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文化祭で「ジェットコースター」ブーム? そんな青春がうらやましい

手作りジェットコースターのレールの調整をする私立愛知高校の生徒たち=2018年9月、名古屋市千種区
手作りジェットコースターのレールの調整をする私立愛知高校の生徒たち=2018年9月、名古屋市千種区

目次

 高校の文化祭といえば、模擬店、バンド演奏などが定番です。ところが、高校の文化祭の案内に「手作りジェットコースター」とあるのを発見しました。しかも決して珍しい企画ではないのだとか。ジェットコースターを手作り? 危険じゃないの? そもそもいったいどうやって作るの? 疑問は尽きません。ある高校の文化祭に参加してみました。

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【動画】私立愛知高校の文化祭で試運転に成功した『手作りジェットコースター』=日高奈緒撮影 出典: (朝日新聞デジタル)ジェットコースター、まさかの手作り 文化祭で35万円

揚げパンの出店に囲まれた骨組み

 9月末のよく晴れた金曜日。名古屋市の住宅街にある私立愛知高校にやって来ました。揚げパンなどの出店に囲まれ、ジェットコースターの骨組みが見えます。

 一番高いところで2メートル以上はあるでしょうか。木製の骨組みに、金属製のレール。文化祭はもう始まっていますが、企画した2年6組の生徒と担任の小崎邦夫さんが電動ドリルを片手にレールを調整していました。

 前日の試運転で、車両がカーブで遠心力がかかりすぎて脱線してしまい、この日の早朝からコースに角度をつけるべく調整にかかっていたそうです。人が乗るものなので、安全第一。生徒たちの目は真剣です。

私立愛知高校でお披露目された手作りジェットコースター=2018年9月29日、名古屋市千種区の同校、日高奈緒撮影
私立愛知高校でお披露目された手作りジェットコースター=2018年9月29日、名古屋市千種区の同校、日高奈緒撮影

「前輪、ちょっと浮いてた」

 重りを乗せて、いざ試運転。人力で上げられた台車が山を下り、弧を描きながら走り去ります。見事、成功しました。

 でも、生徒たちの顔は晴れません。

「前輪、ちょっと浮いてた」
「もう少しここの高さをあげないと」
「このレールのつなぎめ、ちょっと段差になってるよ」

 ほんの数ミリの調整にも余念がありません。一部を調整すると、どこかがゆがむのか、別の場所で車両が浮きます。

「左前の車輪が浮くってことは、対角線上のレールが低いんじゃないかな」

 理科教員の小崎さんがアドバイスを出します。車両は重りを乗せると重心が下がり、走り方も微妙に変化します。様々な調整を試みましたが、有人の試運転は翌日に持ち越すことにしました。

高校生らが手作りしたジェットコースター。重りを使って試運転に成功した=2018年9月28日、名古屋市千種区の私立愛知高校、日高奈緒撮影
高校生らが手作りしたジェットコースター。重りを使って試運転に成功した=2018年9月28日、名古屋市千種区の私立愛知高校、日高奈緒撮影

「ものづくりに興味が出てきました」

 翌日は台風24号の影響で朝から雨模様。木材が水を吸って膨らんだせいか、骨組みをさらに調整する必要が出てきました。

 正午前。蛍光色のヘルメットをかぶった小崎先生が試乗し、車両をスタートさせました。車両は見事、最後まで走りきりました。周りで見守っていた生徒や保護者からも「おお!」と声があがります。

 最終調整をする中、雨脚が強まり、先生も生徒もいったん待避。これ以上の運転は難しそうです。

 それでも、空模様とは逆に生徒たちの表情は晴れ晴れとして見えました。

 前日に「コースターを作り始めてものづくりに興味が出てきました」と話していた伯川大騎君は「先生が乗っている姿を見られただけでも満足です」と話していました。

高校生らが手作りしたジェットコースター。担任の小崎邦夫さんが乗り、試運転に成功した=2018年9月28日、名古屋市千種区の私立愛知高校、日高奈緒撮影
高校生らが手作りしたジェットコースター。担任の小崎邦夫さんが乗り、試運転に成功した=2018年9月28日、名古屋市千種区の私立愛知高校、日高奈緒撮影

だんだんクラスも一つに

 小崎さんは1995年に生徒たちと初めて手作りコースターに挑戦しました。愛知県の他の高校で始めたのを知ったのがきっかけだったそうです。今回作ったコースターの材料も、小崎さんのクラスの卒業生が経営する部品工場のはからいで、格安で加工してもらったそうです。

 費用は約35万円。学校の文化祭の予算では足りず、生徒が数千円ずつ出し合い、残った材料を生徒会に買い取ってもらうことにしました。

 最初はドリルの使い方も分からず、途方にくれていた生徒たち。約1カ月かけて準備する中で、だんだんクラスも一つになっていきました。

 「うちはどっちかというとおとなしくて静かなクラスだったんです」とクラスの玉水花奈さんは言います。「でもジェットコースターを作るうちに、みんな団結していったような気がします」

