連載
#29 夜廻り猫
「探そう、つかまれ」父のプレゼント 夜廻り猫が描く落とし物

1時間かけて家に戻る途中に、片方の手袋をなくしたと気づいた数十年前の雪の日の思い出。泣いていた自分に、バイクにまたがる父が言った言葉は……。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「落とし物」を描きました。
「むっ 涙の匂い…!」猫の遠藤平蔵は、きょうも街を夜回り中、道にたたずむ男性に声をかけます。
「おまいさん泣いておるな? 心で」
男性は、路上に落ちている子どもの手袋を見つけたところでした。「誰か落としたな 俺も、昔やったよ」。自分の思い出を振り返ります。
納品に行った父のバイクの後ろに乗っていたとき、家に着く直前で片方の手袋がないと気づきました。
「探そう つかまれ」
父はそれだけ言ってUターンし、来た道を戻りながら手袋を探してくれたのです。
「あてもなく探すくらいなら買った方が早いのに でも戻ってくれたんだ」
優しい父の思い出。男性は、「すごくうれしかったのに 俺は誰かの手袋探しに付き合えたことはあるのかな…」とつぶやきます。
手袋を見つけやすいところに置いて、遠藤たちに「風邪ひくなよ」と声をかけて去っていくのでした。
作者の深谷かほるさんは、「『落とした手袋を一緒に探す』というのは、あてのない、一見無駄なことですよね。そんなことをしてやれるのが愛情ではないか、と思っています」と話します。
親たちは、時間やお金を稼ぐ必要に追われています。その時間を割いて〝無駄なこと〟をするのは大変なことです。
「子どもはよく落とし物をしますが、落とした本人が一番悲しいんですよね」と深谷さん。
「『自分が悪い』と反省していることも察して、それ以上叱らず、一緒に長い間探してあげるのは、一生忘れられないくらい価値のある行動かもしれません」
(編集注※現在は、バイク運転時のヘルメットの着用が義務づけられています)
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。単行本4巻(講談社)が7月23日に発売された。
12月17日まで、三越日本橋本店の本館7階はじまりのカフェで「夜廻り猫展~深谷かほる作品展2~」が開かれています。入場料は無料です。
駄菓子や日用品などを売っていたむかし懐かしい「よろず屋」をイメージした展示になっています。原画の展示や、新作グッズ・コラボメニューの販売もあります。
昨日も今日も、展示作品を増やしましたよ〜
— 深谷かほる「夜廻り猫」4巻発売です (@fukaya91) 2018年12月10日
夜廻り猫展は12/17まで、入場無料。
ぜひお越しください#日本橋三越本店#夜廻り猫展 https://t.co/QOeTjnS4bZ
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