話題
「ないわーこのセンス」女子高生が10年前のファッション誌を開いたら
10年前のファッション誌って、どんな内容だったんだろう……? そんな疑問を抱いたのは、やたらと「女っぽ」が強調される今の雑誌に違和感を覚えたから。さっそく、2009年の「ViVi」を開いたところ、目に飛び込んできたのは「男ウケ抜群の黒ワンピ」「今年は胸元のあきがpoint!」というアグレッシブな見出したち……。あの頃のパイセンたち、いったいどこに向かっていたの? 17歳の視点でむかーしのファッション誌を読み込んで見えたのは「男だけ」意識していた時代と現代とのギャップでした。(高校生記者・関ゆみん)
私は現在、高校3年生。お嬢様芸人の、たかまつななさんが運営する「笑下村塾」の高校生記者として活動しています。
ある日、ファッション誌の最新号をめくって飛び込んできた「今年の夏は女っぽに挑戦したい」という見出し。
ポニーテールに、肌を大胆に見せるキャミソール。ワイドシルエットのジーンズにピンヒールのサンダルを合わせたコーディネートでモデルの女の子が笑っています。
なるほど、よくわからないが、これが「女っぽ」か。キーワードは「華奢」「タイト」らしい。
試しに私もキャミソールを母のクローゼットから借りてきて、似たようなコーディネートにチャレンジしてみました。
鏡の前に立つと「あれ? 何か違和感」。
肌の露出が多くてなんだか恥ずかしい。そわそわする。
「これって本当に私がなりたい女性像?」
どうして、ファッション誌はこんなにまで「女っぽさ」を求めるんだろう。共通の女性像をおしつけられているんじゃないか?
「女っぽさ」のイメージがどう変化してきているのか気になり、10年前と今のファッション誌を比べてみることにしました。
協力をお願いしたのは、スタイリストの久保田フランソワさん。久保田卓也名義で『大人のための私服の教科書』(飛鳥新社)、『カジュアル好感度アップセミナー』(アルファポリス)などの著書がある専門家です。
調査では、ファッション誌をよく読む高校生記者のマリコさん(仮名)と一緒に10年前の雑誌と最近のファッション誌を比較して、ツッコミを入れる会を開きました。
私たちが驚いたのは「ViVi」の変わりようでした。
2009年1月号には、「男ウケ抜群の黒ワンピ」「今年は胸元のあきがpoint!」などの見出しが並び、紙面には、胸元が大きく開いたミニ丈のワンピースを着た内股のモデルたち。
一方で、2018年9月号には「女っぽ」という言葉は多用されている一方で「男ウケ」などという言葉は出てきません。
胸元はあまり開けず、変わりに背中やおなかをちらりと出し、ズボンのポケットに両手を突っ込み、仁王立ちするモデルが多い。
「non•no」や「JJ」でも、同じような変化がみられました。
久保田さんによれば、「今は男ウケ目的のガッツリな肌見せよりも、男に媚びないようなヘルシーな、さりげない肌見せが主流」だそうです。
そこで素朴な質問
「何でガッツリ男ウケ目線の‘女っぽ’を求めなくなったんだろう?」
マリコさんは「SNSの影響だと思う。男の人だけじゃなくて、女性も含めた不特定多数の人にウケないと満足できないからでは?」と指摘。
「女っぽさ」を見せたい対象が、男中心から女性を含めた大多数に変わっているのかもしれません。
それって、女の子たちが自由にファッションを楽しめているということなの?
一大ムーブメントになった「#Me Too」運動は、世界各地で参加者を集めました。それは、男性の方が優位である状況に息苦しさを感じる女性たちの勇気ある行動だっと思います。
女の子たちが「女っぽ」で男性ウケだけを狙わなくなっているのは、その流れのひとつであり、世の中全体は、いい方向に進んでいると感じていました。
「とはいえ……」と疑問を投げかけたのは、たかまつさんです。
「不特定多数の人よりも男性だけ対象にした方が楽だと感じる人もいるんじゃないですか?」
確かに、みんなに好かれるためにはいろんなところに気を使わなけれいけません。
今は不特定多数の人に注目されることが楽しい私達も、きっとそのうち疲れてしまう。
10年前の先輩たちが、男性から好かれる「女っぽさ」だけを求めればよかったのだとしたら、それはそれで楽そうにも見えます。
でも、そもそも「女っぽさ」という概念があるかぎり、共通の理想像を目指すよう強制されたり、自分に課したりしてしまうことも否定できません。
それが男性に好かれるだけの目的から、不特定多数に注目されるためのものに移っても、本質的にはあんまり変わらないのかもしれません。
これから、女性が自立したり、させられたりする流れは強くなっていくでしょう。私はこの傾向を嬉しく思います。少なくても、他人に自分の人生が左右されるよりも、健全なはず。
それなのに、なぜファッション誌は今も「女っぽ」を求め続けるのでしょうか? 男性のためでもなく、不特定多数のためでもない「女っぽ」はないのでしょうか?
