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「いだてん」主人公が作った駅伝 運営者が明かす「大会の裏側」

1968年6月、金栗四三さんを中心に久住高原を走る選手たち。メキシコ・オリンピックめざしての高地訓練の様子。前列左から宇佐美彰朗(リッカー)、佐々木精一郎(九州電工)の両五輪候補選手
1968年6月、金栗四三さんを中心に久住高原を走る選手たち。メキシコ・オリンピックめざしての高地訓練の様子。前列左から宇佐美彰朗(リッカー)、佐々木精一郎(九州電工)の両五輪候補選手 出典: 朝日新聞

目次

 NHK大河ドラマ「いだてん」が始まりました。主人公の金栗四三(かなくり・しそう)は、日本人初の五輪選手として知られていますが、駅伝の「生みの親」でもあります。日本ならではのスポーツ、駅伝。その歴史と、大会運営の裏側をご紹介します。(桶谷和宏)

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「学生三大駅伝」とは?

 日本の「学生三大駅伝」といえば、箱根、出雲、全日本です。

 まず箱根。正式名称は「東京箱根間往復大学駅伝競走」と言います。日本人初のオリンピアン金栗四三らがマラソン選手育成のアメリカ大陸横断を構想し、その予選として企画された大会と言われています。

 マラソンを想定しているためなのか、区間数も、距離も長いのが特徴です。

 そして、2019年1月で95回となり3つの大会で一番歴史を重ねている大会です。いわば“駅伝競走”という競技を始め、駅伝文化を作ってきた大会と言えるでしょう。

 主催は関東学生陸上競技連盟で、同連盟に登録している選手のみ参加が可能な大会です。つまりは箱根に出るには関東の大学に行くしかないということになります。東京・大手町から箱根・芦ノ湖間を2日間かけ往復10区間217.1kmで実施されています。

 出雲駅伝(出雲全日本大学選抜駅伝競走)は、出雲市が企画・誘致を行い平成元年に始まった選抜大会です。全国各地の学連から推薦された大学や選抜チームが、“神在月”に学生三大駅伝開幕レースを戦います。区間数、距離ともに一番短い大会で「スピード駅伝」として知られていると思います。出雲市内の6区間45.1kmで実施されています。

金栗四三さんと妻スヤさん=1980年1月
金栗四三さんと妻スヤさん=1980年1月 出典: 朝日新聞

ラーメン屋で生まれた大会

 全日本(全日本大学駅伝対校選手権大会)は、区間数、距離、開催日、歴史の長さなどが箱根と出雲の間という形の大会です。

 全国各地で開催される選考会と呼ばれる予選を勝ち抜いた大学が、その年の日本一を決める選手権大会という位置づけです。名古屋・熱田神宮から伊勢神宮内宮宇治橋前までの8区間106.8kmで実施しています。キャッチコピーは「伊勢で決まる、日本一」。

 アメリカ大陸横断の構想から箱根が生まれたのに対し、全日本はラーメン屋で生まれた大会だと言われています。

 朝日新聞名古屋本社の印刷再開20年を記念して、1970年に第1回大会が開かれました。当時の朝日新聞名古屋本社の関係者が、同僚と会社近くのラーメン屋で印刷再開20年記念事業について話をしている際、箱根駅伝は関東の大学しか出られず、なおかつ大学駅伝の選手権大会(全国大会)がないことに注目し、「全国大会をやろう!」となったそうです。

第50回全日本学生駅伝。一斉にスタートする選手たち=2018年11月4日、名古屋市熱田区、山本正樹撮影
第50回全日本学生駅伝。一斉にスタートする選手たち=2018年11月4日、名古屋市熱田区、山本正樹撮影 出典: 朝日新聞

見どころ考え中継地点も工夫

 私は、全日本の大会運営の担当者として3年間、関わってきました。

 駅伝にはたくさんの見どころがあります。

 例えば中継所。

 50回記念大会として、全日本をより魅力あるものにしていくため、全7カ所ある中継所のうち、6カ所を変更(全8区間中7区間の距離が変更となります)しました。

 49回大会までは、1区14.6km、2区13.2km、4区14.0kmと前半に長距離区間が複数あったため、レース序盤で差が開くことが多くなっていました。そうなると見る側も序盤で勝負が決まったように思えたり、応援している大学が早々にテレビでは見えなくなってしまったりと、盛り上がりに欠ける展開になってしまいがちです。

