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2018年09月11日

シャンプー自販機、麺隠すかき氷! 残暑吹き飛ぶ山形「冷やし文化」

  • 1977

自販機になぜシャンプーが!?

自販機になぜシャンプーが!?

出典: 山形県東根市で神戸郁人撮影

 お盆を過ぎ、気付けば9月です。しかし、いまだ気温が30度前後になる日が続いています。そんな残暑を吹き飛ばす「冷やし文化」が、山形県にあることを知っていますか?キンキンに冷却されたシャンプーが買える自動販売機。麺が隠れるほど、かき氷がのった冷やし中華。東北地方の雪国で、なぜ涼感あふれる発想の数々が生まれたのか?現地に3年間住んだ記者が、背景に迫ります。(withnews編集部・神戸郁人)

「つめた~い」ボタン押すとシャンプーが……

 7月中旬に訪れた、山形県東根市の理髪店「ミヨシ理容室」。空の玄関口、山形空港のほど近くに立地しています。その敷地内に、少し変わった自販機があるのです。

自販機に近づいてみると……

自販機に近づいてみると……

最上段に見慣れぬボトルが並んでいます

最上段に見慣れぬボトルが並んでいます

 何の変哲も無いように見えますが、コーヒーや炭酸飲料と一緒に売られているのは、シャンプーとトリートメント。それぞれ約200ml入りで、値段はシャンプーが1000円、トリートメントが1500円です。「つめた~い」コーナーのボタンを押すと、冷え冷えの1本が出てきます。

Vtuberが海外に紹介

 シュールな光景は、どうして生まれたのでしょうか?自販機を設置した植松行雄店長(63)に聞くと、「山形の夏の風物詩を、世界中にPRしたくてね」

 実はこの「冷やしシャンプー」、県民にとってはおなじみの存在です。

冷やしシャンプー体験会での一幕

冷やしシャンプー体験会での一幕

出典: ミヨシ理容室提供

 植松さんによると、誕生したのは1995年。山形市の理容店が、夏場のサービスとして、客の洗髪用に考案しました。「冷やして使うメントール系シャンプー」であれば、種類は不問。清涼感が受け、今では県内300以上の美容室などで提供しているそうです。

 約10年前には、「家庭でも使ってみたい」という客の声から、植松さんが代表を務める「山形県冷やしシャンプー推進協議会」がオリジナル商品を開発。話題づくりになればと、開発と同時期に自販機で売り出しました。国外や県外から、買い求めに来る人もいるといいます。

 同業者からの引きも強く、東京都内の理容店を始め、毎年数千本を出荷しています。今年に入り、CGキャラクターのユーチューバー「バーチャルユーチューバー」(Vtuber)が登場し、国内の話題を英語で紹介する動画に取り上げられたことも。人気はうなぎ登りです。

CGキャラクターの声優アイドルグループ「22/7」(ナナブンノニジュウニ)メンバーで、Vtuberの「藤間桜」が登場する動画。冷やしシャンプーを英語で紹介しています(© 22/7 PROJECT)

出典:ユーチューブ動画「【Brain Freeze!?】SAKURA's NEWS OF JAPAN【22/7】」から

洗髪体験した記者、冷たさに絶叫

 この冷やしシャンプー、一体どんな使い心地なのでしょうか?ミヨシ理容室で、記者が試してみました。

 今年4月まで約3年間、山形市に赴任していた私。「いつでもできる」と思っていたら、結局一度も体験しないまま離れてしまい、悔しがった記憶があります。期待は高まるばかりです。

シャンプーを冷酒用のグラスに入れるなど、店ごとに様々な工夫をしているそうです

シャンプーを冷酒用のグラスに入れるなど、店ごとに様々な工夫をしているそうです

 店内の冷蔵庫を開けると、ガラス瓶などに注がれたシャンプーがずらり。液体は透き通った水色で、涼しげな見た目です。今回は、カクテルシェーカー風の容器に入ったものを使ってもらいました。

 女性スタッフの方が、私の髪を温水でぬらした後、容器内からトロリとしたシャンプーを手に取ります。少し泡立てると、頭をもみ込むように洗い始めました。

 その瞬間、強烈な冷気が頭皮全体に広がります。まるで氷水を、一気に浴びせられたかのような感覚。「うおおおお!」と、思わず声をあげてしまいました。

 トリートメントもお願いしたのですが、これまたヒンヤリ。冷感を覚えるたび、氷の海に飛び込むペンギンのイメージが脳裏に浮かびます。

シャンプーの冷たさに悶絶する記者

シャンプーの冷たさに悶絶する記者

 再び温水で髪をすすぎ、最後にドライヤーで乾かしてもらって終了。血行が良くなったのか、来店前より頭がスッキリしています。疲れも吹き飛んだようです。

 「冷やしシャンプーの物珍しさが、地域のファンを増やすことにもつながっています」と植松さん。知人の理容店には、地元の大学生が留学生の友人を誘い、冷やしシャンプーを体験しに来たこともあったといいます。

