IT・科学
スマートスピーカーは育児を救うか? 合言葉は「うんちをトリガー」
声だけで家電を操作したり音楽をかけたりできる「スマートスピーカー」。興味本位で買ったものの使わずじまいでした。ですが、里帰り出産を終えた妻と娘との生活が始まってから、活躍のきざしが。使いこなせば妻の育児負担を減らせると思い、あらゆる使い方を試してみました。
私が8月から使っているのは、amazonの「エコースポット」という液晶画面付きのスマートスピーカーです。「アレクサ」と呼びかけてから、言葉で指示すると、音楽を流したり、家電を操作したりしてくれます。ただ、もともと音楽を聴く習慣もなく、結局は寝室で目覚まし時計代わりに置いておくだけになっていました。
状況が変わったのは、妻が岡山県での里帰り出産を終え、9月末から東京で一緒に暮らすようになってからです。
どうしても泣きやまない2カ月の娘を寝室で抱きかかえていた時。スマートスピーカーが目に入りました。わらにもすがる思いで呼びかけてみました。
「アレクサ、赤ちゃんの音楽かけて!」
すると、オルゴール調の曲がランダムで流れはじめ、娘は泣きやみました。両手がふさがっていても指示ひとつで音楽を流せるので、寝かしつけや、一緒に遊ぶ際に使うようになりました。泣き声で指示が伝わらなかったり、誤認してロックが流れたりすることもありますが、スマートスピーカーの可能性を感じる毎日です。
ベビー用品メーカー「ピジョン」も、スマートスピーカーを育児の負担軽減のため活用しています。
「うんち出ました」
「授乳したよ」
育児中の親が、スマートスピーカーに声をかけると記録され、家族のLINEグループに通知が届く――。
これは、ピジョンと、「駅すぱあと」を提供する「ヴァル研究所」が開発し、10月から配信する「話すだけ育児記録」というスマートスピーカー向けスキル。スキルとは、スマホでいうアプリのようなものです。
どのような経緯で開発したのでしょう。東京都中央区のピジョン本社に話を聞きに行きました。
開発に関わった男性3人はいずれも子育て経験があります。
その一人、ヴァル研究所の豊田博樹さんは「妻が紙に育児の記録を書くのを見て、大変そうだと思っていました。なので、声で記録できたら楽だろうと考えました」。
開発に協力した、埼玉県の親子にも話を聞くと、同じ思いを持っていました。
松本愛子さん(30)は、長男の侑君を2月に出産しました。
「最初はスマホアプリに記録をしていました。ですが、育児中はアプリを立ち上げる余裕もなく、後でまとめて記録しても大ざっぱで」
夫の岬さん(29)「子どもの昼間の生活が分からずに悩みました。帰りが遅くなった時に泣き出して、寝ている妻の代わりにミルクをあげようとしたんです。でも、最後にいつどのくらいミルクを飲んだのか分からず、結局、妻を起こして聞いてしまって……」
侑君が4カ月の頃、開発協力の一環で、スマートスピーカーを使い始めました。
愛子さん「両手がふさがっていても、声で伝えられるので負担はなかったです」
岬さん「仕事の合間にLINEを見て、『こんなにうんちをして、授乳もするのか』と育児の大変さを痛感。仕事から帰っても「今日はうんちが多かったね」と言えたり、泣いていても「ミルクの時間だな」と自分で考えて動けたりできるようになりました」
愛子さん「私に聞くばかりで主従の関係だったけど、今ではフラットな関係に近づけたよね。育児の負担が減ったこともだけど、夫の育児への意識が高くなったのがうれしかったです」
私の妻も毎日紙に育児記録を書き込んでいるので、ぜひこのスキルを使いたいと思いました。育児に対する意識の低さを妻にたびたび指摘されてきた私の意識も変わるかもしれません。
ですが現在、このスキルはLINEのスマートスピーカー「クローバ」でしか利用できないそうです。
ならば、と自力で同様のシステムを作ることに。
使ったのは、Webサービス同士を連携できる「IFTTT」というサービスで、設定は簡単。
家のスマートスピーカーとLINEを連携させ、うんちや授乳を伝えると、夫婦のLINEグループに通知が来るようにしました。
例えば、「うんちをトリガー」と言うと、LINEに「○○ちゃんが、うんちをしたよ」、「おっぱいをトリガー」と言うと、「○○ちゃんがミルクを飲んだよ」と連絡が来るようにしました。
指示の最後に「トリガー」という単語を付けないと反応しないので、当初は違和感がありましたが、今では夫婦で一日何回もトリガーと言っています。
家電の中には、ネットにつながるタイプのものがあり、スマートスピーカーを通じて、操作ができるようになります。ネットにつながる電球は比較的安かったので買ってみました。
使い道は、夜中の授乳やオムツ換えのため。これまでは、部屋の電気のスイッチがあるところまで歩き、部屋全体を明るくしていました。
この電球を設置してからは寝たまま、「ライトをつけて」と言うだけでいいので楽になりました。娘の足元付近に置いたので、お尻だけが照らされ、娘がまぶしがることもなくオムツを替えられるようになりました。
ここまで来ると、できるものは何でもやろうと半ば意地になり、テレビとエアコンも声で操作できるようにすることに。テレビもエアコンもネットにつながってはいませんが、声で操作できるようにする方法がありました。
用意したのは、スマートスピーカーからネットを通じて指示を受け取り、赤外線を出して家電を操作する「スマートリモコン」。使ってみると、赤外線でリモコン操作する家電はすべて声で操作ができるようになりました。スマホを使っての遠隔操作もでき、外出先でエアコンのスイッチを入れることをできるようになりました。冬になれば、家に帰る前に部屋を暖かくしておくこともできそうです。
スマートスピーカーの育児での利用を始めて約2カ月。設定をするたびに、「そんなことできてもしょうがなくない?」と妻にあきれられてきましたが、今では当たり前のように使っています。
感想を聞いてみると、「最初は、別に声でできなくてもいいと思っていた。でも、いざ使えるととても楽だった。後でやろうと思っていても、次から次にやることが出てきて、後でできないのが育児なので」とのことでした。
一方で、私が他のことをほっぽり出して機器の設定に夢中になることもあり、「便利になるのはいいけど、ほどほどにしてほしい」と釘をさされました。
声だけで指示ができるという利点は、育児だけでなく、他の分野でも十分に活用できそうです。体に障害のある人や、足腰の弱った高齢者などの生活を手助けするツールとしても役立てることができるかもしれません。
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