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安納さんからの取材リクエスト

自民党の総裁選、誰に投票したか分かるの?



自民党総裁選、あの議員は誰に投票? 実は「腕の動き」でわかるかも

前回の自民党総裁選でもともに立候補し、国会議員投票の場で投票する安倍晋三氏(左)と石破茂氏=2012年9月、東京・永田町の党本部8階ホール
前回の自民党総裁選でもともに立候補し、国会議員投票の場で投票する安倍晋三氏(左)と石破茂氏=2012年9月、東京・永田町の党本部8階ホール

目次

取材リクエスト内容

自民党の総裁選で、議員が誰に投票したかなんとなくわかるというようなことを記者や解説者がテレビで話していたのですが、それはなぜわかるのでしょうか。また、投票はどのような方法で行われるのですか?
 例えば、投票用紙は候補者を筆記するのですか、丸印などをつけるのです、投票会場はどうなっているのですか、好きな時間にばらばらいっていいのですか、記入しているところを覗かれることことなんてあるのですか、また、開票は誰が行うのですか、そのチェックは誰が、開票がおわったあとで投票用紙は希望者は見ることができますか、誰がどこにどの位の期間保存するのですか。ぜひ知りたいです。教えてください。 安納

記者がお答えします!

 自民党総裁選は9月20日に開票され、現職の安倍晋三首相が石破茂・元幹事長を破り三選されました。投票権のある国会議員は405人。それぞれどちらに投票したのか、わかるのでしょうか。テレビでよく見るあの人や、地元選出のあの人は――。(朝日新聞政治部専門記者・藤田直央) ※9月20日午後5時に更新しました。

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投票先、簡単にはわからない

 誰が誰に投票したかは、実は簡単にはわかりません。無記名投票だからです。公職選挙ではないので法律はありませんが、自民党の「総裁公選規程」でそう決まっています。

 今回の国会議員による投票は、東京・永田町の自民党本部8階のホールでありました。順に舞台に上がって投票用紙を受け取り、「記名台」で意中の候補の名を書きましたが、そこは舞台の奥で左右に仕切りがあり、周りからのぞかれることはありません。

 書いたらすぐ舞台中央の投票箱に入れるので、誰に投票したのかという「投票の秘密」は自分で明かさない限り保たれます。

 この「秘密」が結構大事です。ある議員が誰に投票したかが他人にわかる仕組みだと、その議員は、有力とみられる候補や、自分が属する派閥が支持する候補に投票しなければと気が重くなるでしょう。後で冷遇されたくないからです。でも意中の候補が別にいる場合、「投票の秘密」があればそんな重圧を避けられます。

1964年7月、自民党総裁選で投票を終えた池田勇人首相(中央手前)。その後ろの「記名台」では、自民党の国会議員たちが意中の候補者名を記入。この時の会場は東京都文京区の文京公会堂だった。
1964年7月、自民党総裁選で投票を終えた池田勇人首相(中央手前)。その後ろの「記名台」では、自民党の国会議員たちが意中の候補者名を記入。この時の会場は東京都文京区の文京公会堂だった。 出典: 朝日新聞

「背骨折る」戦い

 総裁選は、特に自民党が政権にある時はほとんど首相選出と同じ意味を持つ厳しい戦いです。特に現職首相が臨む場合は政権が揺るがないよう圧勝を期します。

 2003年の総裁選の前には、現職の小泉純一郎首相が「(ボスに挑む)若いライオンは背骨を折られておしまいだ」と語りました。内輪の会合でしたが、その総裁選に出ようとする議員もいて、その議員が後で私に「小泉さんに言われちゃったよ」と話したのを思い出します。

 だから、とりわけ現職首相に挑む候補や、その候補を支える議員はそれなりの覚悟を持って臨まないといけません。それを支えるのが「投票の秘密」というわけです。今回の総裁選も現職首相の安倍氏に石破氏が挑む構図でしたので、特に「誰が石破氏に投票するか(したか)」を知るのは難しいのです。

2003年に自民党総裁選の所見発表演説会で演説する小泉純一郎首相=同年9月、党本部
2003年に自民党総裁選の所見発表演説会で演説する小泉純一郎首相=同年9月、党本部 出典: 朝日新聞

でも知りたい「誰が誰に」

 でも、各議員の投票行動は報道機関として把握したいところです。どの候補が優位かという事前の情勢や、そこから結局どういう結果になったのかという事後の検証について報道できるからです。また、各候補がどんな議員たちに支持されているかを知ることは、国政に大きな影響力を持つ自民党の中のパワーバランスを理解するのに欠かせません。

 ただ、先ほど述べたように各議員にとって自分が誰に投票したかという情報はとても機微なものです。派閥が特定の候補の支持方針を決めたとしてもメンバーには従いたくない人もいるでしょうし、自主投票となった派閥や無派閥の議員らの支持模様はさらに複雑になります。支持が公になるのは各候補の推薦人に名を連ねた20人ぐらいです。

2001年の自民党総裁選で次々と舞台に上がり、投票する国会議員ら=同年4月、党本部
2001年の自民党総裁選で次々と舞台に上がり、投票する国会議員ら=同年4月、党本部 出典: 朝日新聞

だから徹底取材

 そこで朝日新聞では今回の投票前に、自民党に属する、投票権のある衆参両院の全議員(衆参の議長を除く)計405人に個別の取材を試みました。支持候補を明らかにしたのは387人、未定または明言せずは12人、取材できなかったのは6人でした。

 安倍氏を支持すると答えたのは8割超の337人で、支持を表明した5派閥が中心でした。石破氏を支持する議員は、石破派や、自主投票となった竹下派の参院側を中心に50人。無派閥議員の支持は安倍氏55人、石破氏7人だとわかりました。

 実名で取材に応じる人もいれば、そうでない人もいました。安倍氏支持の5派閥のメンバーでは、一人だけ石破氏を支持すると答えた人がいます。ただ、その議員は取材に応じたのは匿名が前提で、そうした場合は残念ながら読者の皆さんに実名を伝えることはできません。

今回の自民党総裁選で自身の投票について記者団に説明する小泉進次郎氏。誰に入れたのか…=9月20日午後、党本部
今回の自民党総裁選で自身の投票について記者団に説明する小泉進次郎氏。誰に入れたのか…=9月20日午後、党本部

 9月20日に実際に議員投票が行われ、安倍氏は329票、石破氏は73票でした。事前の取材よりも石破氏は23票も多く、安倍氏は逆に8票少ない結果でした。どちらかを決めかねていた議員や、安倍氏に入れると入っていた議員がどう石破氏に流れたのかーー。

 しかし、安倍氏が当選を決めた後に会場を出てきた議員らを同僚が取材しても、石破氏に入れたと明かす人は推薦人以外にはなかなかいません。「投票の自由が妨げられる」と答えを拒む人もいました。小泉元首相の息子で動向が注目された小泉進次郎氏は、投票直前に石破氏に入れると記者団に語りましたが、そんな風にすぱっと言う人はまれです。

議員票の動向を伝える2018年9月12日朝刊(東京本社版)の朝日新聞紙面
議員票の動向を伝える2018年9月12日朝刊(東京本社版)の朝日新聞紙面 出典:安倍首相、議員票の8割超を確保する情勢 朝日新聞調査(朝日新聞デジタル)

派閥は引き締めに苦労

 こんな風に、「誰が誰に入れたか」を取材する側は少しでも「秘密」に迫ろうと懸命ですが、各候補の陣営でも引き締めに躍起になります。特に支持候補を鮮明にした派閥は結束が揺るがないように、メンバーから「造反」を出すまいと苦労します。

 その一つの手として、総裁選のたびに派閥の幹部がよく口にするのが、秘密のはずの投票行動でも「後ろから見ていれば誰に入れたのかわかるぞ」というけん制です。

 投票会場の舞台上で用紙に候補の名を書く時、周りからのぞかれないようになっているのは前に述べた通りです。また、投票の前と後に議員らが座る観客席からも背中しか見えません。なのに、なぜ「誰に入れたのかわかる」のでしょうか。

2006年の自民党総裁選で、舞台奥の記名台で記入してから投票する衆参両院の議員たち=同年9月、党本部
2006年の自民党総裁選で、舞台奥の記名台で記入してから投票する衆参両院の議員たち=同年9月、党本部 出典: 朝日新聞

腕の動きでわかる?

 それは腕の動きから、と言われます。総裁選規程で、投票用紙には候補の「氏名」を書くことになっています。すると、例えば「安倍晋三」と「石破茂」では文字数が違うし、最後の「三」や「茂」の字を書く時の手の運びは明らかに異なります。なので、派閥のメンバーに漢字で候補者名を書くよう指示しておけば、誰に入れたかは「後ろから見ていればわかる」というわけです。

 ただ、実際にそれで各派閥で「造反」をした人が見つかったり、冷や飯を食ったりしたという話は聞きません。最近は派閥の力が弱まっており、まさにけん制にとどまっているのかもしれません。

 私は今回の投票のテレビ中継で、投票用紙に候補の名を書く議員らの後ろ姿に注目しました。腕の動きをなるべく小さくしたり、背中で死角をつくったりしたりしているように見えた議員もいました。議員投票は候補にとってだけでなく、各議員にとっても自分の政治生命を左右しかねない緊迫の場なのだということを、改めて感じました。

自民党発足後、初の総裁を決める臨時党大会が1956年4月に開かれた。今と同じ無記名投票で、鳩山一郎首相が圧倒的多数で選ばれた=東京都千代田区の日比谷公会堂
自民党発足後、初の総裁を決める臨時党大会が1956年4月に開かれた。今と同じ無記名投票で、鳩山一郎首相が圧倒的多数で選ばれた=東京都千代田区の日比谷公会堂 出典: 朝日新聞

議員票+地方票の争い

 ちなみに今回の自民党総裁選の当選者は、国会議員405人と、党費や会費を納める党員・党友約104万人の投票で決まりました。「議員票」は1人1票で計405票。党員らが投じる「地方票」は全体で議員票と同じ405票とされ、各候補の実際の得票に応じて比例配分されました。

 安倍氏と石破氏による計810票の争奪戦の結果は、安倍氏が553票(議員票329、地方票224)、石破氏が254票(議員票73、地方票181)でした。石破氏は地方票で善戦し、議員票でも予想を上回りましたが、それでも安倍氏の半分に届きませんでした。

【朝日新聞デジタルでは総裁選の特集ページを公開中】

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