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「霊なし」で10年、異色のオカルト番組「北野誠のおまえら行くな。」
タレントの北野誠さん率いる一行が「ガチ」で心霊スポットを訪れる「北野誠のおまえら行くな。」シリーズ。2009年に最初の映像作品がDVDで発売されて以来、約10年にわたって続く人気シリーズです。たとえ「出なくても」満足するという番組とファンとの一体感。民間伝承にまで幅を広げる姿勢はもはや民俗学です。現代の心霊現象ファンの心をとらえる理由について聞きました。
――「ガチンコホラードキュメント」ということですが、そもそもどういう番組なんでしょうか?
西浦和也さん「元々は北野さんがテレビの深夜番組(トゥナイト2)で心霊コーナーを不定期でやっていたんですね」
西浦和也さん「そのころは霊能者が出て、本気でお祓いをして、とシリアスな番組が多かったんですが、北野さんは結構ライトな感じで、他のタレントさんを連れて心霊スポットに行っては、『うわーっ』と逃げて、その様子をヘルメットにつけたカメラで映していたんです」
西浦和也さん「当時としては非常に新しくて面白くて、『本にまとめて出しませんか』とお話をしにいきました。それが縁で、北野さんと自腹で心霊スポットめぐりをするようになったんですが、北野さんが『これで番組やりたいなあ』と」
西浦和也さん「だから一般人が怖いところに行く延長線という感じですね。フェイクもやらせもなく、本当に行ってみるから『ガチンコ』という言い方をしているんですけれども…まあー、何も起きないことも多くて(笑)」
――それで番組になるんですか?
鎌倉さん「行けば必ず『ある』場所なんて、そうそうあるわけないじゃないですか(笑) バックボーンもちゃんと伝えると、見ている人は面白いと思ってくれるんですね」
鎌倉さん「最初はDVDの企画だったので、1回やってみましょうかと。撮ってみたら、意外と怖い物がいっぱい映ったんですよ。地下のスタジオでしゃべっている最中、誰もいないはずの上の階で歩く音がしたり、壁の向こう側は土のはずなのに、向こうからたたいてくる音が聞こえたり」
鎌倉さん「シリーズになっていく中で、何もないこともあったけど、何もなくても、その場所に行くということがエンターテイメントになるんだって思ったんです。
――これまでで印象に残っている撮影はなんですか。
鎌倉さん「『神回』といわれているのが、廃墟になっていた岩手県の集落、そこの夜の小学校が今までロケした中では最高に怖かったと言われますね。鉄扉はばんばん鳴りますし、ロッカーは開いたり閉まったりするし、カメラを置いておくと、ジャリッジャリッと人が歩くような音がしたり……」
鎌倉さん「他に肝試しに来た人がいるのかなあと思って、じーっと待っていると、しーんとして、誰もいない。我々的にはガッツポーズです(笑)」
――「還暦YEAR応援プロジェクト」のロケ地に、タイを選んだのはなぜですか?
西浦和也さん「我々も国内を10年巡って、ちょっと耐性ができているけれども、タイは未知の領域。日本には伝わっていない呪術とかもあるでしょう」
西浦和也さん「日本だと『南無阿弥陀仏』を唱えたり、お守りを持っていたりしたら大丈夫だろうなあ、と思うんですけど、タイでは通用しないだろうなあという怖さがあります。肌にピリピリ感じる、文化の違いからくる怖さが」
鎌倉さん「タイは心霊大好きな国なんですよ。『ピー』と呼んでいて、ニュースでも普通に幽霊の話題が出て、『撮れました』とやっていますし、芸能人のトーク番組で、普通に幽霊の話をしちゃうぐらいです」
鎌倉さん「オカルトのものを売っているマーケットもあって、そこに行くと、普通の人形に全身に釘がガスガス打ってあるんです。店の人に聴くと、恋愛のお守りで、『相手を自分に釘付け』にするんだと。もらった人も大変だなあと思いますよね」
鎌倉さん「2、3年前にはルクテープという人形が大流行しました。亡くなった子どもの魂を入れて育てるのが最初の趣旨だったんですけど、両親が大金持ちになって、『じゃあうちもほしい』という人が出てきた。トラブルにもなって今は売買できなくなっていますが、3年ぐらい前はトラックで仕入れていたという店もあるほどです。
西浦和也さん「以前、台湾に行ったときもそうだったんですが、アジアでは現世利益を求めるんですよね。亡くなった人に奉仕することでリターンがかえってくるという風習があるので、すごい流行るんですよね。日本とは文化的な違いを感じますね」
――日本は悪いことをすると、「先祖を大事にしていないから」と言われるようなことがあります。日本のほうがちょっとネガティブなんですかね。
西浦和也さん「『古事記』では、いざなぎ、いざなみが喧嘩して、この世と黄泉の国と分けちゃったじゃないですか。あの世はあの世、この世はこの世、お互い干渉しない。そんな伝承の流れが、日本の宗教観に反映されているように感じますね。死んだ人には『成仏してください』と」
西浦和也さん「タイや台湾では、あの世との地続き感があります。葬式も死んだ人を呼んで、『あなたのためにやっているんですよ』と盛大にやると、リターンがかえってくるという考え方がある」
鎌倉さん「お金をいっぱい燃やしてあげると、なくなった人があの世にお金を持っていけて、向こうでいい暮らしができる、なんて考えもあります。車や家も紙で作ってあげて、燃やしてあげる。沖縄も同じような考えがありますね」
――日本は六文銭だから、しみったれてますね。
西浦和也さん・鎌倉さん「そうそう、それも片道の交通費だけだからね(笑)」
――日本の心霊好きの考え方は、タイとはだいぶ違うんでしょうか?
