連載
#3 平成B面史
ポケベル「10円プレーヤー」になれなかった俺……指さばきの思い出
平成の始めに若者に大流行し、平成の終わりとともに姿を消すことになった「ポケットベル」。女子高生の「三種の神器」に数えられ、数字の羅列が青春を彩りました。そんなポケベルと10代後半を過ごした記者が、かつての相棒に手紙をしたためてみました。「拝啓 ポケベル様」……。(朝日新聞記者・保坂知晃=昭和55年・1980年生まれ)
私があなたを手にしたのは1997年、秋田県の高校2年生でした。今どきの若者には考えられないでしょうけど、親に干渉されずに友だちに連絡ができるというだけで、胸が高鳴ったものです。青春はこれからだ……と。でもあなたは、なかなか鳴ってくれませんでしたね。
あなたのディスプレーには時計表示がありました。鳴らないあなたは、それが元で悪友たちにこうからかわれたものです。
「でかい時計」
鳴らないのは故障かと思って、私が自らあなたを鳴らしてみたこと、覚えているでしょうか。私は故障してないって? それは……わかってますよ。
さて、あなたの仲間たちのサービスを唯一提供していた「東京テレメッセージ」が来年9月末でサービスを終了します。NTTドコモが2001年に発行した冊子「ポケットベル・サービス30年の歩み」や朝日新聞の紙面から、あなたと仲間たちの歴史を簡単に振り返ろうと思います。
東京都内でポケベルのサービスが始まったのは1968年でした。当時の朝日新聞は次のように紹介しています。
「電話のダイヤルを回せば外出中の人にも連絡できる『ポケット・ベル』」。
「ダイヤルを回したなら携帯に電話したらいいじゃん」と、現代の若者たちから突っ込みが聞こえてきそうですね。
当初はビジネス需要が主でしたが、あなたと仲間たちは20年後、若者に爆発的ブームが巻き起こします。国の統計によると、ポケベルの契約数は89(平成元)年以降、前年比13~20%のペースで増え続けました。
ピークは95年の1061万件。ほぼ10人の1人が持っている計算です。ピークは95年の1061万件。ほぼ10人の1人が持っている計算です。96年5月13日の朝日新聞は「教室に響く『ピーピー』」という見出しで、当時の学校内の様子を伝えています。
休み時間には学校の公衆電話に行列ができたもので、記事によると、ある学校ではこんなことまで起きたようです。
「生徒がプッシュボタンを押しすぎて、公衆電話が壊れた」
でも、栄光は長くは続きませんでした。あなたたちの売りだった文字送信機能がPHSや携帯電話のメールに取って代わられたのです。90年代後半から一気に影が薄くなってしまいました。
ピークからわずか4年後、99年5月26日の朝日新聞は「ポケベル、携帯に降参」と伝えています。あなたたちをスターダムに押し上げた女子高生からのつれない一言も載っています。
「ケータイはどんどんおしゃれになるのに、ポケベルはかわいくないよね」
そもそもブームのきっかけは、ディスプレーに数字を表示できるようになったことでした。当時の若者が数字の語呂合わせでメッセージを伝えていたことは、言うまでもありませんね。こうした使われ方は想定外だったようです。ドコモの冊子には、こうありました。
「連絡すべき電話番号を伝える目的で、世に出された数字表示機能がこれほどまでの使われ方をするとは、開発者は夢想だにしなかったのではないだろうか」
朝日新聞によると、94年に出版された「ポケベル暗号BOOK」(双葉社)は1カ月で瞬く間に20万部が売れました。この度、アマゾンから1円で入手したので、その中でも奇抜な「作品」を紹介しましょう。
一方、私の相棒だったあなたは、数字の語呂合わせではなく、数字が文字に変換され、相手のポケベルに表示されるタイプでした。例えば「11」は「あ」、「23」は「く」のように、文字に数字が割り当てられていました。覚えていますか。「コメ2コメ2」。懐かしいですね。
外出先では公衆電話からメッセージを打つので、今で言う「リア充」たちの必需品はテレフォンカード(テレカ)か10円でした。10円でメッセージを打てる時間は数十秒なので、その間に十数文字分の数字を打ち切らないといけません。どんな文字数でも10円で打ち切れる、いわば「10円プレーヤー」は、早打ちの名手として「代打」を頼まれたものです。
ちなみに、鳴らない青春を謳歌していた私はなかなか上達せず、長め文字入力に10円2枚を要す「20円プレーヤー」のままでした。
長くなってきましたので、そろそろ筆を置きます。私とあなたのお付き合いは実はわずか1年余りで、残念ながらとても静かなものでした。
あなたは平成とともに姿を消しますが、「親に内緒で友だちとやりとりしたい」という青春ならではの願望をかなえる役目は、あなたを原点に、携帯、スマホへと引き継がれていますよ。それでは3470(さよなら)。
敬具
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