 協議会加盟店舗では、9月15日まで冷やしシャンプーが楽しめるそうです。

冷やし中華の究極形、氷ラーメン

 食べて涼しくなる方法を編み出した人もいます。山形市の飲食店「キッチンラーメン濱」で提供している「氷ラーメン」は、その究極形と言えるメニューです。

麺も具も隠れるほど、かき氷がのった「氷ラーメン」

麺も具も隠れるほど、かき氷がのった「氷ラーメン」

 名前こそ「ラーメン」ながら、実はつけ麺風の冷やし中華。キュウリやスイカなど13種類の具、縮れ麺の上に、こんもりとかき氷がのっています。つゆは薄口しょうゆと米酢などを混ぜた自家製で、氷が溶けても風味が落ちないよう、濃いめの味付けです。

氷を崩しながら中身をいただきます

氷を崩しながら中身をいただきます

 本間恵店長(72)がこのアイデアをひらめいたのは、店を開いた1973年でした。調理室内にはクーラーが無く、夏になると気温は40度近くに。店員が休憩時間に涼をとれるよう、まかないの冷やし中華に、かき氷をかけたのが始まりといいます。

完成したばかりの冷やし中華、これにかき氷をかけます

完成したばかりの冷やし中華、これにかき氷をかけます

かき氷製造器は、1973年の開店当時から使われているそう

かき氷製造器は、1973年の開店当時から使われているそう

氷まみれの冷やし中華を手に、ほほ笑む本間さん

氷まみれの冷やし中華を手に、ほほ笑む本間さん

 県内ではその頃、同市のそば屋「栄屋本店」が発祥で、冷たいスープに氷を入れた「冷やしラーメン」が流行。メニューを差別化するため、夏季限定で氷ラーメンを出し始めました。以来、「猛暑を乗り切る支えになる」と人気を博しています。

 一日10食の販売ですが、評判を聞きつけ、関東地方などから来店する人もいるそうです。「食べた後に体が冷えすぎて、温かいラーメンをほしがる人も少なくない」と笑う本間さん。今年は8月末で提供を終え、常連客に「来夏をお楽しみに」と伝えています。

「つったい」文化、背景に日本一の酷暑

 独自の進化を遂げた、この「つったい」(地元の言葉で「冷たい」の意味)文化。花開いた理由については、諸説あります。有力なのは、雪国のイメージとは異なる、夏場の酷暑です。

 県内陸部には、主要な盆地が三つ点在。県庁所在地である山形市も、スキーの名所・蔵王山などに囲まれた「山形盆地」に位置します。夏場は山の斜面を暖かく乾いた空気が下降する「フェーン現象」が、たびたび発生し、高温になりやすいのが特徴です。

山形市で毎年8月に開かれる「花笠まつり」、一糸乱れぬ踊りが夏の訪れを告げます

山形市で毎年8月に開かれる「花笠まつり」、一糸乱れぬ踊りが夏の訪れを告げます

出典: 朝日新聞

 山形地方気象台によると、同市では1933年7月、40.8度の最高気温を記録。2007年8月に岐阜県多治見市、埼玉県熊谷市が更新するまで、全国首位の座を独占しました。暑さを克服する努力が実を結んだ、と考えられています。

 涼しさを演出する郷土食も、数多くあります。ナスやミョウガといった夏野菜を刻み、めんつゆなどと混ぜる「だし」。炊いたご飯を冷水で洗い、漬けものを添えた「水まんま」。冷蔵庫が普及していない時代は、井戸で冷やしてから食べる家庭も多かったそうです。

家庭ごとに独自の味付けがあり、豆腐やごはんにかける「だし」

家庭ごとに独自の味付けがあり、豆腐やごはんにかける「だし」

出典: 山形市観光協会提供

水洗いで米のぬめりをとり、新鮮な状態を維持した「水まんま」

水洗いで米のぬめりをとり、新鮮な状態を維持した「水まんま」

出典: 山形市観光協会提供

 地域文化に詳しい、山形大学エンロールメント・マネジメント部の山本陽史教授(日本文化・日本文学)は「高温多湿な気候に悩まされながらも、住民は季節感を味わうための工夫を重ねてきました。そうした県民性が影響した部分もあるのでは」と話しています。

取材を終えて

 私自身、山形県に住んで最も驚いたのは、真夏の暑さでした。自宅でクーラーを使いすぎ、電気料金の請求額に目を疑ったことも、一度や二度ではありません。「雪深い地域だから、年中涼しいだろう」。そう安易に考えていただけに、衝撃を受けたことを覚えています。

 猛烈な暑さを我慢するだけではなく、遊び心をもって楽しもうとする思想こそが、冷やし文化の本質だと思います。取材を通じ、先人たちの豊かな発想力に、敬意を抱きました。

 台風の影響もあり、全国的に水害関連のニュースが目立った今夏。山形県も2回の豪雨に見舞われ、河川が氾濫する様子などが報じられました。私が赴任していた時期と比べ、天変地異の影響は、確実に強まっていると感じます。

 時に猛威を振るう自然と、いかにうまく付き合っていくか。冷やし文化を始めとした、環境との共生を考える営みに、そのヒントがあるかもしれません。

シャンプー自販機、麺隠すかき氷! 残暑吹き飛ぶ山形「冷やし文化」
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「ミヨシ理容室」敷地内の自動販売機で販売されている冷やしシャンプー
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出典:山形県東根市で撮影
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