MENU CLOSE

地元

”新幹線誘致ドラマ”がネットで大ウケ 自治体動画は次のステージへ

小松停太郎(右)の登場に対抗心をむき出しにする加賀停太郎=石川県加賀市提供
小松停太郎(右)の登場に対抗心をむき出しにする加賀停太郎=石川県加賀市提供

目次

 自治体がPR動画を作ることは珍しくなくなり、注目されるための競争も激しくなっています。そんな中、石川県加賀市が、北陸新幹線をめぐり金沢市へのねたみを隠さず、隣の小松市にケンカを売る挑戦的なPR動画を作り、ネット上で大きな話題になりました。“新幹線誘致ドラマ”はどのようにして生まれたのか。仕掛け人に話を聞きました。(朝日新聞金沢総局記者・木佐貫将司)

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」

「帰省すると寂れてて……」

 加賀市のPR動画が作られた背景には、2022年度末に予定される北陸新幹線の敦賀延伸に伴う小松との「新幹線誘致合戦」の構図や、新幹線効果にわく金沢との格差があります。
 
 You TubeにアップされたPR動画の再生回数は、10月16日時点で第1弾が約13万回、第2弾が約19万回に。昨年10月25日のYahoo! つぶやき件数では主人公「加賀停太郎」の名前が3位に入り、第1弾はテレビ番組の「ご当地PR動画グランプリ」の頂点に輝きました。SNS上では「加賀市の動画熱い!」などの反響があるといいます。

 ネット上で大きな話題になった動画のねらいや秘訣は何なのか。プロデュースした電通・吉田翔彦さん(32)に聞きました。

 ――制作までの経緯を教えて下さい

 「最初にあったのは『地元に貢献する仕事をしたい』という思いです。加賀市の温泉街に生まれ、中学まで過ごしました。大学から上京し就職しましたが、その思いは消えなかった。年末年始に帰省すると寂れてて……。新幹線開業の効果は金沢止まりだなあと」

 「大手化学メーカーの花王の営業をしながら、2016年5月に宮元陸市長に市のブランド戦略を提案しました。そして翌年2月ごろ、PR動画の公募に声がかかって正式に採用され、動画第1弾『新幹線対策室season1』の制作が始まったんです」

「自治体PR動画は飽和状態。新しいことをしなければ埋もれてしまう」と吉田さん。加賀市の宮元陸市長らに根気強く説明したという
「自治体PR動画は飽和状態。新しいことをしなければ埋もれてしまう」と吉田さん。加賀市の宮元陸市長らに根気強く説明したという 出典: 朝日新聞

「普通に作ったら埋もれるだけです」

 ――どんな提案を

 「『今までの加賀市の動画のままだと埋もれますよ』と少し挑戦的に(笑)。加賀市だとPRするなら温泉や料理とかになりますよね。でも、自治体PR動画がこれだけ溢れている時代、普通に作ったら埋もれるだけです」

 「既に加賀は世の中から一歩遅れていた。より共感を得られる動画作りが必要だと思いました。だから『新幹線がやってくる』という大きな時事ネタを取り入れ、観光資源をかけ合わせるのはどうだろう、と」

「東京2023加賀プロジェクト」。北陸新幹線(左)と九谷焼で作った「STOP皿」=石川県加賀市提供
「東京2023加賀プロジェクト」。北陸新幹線(左)と九谷焼で作った「STOP皿」=石川県加賀市提供

自治体PR動画3つのステージ

 ――吉田さんはこれまでの自治体動画をどうみていたのでしょう

 「僕は、自治体PR動画を3つのステージに分類しています」

 「ステージ1は『あたりさわりのない動画』時代です。ゆるキャラを並べたり風景に曲をつけて市民が歌ったりする動画です」

 「ステージ2は『攻めの動画』時代です。芸人の有吉弘行さんを出演させた広島県の『おしい!広島県』や大分県別府市の『湯~園地計画!』など、地域の観光資源を面白おかしく発信する動画を差します」

 「自治体PR動画は現在約1千本あるといわれ、ステージ1、2と同じようなものを作っては風を起こすのは難しい。そこで僕は新たな『ステージ3』を提案しました」

大分県別府市の「湯~園地計画!」の動画

多くの人の共感を呼ぶ第3ステージ

 ――「ステージ3」が加賀市の動画ですね

 「はい。『温泉』や『九谷焼』など加賀の観光資源を推すだけでは埋没します。そこで目をつけたのが、2022年度末に予定される北陸新幹線の敦賀延伸という時事性の高いテーマです」

 「これは他の自治体では真似できない要素。新幹線を町に呼ぶというのは地元が一つになって盛り上がります。2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まった時の熱狂がヒントになっています」

 「さらに金沢への嫉妬心、小松との対決というドラマをかけ合わせる。『観光資源×時事性×ドラマ』の方程式で多くの人の共感を呼ぶステージ3『ムーブメント型』動画のできあがりです」

「共感と驚き」

 ――金沢への対抗心、小松との対決が多くの話題を呼びました

 「SNSで大きな話題を集めたのは『共感と驚き』があったからだと思います」

 「第1弾の『金沢みたいになりたい』と嫉妬心を出し泣き叫ぶようなPR動画は今までにないですよね。でもその姿に多くの人が驚き、そして共感してもらえると思いました。宮元市長は最初『情けないやろ』なんて言ってましたが(笑)。約4カ月で作った動画でしたが『加賀市ガンバレ』『涙ぐましい。大笑いした』など、反響は大きかった」

 「第1弾公開後、加賀と新幹線誘致で『綱引きをしている』とされていた小松に、動画についての取材が殺到したと聞きました。第2弾のプロレスの相手としてめちゃくちゃ面白いなって」

 「ちなみに動画に出てくる小松陣営の人は、加賀市役所に勤める小松出身の人などで固めています。今年8月に公開しましたが、既に第1弾を超える勢いで再生されています」

「新幹線対策室」実際にはない

 ――第2弾、大丈夫だったんですか(笑)

 「正直、『賭け』でしたね。宮元市長はOKをくれました。小松の担当者にも連絡は入れています。加賀市には実在し小松市にはない『新幹線対策室』を作りあげるなど挑戦的な内容です」

 「第2弾は対立で終わらず、お互いの発展を応援する内容にしました。『加賀停太郎』が話題になるなか、ライバル『小松停太郎』を出すのはとても有効だったと思います。あえて見た目も似せました」

「話題を取ることに、自治体も民間も関係ない」

 ――今回の成功についてどう考えますか

 「自治体はPRに予算をかけられず、正直マーケティングも遅れています。企業で培ったノウハウを取り入れれば新しいものを生み出せる。その点、宮元市長は理解がある人でした」

 「世の中に面白いものを出して話題を取ること自体に、自治体も民間企業も関係ありません。JRや国土交通省の反応もいいと聞きます。追い風になっていると思いますね」

 ――最後に北陸新幹線はどうなりそうだと思いますか

 「『かがやき』は…加賀に止まります(笑)。そのために、これからも毎年1本のペースで動画を作ります。第3弾も、お楽しみに」

     ◇

吉田翔彦(よしだ・たかひこ)1986年7月、石川県加賀市の山代温泉に生まれる。石川県立小松高校を経て慶應義塾大学商学部卒。2010年に電通に入社。メーカーへの営業の傍ら、加賀市PR動画「東京2023加賀 加賀市新幹線対策室」をプロデュース。2017年に第1弾、今年第2弾を完成させた。休日は大学時代に熱中したサッカーに汗を流す。

リクエスト募集中

検索してもわからないこと、調べます。

リクエストを書くリクエストを書く

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます