話題
「オオカミとヤギは親友になれた。ヒトとヒトは」 講談社広告が話題
ロングセラー絵本『あらしのよるに』をモチーフにした広告について取材しました。
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ロングセラー絵本『あらしのよるに』をモチーフにした広告について取材しました。
「オオカミとヤギは親友になれた。ヒトとヒトは、どうですか?」。そんな問いかけから始まる1月1日の新聞広告が、ネット上で注目を集めました。ロングセラー絵本『あらしのよるに』をモチーフに、講談社が企画したものです。広告に込めた思いを宣伝部の担当部長に聞きました。
今年の元日、一部の全国紙に講談社の大きな広告が掲載されました。
絵本『あらしのよるに』をモチーフにした内容で、「オオカミとヤギは親友になれた。ヒトとヒトは、どうですか?」という問いかけから始まります。
この広告がツイッター上で紹介されると、「やわらかく、やさしい問いかけは心に響きますね」「講談社らしい素晴らしい広告」といったコメントが寄せられ、話題になりました。
どういった経緯で、この広告を企画したのか? 講談社宣伝部の担当部長・灘家薫さんに話を聞きました。
――この広告の狙いについて教えてください
元旦広告で売れ筋書目を並べたほうが広告効果(もうけ)はあるでしょうが、弊社では5年ほど前から「ものを売る」商品広告よりも、「企業メッセージ」を伝える広告を載せています。
ここのところ、隣国とは不安定な関係が続いているし、アメリカと中国も一触即発な状況です。身近なところでは、パワハラ、セクハラ、いじめはなくならないし、ネットでの大炎上も……。自分の意にそぐわない相手を攻撃したり排除したりが多いギスギスした世の中は、いやですよね。
たとえ仲良くするのが難しくても、ほんのちょっとでもいいから相手を認めよう、1㎝でもいいから近づこうよ、その方法は本が教えてくれるよというメッセージを送りたかった。読書離れしている人にも、本を読むと少しは楽になれることをいま一度思い出してほしかったんです。
宣伝部では数年前から「スマホやゲームもいいけど、本もいいよ」と元旦広告で提唱しています。
情報過多の時代ですが、イベントに多くのお客さんが集まるのはどうしてなのか? しかも映画やライブ、スポーツ観戦のときはスマホには手をつけずに、目の前の情報(イベント)以外はシャットアウトしている。
もしかしたら情報の波にもまれないのが心地いいと感じている人が多いのかもしれません。
読書も本にどっぷりつかる行為だから、イベントの選択肢のひとつに本も加えてほしい。そこで、元旦から本を読もうという提案をたびたびしているんです。
――なぜ『あらしのよるに』を選んだのでしょうか
このような読書推進を元旦広告のテーマにしたら、広告会社からの提案が『あらしのよるに』でした。見た瞬間に「今の時代にふさわしいな」と。
オオカミとヤギ、食う者と食われる者が、周りの反対を押しのけて仲良くなれたという物語で、弊社のロングセラー絵本です。コピーを読むと「ヒトも、そろそろけんか、やめませんか」と、民族や宗教、文化や習慣が異なる同士でも仲良くできるという問題提起になります。
また、新聞読者は年配の方が多いので、この広告を目にして子どもや孫に平和について話していただいたり、実際に本を贈ったり、読み聞かせたりして、世代を超えた争いのない世界への思いを共有していただけたらいいだろうなぁと。
――企画する上で工夫した点は
元日の朝に温かいお茶を飲みながら分厚い新聞を1ページ1ページめくるのは、日本ならではの文化ですよね。そういうときにはホッと心温まる広告、幸せな気分になれる広告を私は見たいと思います。
見た目のインパクトを狙ったショッキングなもの、奇をてらったもの、「買って、買って!」とぐいぐい迫ってくる広告は、なんか遠慮したいなぁと。
活字がぎっしり、莫大(ばくだい)な情報がつまっている新聞紙面の中で、ほっと心が温まるオアシスのような広告のほうがいいと思っていたので、シンプルだけど強いデザイン、語りかけるようなコピーをプレゼンで見たときに、「おだやかなインパクト」感が出ていいなぁと、うるっときました。
――ネット上で話題になったことについては
前述の通り新聞読者の特性を考えると、話題作りを狙うショッキングな元旦広告は、元日の朝にはふさわしくない。それよりもハッピーな気分にひたれるメッセージを読者に届けるほうが向いていると思います。そこに今の時代性である共感すること、相手の価値観も含めて共有してみることのメッセージを入れたから評価をいただけたのかと思います。
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