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世界で唯一?車いすの大統領だから言えること エクアドルからの伝言
エクアドルのレニン・モレノ大統領(65)は、いまの世界では唯一とも言われる、車いすの国家元首です。強盗に襲われて下半身不随となった後に政界へ身を投じ、ノーベル平和賞の候補になったことも。一時は人生に絶望していたというモレノ氏ですが、そのエネルギーの源は、私たちも持っているものでした。(朝日新聞国際報道部記者・軽部理人)
「今後100年で、日本とエクアドルの友好関係がさらに強化されることを願っています」
9月6日、都内のホテルであったレセプション。2018年は日本とエクアドルが外交関係を樹立してから100周年にあたります。これを記念し、モレノ氏は大統領として初来日しました。
会場に詰めかけた参加者からの写真の要望にも、嫌な顔一つせず対応。側近の男性が車いすを押し、移動を手伝っていました。
エクアドルの観光業界で働いていたモレノ氏は約20年前、妻と一緒に行ったパン屋の帰り道で、2人組の強盗に襲われました。
「車と金をよこせ」。そう脅されたモレノ氏は車のカギと財布を差し出しましたが、強盗の1人が背中を銃撃。脊髄を損傷し、両足の自由を失いました。
モレノ氏は当時をこう振り返っています。
入院中のある日、友人や家族が病院へ見舞いにやって来ました。そこでモレノ氏は、あることに気付いたといいます。
笑うことの力を確信したモレノ氏は退院後、「笑いのセラピー(療法)」を実践。執筆や講演の活動で注目を集めるようになります。
10冊ほど執筆した本のタイトルの一つは「笑おう。病まずに」。
2006年の選挙に副大統領候補として立候補し、当選。就任後に真っ先に取り組んだのは、それまで政策として優先順位の高くなかった「障害者支援」でした。
コレア氏が大統領になるまで年約200万ドル(約2億円)だった障害者向けの予算は、1.5億ドル(約170億円)に増額。2008年には憲法を改正し、「障害者に対する差別や非人道的な扱いは犯罪」と明記するなど、障害者の権利を向上させました。
また、各企業が少なくとも従業員の4%を障害者雇用に充てることを明記。約40万人分の車いすや約4000人分の義肢を政府が提供しました。
モレノ氏は当時をこう振り返ります。
モレノ氏は副大統領時代の功績が認められ、2012年にはノーベル平和賞の候補者に選ばれます。残念ながら受賞とはなりませんでしたが、副大統領を退任した後の2013年12月には、障害者支援を担当する国連事務総長特使に就任しました。
そして2017年4月、エクアドル大統領選に勝利したのです。
モレノ大統領はこう呼びかけます。
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