コラム
「リアル○○」なぜ広まったのか バーチャル隆盛で逆転現象起きた?
気づいたときには広まっていて、ふとした瞬間から気になってしまう言葉。筆者にとっては「リアル書店」がそうでした。
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気づいたときには広まっていて、ふとした瞬間から気になってしまう言葉。筆者にとっては「リアル書店」がそうでした。
【ことばをフカボリ:17】
気づいたときには広まっていて、ふとした瞬間から気になってしまう言葉。筆者にとっては「リアル書店」がそうでした。街にある本屋さんを指す言葉ですが、「書店」だけで十分だったのに、最近あえて「リアル」をつけてそう呼ばれています。この「リアル」って何なのでしょう。調べてみると、日ごろよく使っているあの言葉、この言葉とのつながりも見えてきました。(朝日新聞校閲センター・米田千佐子/ことばマガジン)
多くの国語辞書は、見出し語として「リアル書店」を載せていません。
2012年に出た大辞泉(第2版)にもありませんが、ネット版のデジタル大辞泉では、見出し語になっています。いわく、「実店舗をもち、実際に書籍や雑誌を並べて売っている店。現物を手にとることができる書店。ネット書店に対していう」。
14年改訂の三省堂国語辞典(第7版)は、リアルの用例に「リアル書店」を加えました。その語釈の説明として「21世紀になって広まった言い方」と入れています。
街の本屋を指す「リアル書店」が朝日新聞の全国版で最初に使われたのは00年末の読書面。フリーライターの永江朗さんが、ネット書店サイトが増えた業界を振り返る記事で使っています。その後、08年からは1年間に複数の記事で使われています。
「リアル店舗」という語も、初出は05年。こちらも09年ごろからコンスタントに登場するようになっています。いずれも、ネットショッピングの急速な普及が背景にあります。
ある町全体やショッピングセンター、テーマパークなど、様々な場所で実際に宝探しをする「リアル宝探し」。事業展開するタカラッシュ(本社・東京都)に、「リアル」にこめた思いを聞いてみました。
広報によると、従来子ども向きのものと思われていた宝探しは「大人が本気で夢中になれる遊び」だという思いが事業の根本にあるそうです。
「リアル宝探し」という言葉を使うようになったのは13年ごろから。「リアル」をつけることで、「本格的な」「子どもだましではない」という本気度を表しているんだとか。
もちろんその本気は、企画の準備でも発揮されます。開催する地域や施設にあわせたストーリーや宝の地図を用意。宝箱などにも凝って、架空の世界のものとも思える宝探しの現実感を高めることに、徹底的にこだわるそうです。
「リアル○○」のように、もともとあった言葉が、時代の変化などに伴い、別の言葉を載せて区別される例は、実はこれまでにもありました。
エレキギターの登場で、元の「ギター」が「アコースティックギター」となり、携帯電話の普及で、それまでの「電話」が「固定電話」と呼ばれるようになりました。
ガラケーは、従来の携帯電話が「ガラパゴスケータイ」と呼ばれるようになったのが縮まった表現。この20年ほどで電話だけでも複数の新たな言葉が生まれたことがわかります。
「現代用語の基礎知識」の執筆者の一人で、新語ウォッチャーのもり・ひろしさんによると、こうして生まれた新たな呼び名は、「レトロニム(再命名語)」と呼ばれます。
もりさんが初めて遭遇した「リアル○○」は02年の「リアルショップ」。「ネット書店が街に書店を開く」というニュースを伝える記事だったそうです。そのころ検索エンジンで調べると1万5400件のヒット数だったといいますが、今春の取材時には400万件もヒットするように。
最近もりさんが見つけた不思議な「リアル○○」は、ファッションショーの「ランウェイ」に対する「リアルウェイ」。ファッション雑誌で見たそうです。こちらは、ショーのような非日常の空間ではないところでの、実際の着こなしについて取り上げる際に使われているようです。
レトロニムは「社会の変化に伴う、ものの盛衰の境目に現れてくる」ともりさん。「次にどんなリアル○○が出てくるのかに注目すると、社会の変化の最先端を実感できるのでは」と提案します。
あなたも、周りにどんな「リアル○○」があるか、探してみませんか。
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