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2018年12月05日

石投げられた50年前 脳性麻痺の男性が切り開いた人生、仲間と歌に

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歌作りのメンバー。左下から時計回りで、村上昌憲さん、村上さんの長年の友人の河原隆子さん、世古口敦嗣さん、yu-kaさん。村上さんは「加トちゃんぺ」のポーズをyu-kaさんにして場を和ませてくれた。

歌作りのメンバー。左下から時計回りで、村上昌憲さん、村上さんの長年の友人の河原隆子さん、世古口敦嗣さん、yu-kaさん。村上さんは「加トちゃんぺ」のポーズをyu-kaさんにして場を和ませてくれた。

  広島生まれで59歳の村上昌憲さんが、牛乳パック回収の仕事をするため車の運転免許を取ったのは30歳の時でした。1995年の阪神淡路大震災では、車で荷物を運ぶボランティアをしました。好きな食べ物はイチゴで、毎年、イチゴ狩りに出かけます。氷川きよしが大好きで、家では気が向いたときにCDを流しています。そして、脳性麻痺を持っています。「特別扱いされること」が嫌い。最近、その生き様が歌になりました。障害は特別なこと?
 ポップな歌詞は、障害と聞いて身構えてしまう人や、普段、障害を意識しない人たちに語りかけます。

イチゴ狩りに出かけたときに、友人の子どもと手をつなぐ村上さん=河原隆子さん提供

イチゴ狩りに出かけたときに、友人の子どもと手をつなぐ村上さん=河原隆子さん提供

時代は遡り50年前

生きているだけで石を投げつけられたこともあった

「変なおっちゃんがいる」

子どもの悪気ない言葉のボールも

胸に当たると今もズキッと音が鳴る

半年20回試験受け続け取った運転免許

健常者と同じステージに立ったと初めて思えた

出典: 生き様ソングvol.1【村上昌憲編】より

 村上さんは現在、電動車いすで日常生活を送っていて、食事や入浴の介助などが必要です。

趣味は友人家族と一緒に行くイチゴ狩り=河原隆子さん提供

趣味は友人家族と一緒に行くイチゴ狩り=河原隆子さん提供

歌作りの「目撃者」1100人

 そんな村上さんの「生き様」を歌にしようと発案したのは、福祉施設の職員としても働く世古口敦嗣さんです。

 世古口さんは、福祉施設などが店舗を出したりワークショップを開いたりするイベント「ミーツ・ザ・福祉」(尼崎市で11月に開催)の運営メンバーの一人。

 イベントに向けて、障害があることで行動に制約があった人たちが、自らの手で「できること」を増やし、人生を切り開いていった様子を歌にするプロジェクトを提案しました。

 世古口さんは「歌にすることで、『障害者運動』という強いメッセージをポップに伝えられると思った」と話します。

僕は街に出る

出てどんどん周りを困らせるよ

同じ人間なのに行けない場所あるのはおかしいだろ?

出典: 生き様ソングvol.1【村上昌憲編】より

 作詞作曲は、シンガー・ソングライターのyu-kaさんに依頼しました。

 3月に企画を提案してからは月に1回のミーティングに加え、一般の参加者を募集し村上さんに公開インタビューしたり、歌作りの様子をネット配信したりするなどして、多くの人が村上さんの人柄に触れられる機会を設けました。ネット配信を見るなどして村上さんの歌作りの過程に触れた人は、なんと、のべ1100人にのぼります。

「特別扱いに違和感」

 そんな一連のプロジェクトを村上さん自身はどう思っているのでしょうか。

村上昌憲さん

村上昌憲さん

 「個人的には楽やった。なにも考えずに、思っていることを発言できた。そういうことってあんまりないからなあ」

 どういうことでしょうか。

 「僕は、特別扱いされると違和感を感じる。忙しいのに僕のことを優先してやってくれるとか、エレベーターで順番待ちしていても譲られるとか。『いや、そこは順番やんか』と思う」

 「『してあげたい』という気持ちはうれしい。でも、必要なことは伝えた上でやってもらうけど、必要ないことはやってもらわない。みんなはそうやんか」

 ただ、それは「なんでも自分でできるから」と手助けを拒否することではないのだと、丁寧に考えを伝えてくれました。

 「助けてもらえることは助けてもらったらいいと思う。でも必要じゃないことをやられると苦痛ということ。必要じゃないことをされると、こっちがあわせることになる。ただでさえ人に合わせにくいのに、合わせるのは大変なことやで」