 小崎先生にも狙いがありました。「今の子どもたちは失敗しちゃダメだといわれ、失敗を恐れている。大きなことにチャレンジする機会もなかなかないから、こうやって一つの目標に向かって協力し合えるのが大切だと思うんです」

 今回、取材をした私は高校生の時はおろか、大人になっても、友達と一緒になってこんな大がかりなものを作りあげる機会はあまりなかったように思います。雨でびしょぬれになりながらもコースターの調整をする生徒たちは、まぶしく見えました。

手作りジェットコースターのレールの調整をする私立愛知高校の生徒たち=2018年9月、名古屋市千種区
手作りジェットコースターのレールの調整をする私立愛知高校の生徒たち=2018年9月、名古屋市千種区

ジェットコースターの設計図、1千校に配布

 ジェットコースターを作るのに、大切なのは設計図です。その設計図を自身のホームページを通じて全国の約1000校に配布した「仕掛け人」もいます。

 兵庫県立尼崎北高校の理科教員、吉田英一さんは2000年に当時の勤務校の文化祭で手作りコースターを作りました。それをみた他校の生徒から「設計図がほしい」と依頼され、02年には自身のホームページ(http://www.venus.sannet.ne.jp/eyoshida/g01jet2.htm)を通じて公開しています。

 吉田さん設計のコースターはコースの両側が覆われているため脱線の危険性が低く、挑戦しやすい仕様になっています。

 ここ数年は年間約100校から問い合わせが来るそうです。「実際に制作した」と報告があった学校は、北海道から沖縄県まで約400校にも及びます。
 
吉田英一さんが公開している手作りジェットコースターのサイト
吉田英一さんが公開している手作りジェットコースターのサイト 出典:http://www.venus.sannet.ne.jp/eyoshida/g01jet2.htm

コースター作り通じて学習、ものづくり楽しさも体感

 吉田さんのホームページには実際に作った高校の一部が紹介されています。

 以前、吉田さんから設計図を譲り受けた私立名古屋高校(名古屋市東区)は、今年9月にあった文化祭でも手作りジェットコースターに挑戦しました。1年生L組の34人が教室内に作ったのは木製で、予算は約4万円。期間中はコースターに乗ろうとする行列が絶えないほど人気だったそうです。

 車輪が取れてしまうトラブルもありましたが、前輪の位置をずらして再度取り付けたところ、コースターのスピードがぐんと上がりました。

 クラス担任で理科教員の市川圭太さんが「重心が変わったことでスピードが増したのかもしれない」と解説すると、生徒たちは興味深そうに聞いていたそうです。市川さんは「クラスメート同士で協力することも学べ、みんなちょっと成長したように感じた」といいます。

名古屋高校の生徒たちによる手作りジェットコースター=同校提供
名古屋高校の生徒たちによる手作りジェットコースター=同校提供

 秋田県立大館鳳鳴高の文化祭でも、吉田さんの設計図を使った木製コースターができました。

 壁を黒いビニールで覆い、東京ディズニーランドの「スペースマウンテン」をイメージしたそうです。発案したのは3年H組の片岡将真さん。昨年の文化祭でも提案したものの、「危険だ」と指摘を受け断念。企画を練り直し、安全な設計図を探すうちに吉田さんのホームページにたどり着きました。

 「試運転で成功したときには思わず涙が出ちゃって。クラスみんなで何かを作り上げるのは本当に楽しかった」と片岡さん。クラス全員で作り上げたコースターは、文化祭の最優秀企画にも選ばれました。

秋田県立大館鳳鳴高生が作った手作りジェットコースター=同校の片岡将真さん提供
秋田県立大館鳳鳴高生が作った手作りジェットコースター=同校の片岡将真さん提供

安全なコースターづくりのために

 楽しいコースター作りですが、安全への十分な配慮が欠かせないと吉田さんは指摘します。

 どんなに安全な設計図で作ったとしても、走行中は立ち上がらない▽頭がぶつかりそうな所にはクッションを付ける▽スタート、カーブ、ゴールに安全確認をするスタッフを配置する、などの対策が必要です。

 「生徒たちが自分で作った物で人を楽しませるというものづくりの喜び、そして安全を追求することが大切だと忘れないでほしい」と呼びかけています。

尼崎北高校の生徒たちが2017年に作ったジェットコースター=同校提供
尼崎北高校の生徒たちが2017年に作ったジェットコースター=同校提供

ちょっとうらやましい

 実際、私も、生徒たちが作ったものを目にするまで、「さすがに素人が作ったジェットコースターなんて危ないのでは?」という気持ちがありました。

 しかし、真剣に安全性や完成度を求める高校生の姿を見ると考えも変わりました。

 事故が起こらないように大人が見守り、手を貸すのはもちろん必要なことですが、その前から「子どもにできるわけがない」「危ないからやってはいけない」と決めつけない方がよさそうです。

 普段できないことに友達とチャレンジして学べる文化祭、やっぱりちょっとうらやましい。こんな高校生活が送りたかったと思いました。

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