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結婚って当たり前? 「結婚相手は抽選で」が描く、いびつな日本社会
「ひとごとに思えない。泣きそう」「共感してくれる優しさみたいなのがある」「ほんとに結婚って何だろうね」――。
そんな感想がSNSに上がっている連続ドラマがあります。放送中の「結婚相手は抽選で」(フジテレビ系、土曜午後11時40分)です。
少子化対策のために、未婚者は政府から強制でお見合いをさせられる法律ができ、3度相手を断るとテロ対策活動の後方支援に従事しなくてはならないという内容です。
なんとも気味が悪い法律ですが、結婚を半強制とする設定により、現実社会でも若者たちがひそかに抱えているであろう家族内の問題や、自分に自信が持てないといったつらさを、浮かび上がらせる仕掛けになっているのです。
制作は東海テレビ。同局の河角直樹プロデューサー(44)に、この作品に込めた思いを聞きました。
記者が最初に心に刺さったのは、2話のシーンでした。
主人公の龍彦(野村周平)がお見合いをした相手は、すぐに龍彦を断ってきます。その理由を龍彦が聞くと、彼女は自分の人生について語り始めます。
子どものころに「デブス」と男子にからかわれ、「お嫁さんになりたいなんて夢」は胸にしまい、小学3年生で「一生結婚しない」と自分に誓ったこと。勉強も仕事も努力し続け、マンションも自分で買ったこと……。そして言います。
彼女は自らテロ対策の後方支援に行く選択をするのです。
このシーンにはSNS上でも、「胸に刺さるものがあった」「感情移入しちゃう」などの声があがりました。
作品ではこのほかにも、誰かにとって強く共感できるであろう人物が出てきます。高圧的な祖母に育てられ自分を出せないでいる女性、病気で子どもを産めない女性、同性愛者であることを隠して生きるエリート男性……。
主人公・龍彦も苦しさを抱えています。中学生の時、いじめがある学校を変えようと生徒会長選挙に出るも落選。真面目な訴えをしたことで陰口を言われ、人間不信になりました。極度の潔癖性になり、大人になった今も特に異性とはうまく接することができません。龍彦は友人に、こう漏らします。
河角さんは独身で、龍彦を見ていると身につまされる部分があると言います。自身が感じていることをこう話します。
抽選見合い結婚法を担当する大臣の描き方にもこだわりました。大臣は元シンクロ選手の女性で、離婚経験があり、娘が1人います。官房長官から、「結婚に失敗した」、子どもが「たった1人」、などと人目につかない所で皮肉を言われるのです。大臣が、娘との関係で悩んでいることを示唆する場面もあります。
前回放送の5話では、龍彦は友人からゲイであることを告白され、異性愛が前提の法律により苦しんでいる人がいることを痛感しました。次回10日の6話では、性的マイノリティーについて学んだ龍彦が、「抽選見合い結婚法」の改定を求める上申書を作ります。
主張するとたたかれるという恐怖心から目立たないように生きてきた龍彦ですが、少しずつ自分の正義を貫く勇気を取り戻していくのです。
「結婚はまだ?」「子どもをつくらないと」。こんな言葉をかけられたことがある人も多いと思います。結婚を強制する空気は今の社会にもあり、ドラマはその空気を政府による「制度」として表現しているように見えます。今の社会に置き換えてみることができるドラマです。
現実の家族とは、「男女が出会い、結婚し、子が生まれ、幸せに暮らしました」という構図だけではありません。ドラマの登場人物の奈々が抑圧的な祖母がいる家では感情を出せないように、好美の父親がアルコール依存症で母を苦しめたように、家庭の中には様々な問題があります。
また、龍彦が恋愛できない自分を欠陥品と感じてしまうように、「異性から愛されるべきだ」という社会の空気は、人から個性をうばってしまうこともあると思います。そもそも同性愛もありますし、支え合う人間の関係は結婚だけではないはずです。
恋愛や結婚を賛美するようなドラマも好きですが、このドラマは、「結婚」というフィルターで世の中を見ることで、「それ以外」の人生にも寄り添ってくれると感じています。
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