西浦和也さん「タイの人たちは極端にあっちとのつながりが強いので、普通につながりを楽しんでいると思います。日本はある程度距離があるから、その距離を縮めることの楽しさがあるのかなあ」
西浦和也さん「タイでは全部『ピー』で何もかも一緒です。台湾だと『鬼』で幽霊も妖怪も全部まとめちゃう。日本みたいに細かく分けているのは珍しいですね」
鎌倉さん「日本は妖怪の話があったり、都市伝説の口裂け女があったり、細分化していますよね。神様もいっぱいいて、いい神様もいれば、悪霊だと恐れつつも祀ればいい神様としてパワーをもらえたり、悪いことがあったら、何か失礼があったんじゃないかということになったり」
鎌倉さん「日本では神様も触れられるものになっていて、心霊好きはそういうところにも行く」
西浦和也さん「我々の番組を見ている人は、自分たちも行っている感、同じ目線で見えるかな、見えないかなといったところを楽しんで、満足していただいている。何も出ない回も多いのに10年続いているのは、そこなんだろうなと思いますね」
――10年続いているのはすごいですね。
西浦和也さん「ガチンコというのをある程度受け入れていただいているので」
西浦和也さん「普通だと『なんだ出ないのかよ』となるのかもしれないけど、『そうそう、出ないよなあ』とか『次はもっと出るところの情報を送ろう』とか、そういう感じで見てもらっているので不思議な感じです」
鎌倉さん「何にもないのは、霊能者を連れて行かないというのもあるんですよ。霊能者を連れていけば、我々には見えなくても『いる』という場所もあるかもしれない。でも、起こることを楽しむ番組だから、何もなかったら何もなかったという話でいいじゃないか」
鎌倉さん「無理やり『見えます』とか言われても、我々が共感できないんじゃ見ている人からも共感は得られないだろうと。送りバントはしないぞ、という感じですよね。とにかく来た球を大ぶりするぞ、と(笑)」
——「出ない」のに納得させるのは新しいです
鎌倉さん「『ここのトンネルは霊が出ます、車で通るとミラーに手形がいっぱいついています』。そういうところに行って出ないと『なんだ出ないじゃん』という話で終わっちゃうじゃないですか」
鎌倉さん「そうじゃなくって、そこは『なんで霊が出るという話なの?』って調べられるところは全部調べて説明する。『それが証拠に、ここにはお地蔵様があるでしょう』とか、『昔はこの先に集落があって、こういう民間伝承があって、そことつないだトンネルはこの世とあの世をつなぐものだから、こういうものが出る』とか」
鎌倉さん「見ている人に腑に落ちる感があると思うんです」
――ちょっと民俗学みたいですね。
鎌倉さん「僕らが番組にすることで、その土地の伝承がちゃんと後々に残って検証できるようになるので、そういう価値もあると思います」
――改めて、「還暦YEAR」となる来年以降の目標を。
鎌倉さん「やっている僕らが面白いから、見ている人も面白かったです、と行ってもらえると、じゃあこれが正解だったんだな、って。北野さんが飽きないこと、ルーチンワークっぽくならないことが一番ですね」
鎌倉さん「僕らは北野さんに怖い場所で怖がってもらわないといけない。もうあれぐらいの年齢で全国区のタレントさんで、心霊スポットで『わー』とか叫んでいる人、いないんですよ(笑) 最近は北野誠さんが心霊スポットに行って怖がる姿を見て、『ああ、きょうも誠さん元気だな』と満足してくれる人もいる」
西浦和也さん「ぼくらも北野さんも目標としては、目の前で幽霊が出てきて、手を振ってくれるというところまでがんばりたいとは思っています。北野さんも還暦を迎えるんで、今年、来年で幽霊に会えるところまで行きたいとは思っているんです」
鎌倉さん「これまでも、モノが動くとか、あとで見ると映っているとか、一緒にいった子が失神しちゃうとかはあるんです。目の前に肉眼で見えて、カメラにも映っていて、できればその人がちょっと透けて、こっちに来てくれる……『よし、撮れたね、見たね、撤収』というところまでいくのが究極の目標ですね」
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