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「災害ボランティア、このままでいいのか」 進化の一方、大きい負担
大きな災害後、復旧・復興のためには不可欠なボランティア。例えば、まず家や路地に入った泥やがれきをのけるとか、田畑を修復や収穫の手伝いとかいう作業から必要になりますが、あまりにも善意頼みなのが現状です。西日本豪雨で被災した広島県坂町小屋浦4丁目で「半取材、半ボランティア」をした朝日新聞・東野真和記者のルポには、「このままでいいのか」というコメントがたくさんありました。かといって被災者たちだけでは限界があるし、業者を待っていては、いつになるかわからない。東野記者は「災害に即応する国の常設機関が必要」と訴えます。
私が大きな災害取材を体験したのは1995年の阪神大震災が初めてでしたが、その時は、ボランティアというのは、一部の奉仕精神が溢れた人がやることというイメージでした。もちろん私も参加しませんでした。
2011年の東日本大震災で、取材の合間に津波が入った家の土砂や家財道具を撤去するボランティアをして以来、2016年の岩手県岩泉町の台風被害や今年7月の西日本豪雨災害など、いくつかの被災地で土砂撤去の作業を、ほんの数日ずつですが手伝いました。
阪神大震災は、後に「ボランティア元年」と言われるくらい、国や自治体はその受け皿を用意していませんでした。その後、社会福祉協議会(社協)でその役割を担うようになりましたが、日頃から災害対応をするわけではないので、いざというとき対応できない、という事態になりがちです。
それでも東日本大震災の時は、全国から経験がある社協職員や、ボランティアを束ねた経験のある行政職員やNPO関係者らがかけつけて、ボランティアを支援しました。「遠野まごころネット」(岩手県遠野市)のように、地元に民間の新しい中間支援団体もできました。
また、重機での作業から商売の立て直しにいたるまで、専門家が知識を生かしたボランティアをすることが活発になりました。彼らは「プロボノ」と呼ばれ、東日本大震災は「プロボノ元年」だという人もいます。
2016年の熊本地震では、農家を助ける「援農」が盛んになりました。社協が窓口になるボランティアは、個々の経済活動の利益になるような所へは派遣できないので、被災した農家への手伝いは仲介してくれません。そこで、支援団体や個人が別の窓口を作りました。
ボランティアたちは、その後も作物が気になって手伝いに来たり、収穫の時に農家がお礼に招待したりして、支援する、されるの関係から、生産者と消費者の関係になったり、農業に興味を持つ人が増えたりしました。地域起こしに役立っているのです。
南阿蘇村の元建設業の井出順二さんは、重機で土砂撤去のボランティアをしているうちに、全国から共鳴する若者たちが集まってきて「ロハス南阿蘇たすけあい」という任意団体をつくりました。
その後、九州北部で豪雨災害が起き、大阪で地震が起き、西日本豪雨災害が起き、と被災地に重機ごとかけつけているうちに、どんどん仲間は増え、重機も20台ほど所有しています。土砂撤去後の消毒やら、屋根ふきのプロなどとも連絡を取り合って参加し、まさに「復旧プロボノ集団」です。
こうして、災害ボランティアは進化していますが、一方で、課題もあります。今年7月の西日本豪雨では、広範囲に災害が起きたこともあり、交通の便が悪い場所にはボランティアがなかなか来てくれませんでした。行けば、かなりの重労働で、ケガや熱射病の危険もあります。
社協を通じボランティアは保険に入りますが、それも十分とは言えず、個人で参加する人は自己責任です。最近の災害では宿泊費の補助制度を設けていますが単発的で、仕事や学業との関係も含め、ボランティアの負担は、今も大きいです。
きょうも広島県坂町小屋浦4丁目。きょうも個人的なつてなどで数人が来ただけ。人が足りない。ボランティアセンターの診療室には、朝から疲労のたまった住民たちが並んでいます。 pic.twitter.com/K38pmHo4Ol
— 朝日新聞編集委員(元南阿蘇➕大槌駐在)東野真和 (@otutichuzai) 2018年7月24日
もっとかけつけやすくして、必要な場所に早く行ってもらうようにできないだろうか。そう思っていると、高校生以下が工作作業をする災害ボランティア集団を率いている松村雅生さんに取材する機会がありました。
東日本大震災の被災地を訪れ、石巻市立大川小の旧校舎前で傷んだ追悼施設を修理したり、岩手県大槌町にある、会えない人に心で伝える「風の電話」の電話ボックスの新調などを手伝っています。松村さんは「ドイツには、国が関与してボランティアを登録し、少額の手当を出しているようだ。日本にもあればいい」と教えてくれました。
ドイツには、THW(連邦技術支援隊)というNPOがあり、日本にはない「内務省」が所管していて、年間200億円ほどの予算があります。
ボランティアの研究を20年以上続けている小野晶子・労働政策研究・研修機構主任研究員によると、THWは、防災、災害救助のほか海外の災害や疫病への国際協力も。「1000人くらいの有給の職員がいて、登録されているボランティアが約8万人。ボランティアは活動したら申請して、実費や小遣い程度のお金をもらう。全国に支部組織があり、トレーニングセンターも持っていて、重機の使い方やマネジメントを学べます」。
ドイツ以上に大災害が多発する日本は、ドイツのような常設の災害に即応する国の機関が必要ではないのでしょうか。もちろん官僚臭は排して、官民連携した柔軟な組織でないとだめですが。ボランティアを統制するのではなく、日頃から訓練でき、迅速に必要な場所に派遣して、安全面でも経済面でも支えて参加してもらいやすくするような機関があるべきなのではと。みなさんはどう思いますか。
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