 50回大会からは1区を最短の9.5kmにするなど前半を短くし、一方で7区を17.6kmと、8区の19.7kmに次ぐ長距離区間にするなど、後半区間になるにつれ距離を長くするような設定に変更しました。

 前半は混戦になりやすい状況を作り、後半は差が開きやすい形にすることで、後半までどこが勝つのか、シードをとるかわからないような展開になること、注目度を高めることを狙いの一つとしています。

 また、序盤の区間から差をつけ、流れをつくっていくことが大事だとされる駅伝で、1区が最も短い距離となるので、各出場大学の選手配置もどうされていくのかという点も、新たなおもしろさではないかなと思います。

第5中継所で6区の服部大暉選手(左)にたすきを渡す愛知工業大の岡本優樹選手=2018年11月4日、津市河芸町、竹井周平撮影
第5中継所で6区の服部大暉選手(左)にたすきを渡す愛知工業大の岡本優樹選手=2018年11月4日、津市河芸町、竹井周平撮影 出典: 朝日新聞

その時、運営側は何をしているのか?

 運営側から見た場合、超重要なのは車列です。

 競技がスタートすると、選手の後ろから、出場校の監督らや報道機関、大会役員らが乗車するバスや、審判員や事務局スタッフが乗る車両などが並んでいて、選手を追いかけるように発車していきます。

 私もその中の「緊急連絡」という車両に乗り、選手列の中盤から後方付近を走行しながら、フィニッシュ地点に向かいます。この車両の役割は無事に106.8kmの運営を進められるよう「全ての緊急連絡・問い合わせの対処」と「選手の安全確保(特に後半)」です。「競技・運営のコントロールタワー」といった形です。

 具体的には、スタート直後から各車両の位置確認と車列指示を、LINEで時々の状況を共有しながら指示を出していきます。全日本では事前に決めているポイントで監督が降車、選手への声かけをするということを行っているため、「監督バス」などは27チームの選手を追い抜き、先回りする必要もあります。

第50回全日本大学駅伝。監督車の車内で青学大・原晋監督(右奥)に密着取材を試みるスポーツジャーナリストの増田明美さん。早大の相楽豊監督(左手前)の姿も=2018年11月4日
第50回全日本大学駅伝。監督車の車内で青学大・原晋監督(右奥)に密着取材を試みるスポーツジャーナリストの増田明美さん。早大の相楽豊監督(左手前)の姿も=2018年11月4日 出典: 朝日新聞

大会車列まるで“生き物”

 序盤は選手が集団で横に広がっていたり、三重県に入ると追い越し車線は大会車両以外にも一般車両が走行、時には渋滞していたりもするので、実は選手を追い抜きできるポイントが少なかったり、当日の状況判断等、難しい部分があります。

 私の二つの携帯電話は通話とLINE、別の担当者も携帯電話とパソコンをフル稼働させ、“生き物”のような大会車列、交通状況に対処しています。

 バスだけでも「監督バス」3台、「報道バス」1台、「役員バス」1台の合計5台が選手と並走しています。

 他にも各ポイントで先頭選手と最後尾の差を見ながら、繰り上げスタート有無・数の可能性を判断します。

 警察へ事前に伝えることで、繰り上げ発生時の白バイなど、警察車両配置変更をスムーズに行ってもらったり、不測の事態に備え、医師が乗車している救護車両と最後尾の選手をケアする「後尾」車両の位置を常に意識したりしています。

 過去には中継所にいる選手がナンバーカード(いわゆる“ゼッケン”)を忘れたという事態があり、大会車両が予備のナンバーカードを先行して届けたというようなこともあったそうです。

 フィニッシュ地点に到着後は、ゴール付近の状況を見て、交通規制解除の判断・指示を出します。

 そんなこんなで、残念ながら、優勝校がフィニッシュする歓喜の瞬間や閉会式には間に合わないので、実は見たことがありません……。

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