 しかし、歌作りのプロジェクトメンバーには、村上さんが違和感を感じる「特別扱い」がなかったといいます。「僕は体験したことを言っただけ」

店先で美人な姉さん蟹を剝いてくれたように

勇気を一歩出してみたら

いいこともきっと待ってるさワハハ

出典: 生き様ソングvol.1【村上昌憲編】より

障害を「みんなごと」に

 そんな村上さんの人生をyu-kaさんは、聞き取り、歌詞にし、歌に仕上げました。

 ADHDの発達障害当事者でもあるyu-kaさんは「『生き様を伝える』という点で私が歌を歌う目的と一致しました。絶対に関わりたいと思ったんです」と話します。

 ただ、最初は、村上さんはなにができて、なにができないのか把握できていなかったそうです。

 「歌作りの過程で、村上さんの人生のエピソードを聞き、村上さんにできることとできないことがわかっていったし、キャラクターもわかっていった」。

 曲を作る上で大事にしたのは感情が動いたエピソードを入れること。1番の歌詞にある「生きているだけで石を投げつけられたこともあった」などは、その思いで作り上げました。

村上昌憲さんとyu-kaさん

村上昌憲さんとyu-kaさん

 プロジェクトを公開してきた理由について、世古口さんは「プロセスが一番大事だった」と話します。

 「障害を『みんなごと』にしたかったんですよね」
 
 障害者福祉に8年ほど関わってきた世古口さんは、障害に関心がない人たちに「障害は特別なことではない」と伝えたかったといいます。

 「障害は、容姿や性格、好きなものなど人それぞれ違うことと同じ『1つの違い』で、特別ではないんです。だから、障害を理由に関係性がつくられていくのではなく、『好きな人とは仲良く、苦手な人とは仲良くならない』みたいな、障害じゃないところで彼らと関係性がつくられていくのが自然なことだと思います」

公開イベントで村上さんの話を笑顔で聞く参加者たち=世古口敦嗣さん提供

公開イベントで村上さんの話を笑顔で聞く参加者たち=世古口敦嗣さん提供

おもしろいおっちゃんがたまたま障害者

 「車運転できるの?」「北海道に旅行?そんなことできるの?」「そのバイタリティーはどこから来ているんですか」……。

 村上さんを招いた座談会に参加した人たちから村上さんに投げかけられた多くの質問の中に「障害」の言葉がなかったといいます。

 「『障害を持った村上さん』ではなく『村上さんというおもしろいおっちゃんがたまたま障害を持っていた』と分かってもらえたような気がします」(世古口さん)。

 障害のある人と関わりたいと思ったらどうしたらいいでしょう。

 村上さんは言います。

 「『なにをしたらいいか』の答えなんかないよ。障害者がいるところに来てもらうしかない。それに、障害者は僕だけじゃない。たとえば、yu-kaちゃんと関わったらyu-kaちゃんのことがわかる。もっと知りたいと思ったら、僕はyu-kaちゃんに直接聞くと思う。そういうことやで」



生き様ソングvol.1【村上昌憲編】

困っている人がいたら手伝えばいい

  障害者は一人で旅行にも行けないし、飲みにも行けない。そう思う人もいるかもしれません。でも、村上さんは一人で旅行にも行ったし、居酒屋にも行きます。

 障害者の「できる/できない」を勝手に判断したり、障害のある人の「したい/したくない」を制限した時、当事者との間に距離が生まれるのではないでしょうか。

 村上さんは話をするときに体が緊張してしまうため、その言葉は決して聞き取りやすいとは言えません。

 ただ、2時間ほど話を聞く中で、村上さんの言葉は少しずつ聞き取りやすくなっていったし、村上さんの表情の変化がどんな感情を示しているのかも少しずつわかるようになりました。

 障害者と関わりたいと思ったときに何をしたらいいのかと尋ねた時に、村上さんが「何をしたらいいか、の答えなんてないよ」と言ったのは「障害者」というくくりで一人の人をみるべきではないという意図だったのだと思います。

 「障害者」だから「手伝う」のではなく、「困っている人」がいたら手伝う。そう置き換えてみるといいのではないでしょうか。

 同じ社会で生活する人たちがどんな表情を、どんな言葉を、どんな気持ちを表そうとするのか、知ろうとすることから始まると思います。

 もしその人が困っているなら手をさしのべる。そこに障害の有無はあまり関係ないのではないでしょうか。

◇ ◇ ◇

 一般に、なじみが薄くなりがちな障害者の存在。でも、ふとしたきっかけで、誰もが当事者になるかもしれません。全ての人が、偏見や無理解にさらされず、安心して暮らせる社会をつくるには?みなさんと考えたくて、withnewsでは連載「#まぜこぜ世界へのカケハシ」を企画しました。国連が定めた12月3日の「国際障害者デー」を皮切りに、障害を巡る、様々な人々の思いを伝えていきます。

「自分らしい人生」って?「エモい障害者アート」映画から考えてみた
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障害者施設「やまなみ工房」のメンバー、吉川秀昭さん。陶土を糸で切り出し、棒状のモニュメントを製作している。
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出典:映画「地蔵とリビドー」から
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