10年後のファッション誌には「女っぽ」の代わりに「自分っぽ」という見出しが踊ってくれることと期待しつつ、母のキャミソールをそっとたたんだのでした。
10年前から見えるファッション誌から見えるトレンド変化、そして「女っぽ」を求めるファッション誌との付き合い方について、久保田フランソワさんに聞きました。
◇
——10年前と今のファッション誌のトレンドは、どのように変化したのでしょう?
10年前といえば、ちょうど押切もえさん、蛯原友里さんに代表される「キレイめOLファッション」全盛期が終わり、今へと繋がる「少しセクシーなカジュアルスタイル」が誰にでもできる普通のファッションとして広まり始めたところ。
そこからの10年で「セクシーな肌見せ」は「ヘルシーな(いやらしさを感じさせない)肌見せ」へと進化し、「強くてハードな黒」が「ビターでリラクシーな黒」へと変化し、色味はハッキリわかりやすいものだけでなく、より複雑で微妙な発色の違いが一般人にも理解されるようになりました。
誌面の作り、レイアウトもそれに応じて変わってきています。 今では当たり前になった「豪華付録つきファッション誌」も、この頃から加熱していきました。宝島社の『sweet』が付録戦略で100万部突破!という衝撃のニュースは今でもよく覚えています。
——10年前と今のファッション誌を比べることで見えてくるものとは?
「今と全く変わらないもの」「少し形を変えて残っているもの」「時代遅れになったもの」が混在しているのが10年前のファッション誌だと感じました。それらを細かく比較、分析することで、10年後に残るファッションや、10年経っても廃れない誌面作りが見えてくるかもしれません。
——今もファッション誌が共通の「女っぽ」を強調する理由は?
「かわいい」では子供っぽいし「色っぽい」では品がない。21世紀に生きるマス層の女性たちがなりたい女性像が「女っぽ」の一言に集約されているのでしょう。
「女っぽい」だと生々しいので「女っぽ」。「ぽ」で終わるのかわいい!あだ名に「~っぴ」「~ぽ」等を好んで使い、彼氏を「彼ピ」と呼ぶのがかわいいと思う、10代後半~20代の感性ですね。
ここ10年くらいはそれが読者層に刺さるんだと思います(それ以前の女性誌には見られなかったワードです)。
——そんなファッション誌との上手なつきあい方は?
一つには「トレンドを取り入れすぎないためにファッション誌をチェックする」ということもあると思います。
高度情報化社会となった2000年以降、アパレルショップは皆競ってトレンドの商品=外さない商品だけを店頭に並べ、不良在庫になるかもしれない「独自性の高い商品」は極力避けています。
つまり、なにも知らずに店で服を買うと「みんなと同じトレンドまみれの服装」になってしまうのです。
時にはあえてトレンド服を避けることで、その他大勢との同質化を回避し「自分らしい」ファッションが見つかるきっかけになるかもしれません。
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久保田フランソワ(くぼた・ふらんそわ)スタイリスト、ブランドプロデューサー、専門学校講師。服を数値化した「K値」でおしゃれを分析・実践するという独自のスタイリング理論を確立し、「30代からのモテ服」「大人女子向けコーデ術」などを分かりやすく解説。著書に「大人のための私服の教科書」(飛鳥新社) 「マンガde学ぶ大人のおしゃれ」(飛鳥新社)「はずさない男の私服コーデ術・1~12巻」(kindle book 他) 「カジュアル好感度アップセミナー」(アルファポリス)など。
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