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バレエ国際コンクールって何がすごい? この面白さ知らないのは損!
敷居が高い娯楽の中では、クラシック音楽と並んで手ごわそうなのがバレエです。時々、国際コンクールで日本人受賞者が出ると「すごいなあ」と思うけど、何がすごいのかは「……」という人も多いはず。台詞も説明もなく進む舞台、と思いきや!そこで繰り広げられる愛憎劇、肉体美、斬新な演出の面白さを知らないのは、あまりにもったいない。まだ間に合うバレエの楽しみ方を紹介します。(朝日新聞文化くらし報道部記者・高久潤)
――国際コンクールの入賞って何がすごいんですか?
「今年7月、バルナ国際バレエコンクールで日本人4人が入賞したことは、世界第一線で戦えるバレエダンサーとして『お墨付き』をもらえたというすごさがあります。もちろん完全に将来が約束されるわけではありませんが、本場の有名バレエ団からの注目が大いに集まります。一方、日本でも知名度のあるローザンヌ国際バレエコンクールは、その時点での実力だけを競うものではありません。スター性や音楽を感じるセンスなど将来性も評価する。これからプロになろうとする若手のみが対象です。コンクールでの結果が有名バレエ学校への奨学金の獲得にもつながります」
「まとめると、バレエのコンクールは、ローザンヌのようなプロになる前の若手のみを対象としたものと、プロも参加できるものに分けることができます。バルナ国際バレエコンクールは、後者に当たります。米ジャクソン国際(4年に1回)、ロシアのモスクワ国際(4年に1回)も同様のタイプとして有名です」
「いずれにせよニュースでよく取り上げられる有名な国際コンクールは、審査も長丁場で、舞台での演技力だけでなく体力や精神面の強さが問われます。入賞できるというのは、ざっくり言えば前者なら特に『将来性』、後者なら『即戦力』が評価されていると考えてよいでしょう」
「そして順位も大事ですが、厳しい環境の下、『どのような演技を見せたか』が大切です。コンクール会場には、世界的に有名なバレエ団・バレエ学校の関係者も顔を揃えます。舞台で実力を発揮してその才能が認められれば、スカウトの声がかかるなど、次のキャリアにつながることも多い。一旗あげて業界での注目を一気に集められるのが権威のある国際コンクールなんです」
――にしても、あの「乙女チックな世界」がちょっと……
「バレエって、ふわふわした衣裳を着たバレリーナが、おとぎ話や夢の世界を表現するものでしょ? バレエになじみのない人からはそんな声が聞かれることがあります。男性ならなおさらです。でも、それは有名なチャイコフスキー作曲のバレエ『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』の印象が強いからです」
「手はじめに、名作の人気場面を集めたガラ公演に足を運んでみてください。バレエの在り方は実に多様なことが分かります。例えば、15日まで都内で開催されていた『世界バレエフェスティバル』。3年に1回、世界の大スターが集結する見応えのある公演です。夏は他にも、初心者でも楽しめる華やかな公演が目白押しです」
「26日まで開催されている『めぐろバレエ祭り』は、地域の人たちにバレエを気軽に体験したり、親しんでもらうための複合イベント。期間中には、クラシック・バレエの父といわれるマリウス・プティパの生誕200年を記念した『夏祭りガラ』(24、25日、東京・目黒のめぐろパーシモンホール)も開催されます」
――結局、ストーリーは、おとぎ話なんですよね?
「確かにお姫様や妖精はよく登場し、おとぎ話をモチーフにした名作が目立つことは事実です。でも、けっしてそれだけではありません」
「実はバレエ作品には、昼ドラも顔負けの男女の愛憎劇が多いのです」
「巨匠と呼ばれるジョン・クランコが振り付けた『オネーギン』もその一つです。終幕のパ・ド・ドゥ(2人の踊り)は、主人公オネーギンが、かつてラブレターをビリビリに破いてフッた女性に遥かなる時を超えて愛の告白をしに行く場面。その結末は、当然ながらラブレターをビリビリに破り返されて終わります。しかし、これを踊りにするとこの上なく美しいのです。本当です」
「今年11月に来日するシュツットガルトバレエ団が全幕を公演するので、ぜひ注目してみてください」
――男性は「白タイツの王子様ばかり」という印象です。
「『お姫様ばかり』も偏見ですが、『白タイツの王子様ばかり』もとんだ間違いです」
「例えば『海賊』という作品に登場するアリという役は、バレエを習う男子の憧れの的です。美しい筋肉を見せつける衣裳、ときに客席をどよめかせるアクロバティックなジャンプや回転。細かい技術について詳しくなくても、力強さとしなやかさが同居する“男らしさ”を目撃できます」
――バレエって能とか狂言級に伝統芸能感があります。
「そんなことはありません。コンテンポラリー作品(現代作品)も熱いです」
「バレエをベースにしながらも、身体や音楽の使い方に振付家のオリジナリティーが加わることで、全く異質で斬新な世界が立ち上がります」
「例えばべジャールという振付家は『春の祭典』という作品で、発情した鹿からインスパイアされたという予想の斜め上をいく振付で観客の度肝を抜きました」
「肌に合わないと眠くなることもあるかもしれませんが、『かっこいい』『新しい』と感じたポイントについて『なぜそう感じるのだろうか?』と思いを巡らせてみると、自分のセンスも研ぎ澄まされてきます」
◇
8~9月にかけては他にも注目のガラ公演が目白押し。スターダンサーが集まる公演は多少チケット代も張るが、モノは試しということなら、全国各地で開催される少年少女向けのバレエコンクールをのぞいてみるのもおすすめです。将来世界に羽ばたく逸材が見つかることもあります。
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