「自分の外見に悩み、家族を責めてしまいました」。日本人と米国人の両親を持つ、タレントで俳優の副島淳さん(34)は、幼い頃をそう振り返ります。黒い肌に大きなアフロヘア、2メートル近い長身。明るいキャラクターも手伝い、NHKの朝の看板番組「あさイチ」でリポーターを務めるなど、今やお茶の間の人気者です。しかしかつては、その見た目から教室で孤立し、周囲に溶け込めなかったといいます。そんな副島さんに聞きました。「外国人っていう呼び名、どう思いますか?」(withnews編集部・神戸郁人)
【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格
【動画】見た目に葛藤した時期もあったが、今では周りの反応を楽しんでいるという副島淳さん=松本俊撮影 出典: 朝日新聞
小学生時代の副島さん。この頃から、周囲との見た目の違いに悩み始めた(画像を加工しています) 出典: REMIX提供
<母親は日本人、父親は米国人という副島さん。日本で生まれ育ちましたが、周りの友人とは、幼少期から見た目が異なっていました。違和感を持ち始めたのは、小学生の時。クラスで容姿の特徴をなじられ、家族に当たってしまうこともしばしばだったそうです>
――副島さんは日本生まれ、日本育ちですね
東京・蒲田で生まれ、後に千葉県浦安市へ引っ越しました。父親は物心つく前に蒸発してしまい、顔も分かりません。母方の祖母、母と暮らしていたので、昔から日本語だけで会話していました。実は、米国に行ったこともないんです。
――ご自身の見た目について、深く考えるようになったのはいつでしたか
小学校に入った後でしょうか。僕は当時から縮れ毛だったのですが、そんな同級生は一人もいなかった。次第に「髪形が変だ」「お前は肌の色が違う」といじめられるようになったんです。それまでは何の疑問も持たなかったのに、生き方が変わってしまいました。
――生き方が変わったというと?
活発だった性格が、引っ込み思案になりましたね。友達の輪に入ろうとすると、「外国人だろう」と仲間外れにされるので、自ら距離を取っていました。
いつも教室の隅っこにいて、目立つ振る舞いは控える。クラスにはいるだけ、という感じです。心の中では「どうすれば仲間に入れてくれるのかな」と悩んでばかりでした。
――ご家族との関わり方はどうでしたか
母を責めてしまうことが多かったです。
「何で俺だけこんなに黒いんだ」
「そのせいでいじめられているんだよ」
学校から帰ると、ことあるごとに気持ちをぶつけていました。裏を返せば、彼女しか本心をさらけ出せる人がいなかったんです。
でも、母は「いつかは必ず良い状況になる」「お前が強くなりなさい」と励ましてくれました。おかげで、苦しい状況をどう乗り切るか、自ら考える力は身についたと思います。とてもありがたかったですね。
中学校の部活の仲間たちと。後列の右から4番目が副島さん。バスケットボール部で身体能力を発揮できたことが自信に。副島さん本来の、ひょうきんな人柄も輝きだす。「劣等感しかなかった自分を、初めて良いと思えた時期」(画像を加工しています) 出典: REMIX提供
<悩み深い幼少期を過ぎ、副島さんは浦安市の公立中学に進みます。バスケットボール部での活躍を通じ、弱点だと思っていた周囲との「違い」が、逆に武器になることに気づきました>
――成長するにつれて、見た目の捉え方は変わっていきましたか
そうですね。転機は中学1年の時。高身長なのを見初められて、バスケットボール部にスカウトされたんです。
初心者で最初は下手だったのですが、練習するほど結果につながるのが楽しくて。最終的には地区内で注目されるレベルの選手になれました。「居場所が見つかったな」という感じがしましたね。
チームワークが求められる競技なので、部員間で協力できたのも良かったです。自然と会話する機会が増えて、他人と接することへの「免疫」ができたと思っています。
――友人と話すのに、抵抗がなくなった?
