連載
#27 夜廻り猫
「私は父にさわったこともない」 夜廻り猫が描く親子の距離
「もう帰るよ」。何度そう呼びかけても、息子は「いやだー。じーたーん」と泣いて、おじいちゃんから離れようとしません。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「親子の距離」を描きました。
ひとの心の涙の匂いをかぎつける猫の遠藤平蔵は、きょうも街を夜回りしています。「むっ 涙の匂い…!」
一軒家の門の前で女性が「遅くなっちゃった。帰るよ」と息子に呼びかけています。男の子は「いやだ。じーたん」と言っておじいちゃんから離れようとしません。手をつないで連れ帰ろうとしても、またおじいちゃんの元へ駆け寄ります。
涙ぐむ女性に、遠藤は「大丈夫?」と声をかけました。
女性は「嬉しいの」と語り始めます。ずっと単身赴任だった父。「私は父にさわったこともない」。小さな頃は「パパが来た たすけて」と言って泣いたこともありました。
「息子が泣くのは、父と離れたくないから やっと父にほっとしてもらえた気がして」
遠藤は「そうか そうか 大泣きグッジョブ!」と言って笑います。男の子はまたおじいちゃんを思い出して「じーたん」と泣いてしまうのでした。
作者の深谷かほるさんは「親子関係はさまざまで、いろんなひっかかりが生まれ、いろんな埋め合わせが起きますよね」と話します。
とくに、家にいられない出稼ぎや単身赴任といった「仕事」と「子育て」の関係では、さまざまな問題も起きてしまいます。
「家庭は個人と同じくそれぞれが唯一のものです。どんなものであっても、それぞれの人が大切に思えれば良いなと思います」
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。単行本4巻(講談社)が7月23日に発売。黒猫のマリとともに暮らす。
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