連載
#12 #となりの外国人
「24時間営業」「3K職場」救う外国人 共に生きるため必要なこと
「24時間営業の厳しい仕事」「人が辞めやすい3K職場が多い」。そんなイメージが強く、日本人が敬遠しがちな業界があります。人手不足が深刻化する中、歓迎されているのが、近年増えている外国人労働者です。そのまじめな働きぶりから、「彼らがいないと現場が回らない」という評価も少なくありません。10年後も共に生きていく社会をつくるには、何が必要なのでしょうか?(朝日新聞社会部記者・高野遼、久保田一道)
日本語学校に行くと、よく見る光景があります。「アルバイト情報」と書かれた掲示板。例えば、ある求人票にはこう書かれていました。
ウェブ上にも外国人向けの求人情報はあふれています。
仕事内容はコンビニから飲食店、倉庫での作業などさまざまな業種からの求人が並びます。なんと、日本で働く「外国人労働者」の約2割が「留学生アルバイト」なのです。
外国人アルバイトが多い職場は、どんなところなのでしょうか?日本に来て日が浅く、日本語があまり上手でない留学生が好んで働くのは、「単純作業」の現場と言われます。
今年5月に来日したばかりというモンゴル人の女性(19)は、関東近郊の日本語学校で学びながら、某有名ファッション通販ブランドの倉庫で働いています。「洋服を仕分けして、箱に入れていく仕事です」。日本語をほとんど使わない仕事で、多くの外国人が一緒に働いているそうです。
ほかにも、弁当工場や宅配便の仕分け作業、ホテルのベッドメイクやオフィス清掃など、多くの外国人が「裏方」で私たちの生活を支えています。
もちろん、私たちが普段からよく目にする外国人アルバイトもたくさんいます。代表例はコンビニエンスストア。今年8月時点で、大手3社で働く外国人労働者の数は以下の通り(かっこ内は従業員に占める割合)。そのほとんどは「留学生」です。
「外国人クルーが増えてきたのは、人手不足が深刻化した2013年ごろから。国籍を問わず、アルバイト先に選んでもらえるよう工夫をしてきました」。「ローソン」の担当者はこう語ります。
同社ではマニュアルの整備や研修制度など、外国人アルバイトへの支援体制を整えてきたそうです。 担当者によると、都心には従業員の3割以上が外国人という店舗も。店長の方針によっては、その割合がさらに高まる場合もあるといいます。
「これまでアルバイトとして働いてきた、日本の大学生の数が減る中で、外国人は本当に貴重な力になってくれています。真面目に取り組む人が多いし、仕事を通じて文化の違いも理解してくれる。東南アジアの人たちは『人とのつながり』が強いので、友人も紹介してくれます」
外国人の店員は、外食産業にもたくさんいます。牛丼「すき家」の事情を、運営会社「ゼンショー」の担当者に聞きました。
「うちはグループ全体で約12万人の従業員がいて、7%ほどが外国人。都内の牛丼屋に限れば、3割ほどになります」
2000年代までは、外国人は少なかったといいます。しかし、日本の若者は減る一方、徐々に人手不足に。そんな中、14年になると、深夜帯に1人で全業務をこなす「ワンオペ」が問題化します。これがきっかけで、従業員を増やさざるを得なくなりました。
その後は夜間でも「2人以上」の態勢を義務づけることを徹底。大量のアルバイトが必要になり、そのタイミングで外国人スタッフも増えたそうです。
「当時はアルバイトの採用面接をすれば、多くのベトナム人が会場を埋めていました」と担当者。学校が終わり、夜から朝にかけてアルバイトをする学生たちが、貴重な夜間勤務の戦力になってくれたのです。
好きな物を24時間食べられる――。消費者の欲求に、日本の外食業界は応え続けてきました。その将来を、担当者はこう見通します。
「仕事帰りの遅い夕食や、出勤前の朝食を食べたいという要望に、10年後も応えていけるのか。そのためには一定数の外国人がいなければ成り立ちません」
他の業種でも、外国人の存在感は高まっています。外食・サービス業と並んで数が増えているのが、造船業の現場です。
広島県尾道市の因島。戦国時代の海賊・村上水軍の拠点として知られる、人口約2万3千人の島です。ここでは、850人ほどの外国人が暮らしています。その多くは、島の中心的な産業である、造船に携わる技能実習生です。
島の北部にあるメーカー「三和ドック」。高い設計技術を持ち、船舶を修繕する速さに定評がある、国内有数の企業です。その作業を、ベトナム人の若手実習生たちが下支えしています。
この会社では、270人ほどの日本人正社員に混じり、57人の実習生たちが働いています。「みんな優しいし、仕事も楽しい」。船の階段を溶接する作業にあたっていたグェン・バン・コックさん(31)は、笑顔で語ってくれました。
同社が実習生を受け入れるようになったのは2007年のこと。「団塊の世代」の退職が始まり、働き手を確保できるのか、不安が高まった時期に当たります。
「このままでは地方の中小企業は取り残される」。大手企業が、都市部以外の高校・大学でリクルート活動をするようになり、社内では警戒感が広がりました。
造船業は、製造業の中でも、とりわけ外国人の力が求められる分野です。国土交通省によると、造船に関わる労働者のうち、事務職を除く「技能工」に占める外国人の割合は約11%にのぼります。ほぼ「10人に1人」が外国人労働者という計算です。
一方、三菱UFJリサーチ&コンサルティングがまとめた調査では、製造業全体の外国人への依存度は「49人に1人」。データの算出方法が違うため、単純に比べられませんが、造船業の外国人の依存度は製造業の中でも高そうです。
一体なぜなのでしょう?同社の寺西勇社長(68)は「外での作業が多く、(きつい・危険・汚いとのイメージが強い)『3K職場』に見られがち。残念ながら、新卒の若者には選ばれにくいんです」と分析します。
こうした状況から、寺西社長は外国人労働者の雇用を決意。実習生を受け入れ始めた07年以来、毎年7、8人程度が職場に加わっています。会社にとって、彼らはまさに「救いの手」と言える存在なのです。
若い労働力をつなぎとめるため、同社では様々な工夫をしています。最大の売りは、実習生の受け入れを機に、敷地内に新設した寮です。
名前はベトナム語で「こんにちは」を意味する「シンチャオ」。個室が用意され、各階に設けられたキッチンには、香草のようなさわやかな香りが漂います。敷地内には家庭菜園もあり、ベトナムの食材を育てているそうです。
「彼らはともに働く仲間です。そもそも、待遇が悪ければ実習生から選んでもらえなくなるでしょう」と寺西社長。日本での実習を希望するベトナムの若者の間では、待遇が口コミで広がっているといいます。
寮の充実だけでなく、正社員と同様に年に2回のボーナスも支給しています。同社がベトナムの新聞に実習生の募集を出すと、数人の枠に100 人ほどが応募することもあるそうです。
それでも、この状況がいつまでも続くかは見通せていません。
「ベトナムが経済成長を続け、物価水準が日本に近づいたら実習生も集まらなくなるかもしれない」。寺西社長の脳裏には、そんな危機感があります。
もし、外国人労働者が集まらなくなったら――。「外国人なしでは、現場の作業を回す状況は考えられない」。寺西社長の実感です。
同社では、正社員として雇う外国人を増やしています。現在働いているのは、ベトナム出身者を中心に9人 。公共交通機関のない因島では、日常生活に車やバイクが欠かせません。ただ、日本で運転免許を取得するには、言葉の壁が高く立ちはだかるといいます。
政府は外国人労働者の受け入れ拡大を進める方針ですが、寺西社長は受け入れる側にも取り組むべき課題があると考えています。
「外国人も日本人と同じように暮らせるような配慮がなければ、特に地方は選ばれなくなってしまう。外国人の労働力を受け入れるなら、そんな工夫も必要です」
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