はい。公立校だったので、部員には小学校の同級生も多く、相変わらず見た目をいじられることはあったんです。でも、うまく切り返せるようになりました。
たとえば、「お前黒いよな」と言われたら「日焼けサロンで寝過ぎちゃって」、縮れ毛について指摘されれば「理科の実験に失敗して、爆発に巻き込まれた」……といった具合です(笑)。
すると、笑ってもらえたんですよね。今まで弱点だと思っていた外見で、人を楽しませられると気づいた出来事でした。自分の容姿を初めて「いいな」と思え、どんどん人の輪に飛び込んでいけるようにもなりました。この体験は、今の仕事につながっていると思います。
「よく『あなたは外国人ですか?』と聞かれるんです。そのたびに『僕は日本にしかルーツが無いんですよ』と答えています」と話す副島さん=松本俊撮影 出典: 朝日新聞
<日本で生まれ育ち、英語が苦手。なのに、周囲からは「外国人」と見られてしまう現実……。自分のアイデンティティーはどこにあるのか?そんな疑問の答えに、30代で初体験した、海外渡航を通じて到達します>
――ところで、副島さんは英語が苦手と伺いました
おっしゃる通りです。中学1年の時、英語の定期試験の成績が、全然振るわなくて。先生は僕の見た目から、ネイティブ並みに使いこなせると考えていたようなんです。後で呼び出され「ふざけるな」と叱られました。以来、英語は「怖い」という印象が強いです。
――街中で、他人から英語で話しかけられることもあるのでは
あります、あります。特に外国人観光客の方からは、ものすごい勢いで声をかけられます(笑)。でも、うまく答えられず、申し訳ないなぁと思うことが多いです。
――日本人であるにもかかわらず、外国人と見られてしまう。その状況を、どう捉えていらっしゃいますか
確かに、見た目とのギャップは感じてきました。でも今は、「自分には日本人としてのアイデンティティーしか存在しない」と自信を持って言えます。
2年前、テレビ番組のロケでニュージーランドに行ったんです。人生初の海外渡航でした。地元の大きな温泉まで自力で向かう、という企画で、住民にしゃべりかけないといけなかった。
米国人のような見た目ながら、僕の英語は片言です。しかし彼らは、こちらの意をくんで手を貸してくれました。その経験から、生きる上で、容姿は大きな問題にならないと思ったんです。
テレビ番組のロケで訪れたニュージーランドでの一コマ。副島さんの明るさに、現地の子どもたちも思わずニッコリ 出典: REMIX提供
同時に、海外の文化に触れたことで、「僕は日本で育った日本人なんだ」と再認識することもできました。外見は、確かに日本だと一般的ではないかもしれない。それでも「一個しかルーツがないなら、それで生きていこう」という気持ちでいます。
おちゃめなポーズを決める副島さん=松本俊撮影 出典: 朝日新聞
<観光客や留学生、技能実習生に永住者。海外から日本を訪れる人々は、年々増加する一方です。日本人と他国に出自を持つ人とを、時に隔ててしまう「外国人」という言葉は、現状になじまない部分も出てきています。副島さんが考える、新しい呼び方とは……>
――日本には海外から多くの人々が訪れ、定住するケースも増えています。親が海外の出身など、日本以外にもルーツがある「日本人」は少なくありません。「外国人」との呼び方は、ふさわしいとお考えでしょうか
個人的には、「外国人」という言葉では、もはや人間を区分できないと思っています。時代遅れというか、字面のニュアンスが通用しなくなっているのではないでしょうか。
僕のような見た目でも、話せるのは日本語だけという人は多い。逆に、日本人に見えて、別の国の言語しか分からない人もいます。となると、わざわざ国や文化によって、人を定義づける意味はないですよね。
もはや地球全体が一つの国である、と言っても良いかもしれません。そうすると、「地球人」になるのかな?
――それなら、国の内や外という概念もいりませんね
確かにそうですね!僕自身もまた、生まれながらに日本人であり、もっと言えば地球人だと思っています。
もし今後、宇宙人と交流するようになれば、「太陽系人」「銀河系人」といった呼び方が出てくる可能性だってありますよ。「『地球人』なんて古くさい!」って言われているかも。ちょっと壮大すぎるかな(笑)。
◆副島淳(そえじま・じゅん)
1984年7月18日生まれ。約195センチの長身で、アフロまで含めると2メートルを超える。雑誌のモデルや、舞台・映画俳優として幅広く活躍し、2017年4月からNHKの朝の情報番組「あさイチ」にレギュラー出演中。「人を笑わせ幸せにできる俳優」が目標。