コラム
「豆腐一丁を家族で分け合う国」石田ひかりさんと考える日本の貧困

「子どもの貧困に正直、実感がありませんでした」。俳優の石田ひかりさんは、そう語ります。自身も2人の子どもを育てている石田さん。お金がなく、食べ物に困る家庭がある現実との距離を感じてきたそうです。一方、困窮世帯に食料支援を行う「フードバンク山梨」の米山けい子理事長は、「豆腐一丁を分け合う家庭がある」と語ります。なぜ、日本では貧困が見えにくいのか?低収入にあえぐ家族に、どう手をさしのべられるのか?「フードバンクの日」に当たる今日、二人の対談から考えます。(構成:withnews編集部・神戸郁人)
次世代につながる活動

石田さん:そうなんです。ロケで甲府市を訪れた時、地元のスーパーで行われていることを偶然知りました。そこで買い物をして、食品を寄付したんです。これもご縁だな、と感じたことを覚えています。
米山さんは、どうしてフードバンクを設立されたのでしょうか?
石田さん:フードバンクを始めたことには、どんな理由があったのでしょう?
格差が貧困を見えづらくする

米山さん:厚生労働省の統計では、いわゆる子どもの貧困率は13.9%となっています(2015年時点)。7人に1人が貧困状態にある計算です。ただ、そういう人たちの存在は、なかなか見えませんよね。
米山さん:そうですね。背景にあるのは、やはり格差でしょう。国連児童基金(ユニセフ)は2年前、先進国の経済状況に関する調査結果を発表しました。それを見ると、日本の最貧困層の収入が、世界的に見ても非常に低いことが分かります。
その格差を分析したところ、日本は先進41カ国中34位で、悪い方から8番目だった。
真ん中の所得が約177万円から211万円に上がったのに対し、最貧困層の所得は90万円から84万円に下がったためだ。
石田さん:格差が貧困を見えにくくしているわけですね。
さらに日本では、「1億総中流社会」と呼ばれるほど、経済的に豊かな時代が続いてきました。そもそも、貧困に意識を向ける機会が失われてきたのだと思います。
SOS阻む「恥の文化」

米山さん:多いですね。これまでに支援した約3000世帯のうち、約4割は母子家庭が占めています。とはいえ、学校の先生などに相談する人たちというのは、非常に少ない。そのため、私たちの事務所に、直接申請用紙を送れるような仕組みをつくっています。
米山さん:正確な数は不明ですが、まだ支援が行き届いているとは言えません。「人に迷惑や面倒をかけてはいけない」という、日本特有の「恥の文化」が、SOSを出すのを阻んでいるところがあります。
「近所に知られるくらいなら、申請しない」となってしまうのです。
米山さん:だから、食品は無地の段ボールに入れ、宅配便で利用者に直接送るようにしています。初めて支援を受けた方から「フードバンクのジャンパーを着た人が届けにくるかと思ったけど、安心した」という手紙をもらったこともありますよ。
一日の食費=400円未満

米山さん:4年前、支援を受けた経験のある家庭のうち、20歳未満の子どもがいる269世帯の生活実態を調べました。すると、約7割は一日の食費が400円未満だったんです。一食あたりにならすと100円前後。おにぎり一個が買えるどうかといった程度の額です。
米山さん:利用者に送る荷物の中に、いつもはがきを入れているんです。生活の事や、食品に関する要望を書いてもらっているのですが、ある方からこんなメッセージが届きました。
……体の大きな孫は空腹で眠れずに、夜中にふと気づくと、台所にボーッと立ち尽くしていました。その姿は今でも忘れることはできません。皆様に助けて頂いて、本当に感謝しています。
米山さん:中には「野菜は食べている」という人たちもいますが、口にしているのは大抵がもやし。15円くらいで売られているものを購入する場合もあるようです。こうした境遇にある人を少しでも減らさなくてはと、強く思います。
利用者ごとに支援をカスタマイズ

米山さん:「食のセーフティーネット事業」というものを定期的に行っています。段ボール箱に梱包するのは、お米や乾麺、缶詰の他、必要に応じて乳児用の食品など。全て個人や企業からの寄付品です。支援対象者のお宅に月2回配送しています。
これは自治体と連携している事業で、福祉課の窓口などで申請ができます。一人暮らしの高齢者や路上生活者、一人親家庭、外国人家庭と、利用者の顔ぶれは様々です。
米山さん:そうなんです。だから、利用者それぞれについて、必要な食品などに関する情報が載ったファイルを用意しています。一人一人の状況に合わせ、発送作業を行っているんです。現状では約130世帯、1000人ほどが利用していますが、その中身は全て違うんですよ。
「食」と「楽しむ」経験が親子を救う

米山さん:育児の支え手が他にいない、というのが大きいと思います。子どもが急に熱を出したら、仕事を休まないといけませんよね?たとえ能力があっても、非正規として雇用され、貧困状態に陥ってしまうケースが多いんです。
米山さん:おっしゃる通りですね。以前関わったある母子家庭では、お母さんがパートを複数掛け持ちして、月に13万円ほどしか稼げていませんでした。
一方、一日に子どもと過ごせるのは1時間だけ。その子は小学校低学年なのですが「お母さんが体を壊したら、働けなくなって死んじゃう」と言うのです。
米山さん:そうなんです。厚労省の統計によると、1人親家庭の相対的貧困率(所得が中間の人の半分に満たない割合)は50.8%(2015年時点)。これは国際的に見てもダントツに高い数字です。
米山さん:親が働きづめになると、子どもは食以外にも色々なものを失います。キャンプや旅行に行くことはおろか、友達とファストフード店に行くことすらためらうようになる。「楽しむ」という経験を奪われてしまうのです。
米山さん:だから私たちの団体では、夏休みなどに、キャンプ場でのバーベキュー大会やスポーツ観戦といったイベントを企画しています。夏と冬の長期休暇中、子どものいる貧困家庭に、同じ内容の食品を送る「子ども支援プロジェクト」の一環です。
イベントは困窮世帯が対象で、「普段子どもをどこにも連れて行けないからうれしい」と大変好評です。
米山さん:逆に言うと、食が満たされれば、前向きさを取り戻すことにつながります。実際、支援した家庭のお子さんから「私も人を助けられるような仕事に就きたい」とお手紙が届いたこともあるんです。

米山さん:まず、関わってもらうことだと思います。フードドライブに参加してもらったり、食品の箱詰め作業を手伝ってもらったり。「日本にも貧困がある」という現実を知った上で、「私も行動に移してみたい」と思えるような機会を増やすことが大切だと思います。
米山さん:うれしいです!最初は小さな活動であっても、続けることで大きな流れをつくることができるはずです。諦めないことこそが、一番大切なのですから。
認定NPO法人「フードバンク山梨」(事務所・山梨県南アルプス市)理事長。2008年、理事を務めていた生協を退職、自宅でフードバンクを始める。15年には「全国フードバンク推進協議会」(事務所・東京都小金井市)を設立し、代表として活動の普及に努めている。
◆石田ひかり(いしだ・ひかり)
1972年、東京都出身。中学生時代に芸能界デビューし、大林宣彦監督の映画「ふたり」などで主演を務める。現在はテレビ番組の司会を始め、各方面で活動。中学生の娘2人を育てる母親でもある。