘します。「トレーニングとリカバリー、両方とも同じぐらいの気持ちで取り組まないと結果は出ないです」。青学の選手に対しても常にそこを強調しています。
リカバリーも、1つのことをやればいいわけではありません。練習直後のアイシング、ストレッチ、栄養バランスの取れた食事、質の良い睡眠……。「それらをすべて、包括的にやる必要があります」。う~ん、なかなか厳しい。
中野さん自身も市民ランナーです。「速く走りたいとか、長い距離を走れるようになりたいという気持ちは人一倍分かるトレーナーだと思っています」
本格的にマラソンに挑戦するきっかけは伊達公子さんでした。伊達さんはアキレス腱断裂から復帰して、2004年に初マラソン(ロンドン・マラソン)に挑戦し、3時間27分台で走りましたが、その挑戦をトレーナーとしてサポートしたのが中野さんです。それをきっかけに、自身も本格的に走るようになりました。05年に走った初マラソンは3時間28分台。伊達さんに「1分勝った」とからかわれつつ、その後も練習を続け、08年の東京マラソンでは3時間12分台までタイムを伸ばしました。
しかしその後、走ることが義務のようになってしまい、記録が伸びなくなります。04年に走り始めて以来、数年間にわたって月間100㌔以上を維持してきた走行距離も、40㌔台まで落ち込みました。そんなとき、偶然手に取ったのが村上春樹さんの著書「走ることについて語るときに僕の語ること」でした。
走ることがやはり楽しくなくなった村上さんが腕時計を外して、タイムを気にせずに自由に走り始めたら、走ることがもう一度楽しくなった――。そんな記述に目がとまりました。
「自分もタイムを追うのはやめよう」。思い切って腕時計を外し、再び練習を始めると、走るのがまた楽しくなりました。「走る距離やペースを気にせず、ただ本能のまま走るのは、単純に気持ちいい」
トレーナーとして自身の身体能力を分析した結果、スピード系よりも持久系に向いていることが分かりました。中野さんは今、100㌔を走るウルトラマラソンに出たり、練習でも80㌔走に取り組んだりしています。「自己ベストを常に狙うことだけがマラソンじゃないと思うんです。モチベーションを失う方がよほど怖い」
マラソンは今や生涯スポーツ。右肩上がりで成果が出なくても、末永くランニングと向き合い、楽しむ方法を見つけることが大事だということでしょうか。
中野さんは1月31日~2月28日の毎週木曜日の夜、東京・代官山の蔦屋書店で5回にわたって、「フルマラソンを心地よく完走する」という講座を開くことにしています。
2019年東京マラソンの開催も間近になりました。東京マラソンに限らず、せっかく当選したならば、制限時間に終われることなく、ロケーションを満喫しながら心地よく完走
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