連載
#3 #となりの外国人
外国出身で障害者、二重のマイノリティーが見た日本「車からガン見」
もし、あなたが浅草などの観光地で、電動車いすに乗って自由自在に動く白人の男性を見かけたら、それはグリズデイル・バリージョシュアさん(37)かもしれません。カナダのトロント生まれで、日本の文化や歴史に憧れて来日し、一昨年に日本国籍を取得しました。旅行が好きで、海外からの障害者のための旅行サイトを運営しているというジョシュさん。0歳のときの高熱が原因とみられる障害が残り、3歳から車いすを使っています。外国出身で障害者という、二重のマイノリティーから見た日本社会について、語ってもらいました。(朝日新聞編集委員・真鍋弘樹)
――電動車いすを使っている外国人ということで、目立ってしまうのでは?
中国などアジア出身の人たちとは違って、「日本人ではない」と見た目ですぐにばれるので、すぐに外国人扱いされてしまいます。イヤだというより、疲れる感じですね。
特に地方にでかけると、障害者と外国人というダブルの少数派なので、たいへん注目を浴びてしまう。ある県では、電動車いすで道を通行していたら、すれ違う車に乗っている人たちがみんな、ガン見してきました(笑)。私は犯罪者じゃありません、と言いたくなりました。
――それでも、日本に住む外国出身の人たちは増えています。次第に慣れてくるのではないですか。
確かに、東京など大都市では、そんなことはありませんね。例えば、浅草にはメディアの撮影などでもう10回以上行っているので、ほとんど注目されません。浅草寺の人に、「いつもたいへんお世話になっております」なんて挨拶されたりして。あと、飛行機に乗ると、キャビンアテンダントに「テレビで見ました」と言われました。
――日本に外国人が増えることについて、どう思いますか。
外国から来て日本で働く人たちは、日本人とは違う点があります。それを見て、知らない人が変なやり方をしていると思うのではなく、日本のためになる新しい見方や考え方を持っていると考えて欲しいです。こんなこともあるんだ、と日本のやり方を磨くようにすればいいんじゃないでしょうか。
〈高校で日本語を学んだのが、ジョシュさんが日本に興味を持つきっかけでした。親と日本旅行をして、文化や歴史、食べ物にはまったそうです。カナダの地元で一度就職したものの、日本への思いは冷めることなく、今は外国人が多く勤務するアゼリーグループ社会福祉法人江寿会で、ウェブの管理、運営を担当しています〉
――日本のどこが好きになったのですか。よく、アニメやマンガの大ファンで日本に来たという人がいますが。
よく聞かれるのですが、実はアニメやマンガはあまり好きじゃありません。高校の先生が教えてくれた日本文化に加えて、映画やドラマにも興味を持ちました。黒澤明監督の映画「乱」や「影武者」はとても気に入っています。
――最近の日本では何が好きですか?
テレビのバラエティー番組は好きでよく見ています。「世界の果てまで行ってQ!」とか、「ロンドンブーツ」の番組とか。
――自分が好きな日本を障害者向けに紹介するウェブページ「ACCESSIBLE JAPAN」を作成しようと思ったのはどうしてですか?
「こういうものがあったら自分がうれしい」と思うものを作ったんです。海外の人から見ると、日本はあまりバリアフリーではないと思われている。しかも、英語の情報もなかなかありません。好きになった日本にぜひみんな来て欲しい、という気持ちからです。
――障害者の立場で、日本は暮らしやすいですか。
カナダでは、車を運転できないと自由に行動できず、ずっと両親の世話になっていました。東京の公共交通機関は、実はバリアフリーの観点からはたいへん素晴らしく、日本に来て「自由になった」感じがしました。
〈ジョシュさんは就労ビザを取得して日本に暮らし始めました。それでも、日本社会にきちんと加わっていないと感じて、日本国籍を取ることを決めたといいます。カナダではどちらかというと義務的に投票していたのに対して、国籍を取得して初めての日本の選挙では、新しい自分の国で権利を行使できると思って感動したそうです〉
――ジョシュさんは、自分のことを日本人だと思っていますか?
自分のことを説明するとき、「日本の国籍を持っています」と言います。「日本人です」というと、だいたい余計なことになるから。この顔で日本人って、いったい、どういうことですか、って。
カナダやアメリカと違って、日本人というときは、国籍とエスニシティー(民族)がひとつに重なっていますよね。エスニシティーとナショナリティーのつながりが強い。その点、僕は国籍だったら日本人に入るけど、エスニシティーでは入らないですから。もし正確に言うとすると、カナダ系日本人でしょうか。
――確かに、外国出身で日本国籍を持つ人がこれからも増えるとしたら、「なんとか系日本人」という言い方をもっとしてもいいはずです。
でも、日本ではあまりそういう言い方は聞きませんよね。不思議なのは、カナダでもジャパニーズ・カナディアンのように「なんとか系」という言い方をするのは、ヨーロッパ系以外の人たちが多い。僕の場合、父は何代目かの英国系で、母はブルガリア系の祖父とスコットランド系の祖母という移民の子です。いろいろと交じっているので、ミックス系カナダ人かな?
――外国人とかガイジンという言葉を聞いて、どう感じますか。
今の日本人は、ガイジンという言葉を悪気なしに使っています。面白いと思ったのは、日本人が海外旅行に行くと、現地の人を見て「ガイジンだ」と言っている。その国では、自分たちの方が外国人なのに。つまり、外国人というのは「日本人じゃない」って意味なんでしょうね。
――自分のことは、どう呼ばれたい?
冗談で言うのが、「元外国人」。それとも「元カナダ人」とか。でも本当は、ジョシュと名前で呼ばれたいですね。ガイジンじゃなくて、人間として見て欲しいから。
――日本の国籍を取得したときは、どんな気持ちでしたか?
アメリカやカナダでは、国籍授与式のようなセレモニーがあります。それを想像して、スーツを着て行ったのですが、日本では儀式的なことはいっさいなく、ただの説明会のようなものでした。名前を呼ばれて、コピー機でコピーしたような書類をもらって、こういうことを守ってください、と言われるだけ。国籍を取ったぞという喜ばしい感じはまったくなかった(笑)。
――カナダに心残りはないですか。
日本国籍を取ることを伝えたら、両親には「悲しい」と言われました。日本が好きと言っても、しばらくしたら満足して帰ってくると思っていたようです。それでも、反対はされませんでした。母親の両親も移民だったということがあったのかもしれません。
カナダに戻って、入管で日本のパスポートを出した時には何か言われるかと思って緊張しましたが、事務的に扱われて拍子抜けしました。
――今は、姓名の順で本名を名乗っていますね。
日本の国籍を取ると、日本風の通称を使う人もいるようですけど、日本人になっても昔を捨てるわけではないので、本名を名乗ることを決めました。
ただ、レストランの予約をしたりする時は、失敗したなと思います。何度も名前を伝えても、グリ?……って説明するのがたいへんで(笑)。ジョシュです、というのが一番てっとり早いです。
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